メルケル独首相ほど中国と良い関係を保ち、中国から誉めたたえられている先進国の首脳はいない。当然、ドイツの他の政治家はもちろん、主要メディアも、本当に的を射た中国批判はしないことで知られている。
しかし、そんなドイツで、ほぼ唯一、中国について、堂々と他紙とは違った認識を著す主要メディアがWelt紙だ。Welt紙は、人権問題も、香港問題も、最近ではコロナの問題でも、中国に遠慮はしない。
そのWelt紙のオンライン版(6月9日付)に、「『本質的な問題はメルケルの中国政策である』」というタイトルの記事が載った。タイトルの下にある写真は、メルケル首相と習近平主席が、両国の国旗の前で握手をしている写真。
この記事がなぜ斬新かというと、これまで同紙は中国で起こっている理不尽を報道していただけだったのに比べて(それだけでも立派だが)、今回は、中国の横暴に歯止めがかからなくなっているのはメルケルの対中政策が原因であると指摘した研究者のことを紹介しているところだ。
これは、ドイツでタブーの中国批判だけにとどまらず、やはりドイツでタブーのメルケル批判でもある。あまりに衝撃的だったので、今回は、この記事を紹介したいと思う。
このドイツ人研究者はアンデレアス・フルダ(Andreas Fulda)氏。現在、英ノッティンガム大学の助教授だ。専門は民主主義政治で、ヨーロッパと中国の関係を研究しており、中でも独中関係に特化している。博士論文のテーマもそれだった。
21世紀の初め、中国はまだドイツ人の興味の対象ではなく、北京で起こっていることがドイツに影響を与えるなど想定外。政治家たちの間でも、「中国」は票にならないというのが常識だった。ところが今では、経済政策も、インフラ建設も、もちろん国際機関での駆け引きにおいても、すでに「中国の呼吸の一つひとつをドイツが気にしている」とフルダ氏。
そうするうちに中国はその政治的性格を変え、デジタルによる監視、少数民族の抑圧、香港自治の無視と、全体主義国家としての完成を遂げつつある。
「さらに大きな問題は、中国のこの変容がドイツの政治家に認識されていないこと」。「ベルリンでは北京を今なお“戦略的パートナー”とみなし、中国の全体主義的傾向について言及することを徹底的に避けている」。
ドイツの対中政策の肝は、以前から“交易による変革”だ。これは、商売をしているうちに、中国もだんだん国を開かなくてはならなくなり、自然に民主化されていくという理論。しかし、それが誤りだったことは明らかだ。フルダ氏いわく、今や「ドイツの対中政策は現実から遊離してしまった」。