第三王女の婚約者   作:NEW WINDのN

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邂逅2

「·····ジルクニフ·····様。私達は、新婚旅行で来ただけですよ。そうですね、今後の為に一度帝都を見ておきたかったのです。ここは明るく治安もよい素晴らしい都市ですね」

 悟はそう答えたが、ジルクニフは微かに笑みを浮かべるだけだった。

「今後のエ・ランテルの領地運営の参考にさせていただきます」

 これは悟の偽らざる本音だった。

 

「そうか。それは本当にエ・ランテルだけなのかな?」

 噂を鵜呑みにすることなどはないが、火種があるからこそ噂が燃え広がるのも事実。実際、後継者の定まらない王国の4人の後継候補の一人が今目の前にいる。

 ジルクニフは、集められた情報を元にそれぞれを次のように評価している。

 

 第一王子バルブロは武勇に多少優れるが、所詮は、籠の中の虫にすぎない。虫のなかでちょっと強いだけであり、戦争などでも気にする価値もない。また知性、品位にかけており、ジルクニフの評価は芳しくないというより最低ランクである。底辺も底辺。愚物としてか見ていない。

 計画通りに王国を併呑できた場合は、王国の恥部の象徴·····いや罪の象徴として、斬るつもりだ。もちろん、大衆の前で公開処刑する。

 

 第二王子ザナックは、見た目はイマイチだが、頭は良いと聞いている。これまでは支持者が少なかったが、最近急に支持が集まりだしている。

 バルブロに継がれるより、この方が厄介な事になるとは思っているが、大した問題ではない。

 ザナックにはカリスマ性はなく、武芸にも乏しい。よって圧倒的なリーダーにはなれないだろうし、軍事面でも脅威にはならない。

 内政には向いているから、維持期や発展期の国なら良い支配者になるかもしれない──いやなったかもしれない──が、現在末期を迎えている王国を建て直し改革するほどの力はないだろう。

 本人が望むかはわからないが、治世者の一人として、陣営に迎えても悪くないと思っている。

 

 第一王女の婿ペスペア候は、温厚かつ領地を安定させて運営させている。ソツがないが、これといった特徴もない。それなりの王にはなるかもしれないが、実子二人を差し置いて後継者になる可能性はまずないだろう。一応候補の一人というだけである。

 

 そして、最後の一人は今目の前にいる。美貌で評判の第三王女ラナーの婚約者として、いきなり名前が売れだした城塞都市エ・ランテルの領主、ナザリック候。

 これまでノーマークだった人物だが、俄に評価が急上昇。すでに色々な改革を領地で実践し、成功している。知恵袋であるラナー王女あっての改革かもしれないが、成功している事実は無視できない。もし、王国全土を支配したら、脅威になるかもしれない相手だ。

 

「私は一領主にすぎませんから」

 謙遜ではなく、心の底からそう思っているとしか思えない話し方だ。

(·····油断できない。こいつは何を考えているのだ? 絶対他の意図があるはずだが·····)

 ジルクニフは鍛えられた観察眼でそれを探るが、読めない。

 

「サトル、あのことをお話しては?」

 沈黙を破ったのはラナーである。

「あのこと?」

「はい。私達は一つお願いがあってここにきたのですわ。残念ながら、王国を禅譲するという話ではないのですが·····」

 ラナーは言葉を切り、悟へ目線を送る。

「代わりになるかはわかりませんが、十分魅力があるお話ではないかと思います」

 悟は力を込めた目線をジルクニフへと送る。

「ほう·····。一国を譲るほどではないにせよ、魅力がある話だというのか。聞こう」

 さて、どのような話か·····ジルクニフは興味をもった。

 

「私としましては、ジルクニフ様と友誼を結びたいと思っております。王国とではなく、私とジルクニフ様の個人的な友誼ですね」

「個人的な友誼だと? 面白い事を言うな。こちらの望みを理解しているうえで、そう言ってくるのかな?」

 ジルクニフというより、帝国からすれば肥沃な土地をもつ王国を併呑し、強大な帝国をうちたてる狙いがある。

 

「もちろんです。ですが、何も戦争だけが正解ではないでしょう? 私は、貴方に利益をもたらす事ができます。正確には私とラナーならという事ですが」

「夫だけでなく、この私も微力ながらお手伝いさせていただきますわ」

 問題はどのような利益をもたらす事ができるかなのだが·····。

 

「では、聞こう。モモン、君と仮に友誼を結んだとする。どのようなメリットが我が帝国にあるというのだ?」

 ジルクニフの認識では、王国はすでに死に体だ。あと一押しで潰す事ができる。わざわざここで友誼を結ぶ必要などはないだろう。

(しかし、モモンはともかく、あの黄金がそれを理解していないはずはない。いったい何を考えているんだ。相手が黄金でなければ、悩む必要すらないのだが·····)

 情報が少ないナザリック候に、あの黄金ことラナー王女が絡む。だからこそ、慎重に見極める必要があるのだ。






また次回へ。
倍は書きたいけど書けませんでした。じっくりと御付き合いください。
次回はサトラナ成分を増量したいな。
ジルクニフがメインになってしまったので。

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