新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の院内感染が発生し、4月30日時点で133人の感染者が確認された、なみはやリハビリテーション病院(大阪府大阪市)。感染対策の支援に入った厚生労働省クラスター対策班がまとめた報告書によると、院内感染の拡大は医療資材の不足も一因だったことが明らかになった。また、5月以降に発生した2人の病院スタッフ感染例は濃厚接触者だったことに加えて、資材不足の下で吸引処置を行っていたことも判明した。
なみはやリハビリテーション病院で、看護師の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が明らかになったのは4月14日だった。その後も院内での感染者の判明が相次いだため、4月17日以降、回復期リハビリテーション病棟である2つの病棟を中心に、入院患者や病棟スタッフ、リハビリテーションスタッフらを対象にPCR検査が行われた。その結果、4月30日時点で病院スタッフ71人、出入り業者3人、入院患者59人の計133人の感染が確認された。
院内感染対策の支援要請を受けた厚生労働省クラスター対策班は、4月20日から現地調査に入った。4月30日時点での情報に基づき、COVID-19患者の発生状況、接触者調査、感染源の遡り調査、院内感染伝播経路調査などの結果をまとめ、5月24日付で報告書を発表した。
それによると、発症日ベースでのCOVID-19患者の発生は、4月3日に入院患者の1人が発症し、4月10日には10人以上の発症があり、4月11日には20人のピークに至った(図1)。最初の感染例が判明したのは4月14日だが、この日までに発症者が80人近くに上っており、院内感染発生の探知に時間がかかっていたことが分かる。
SARS-CoV-2の持ち込みルートについては、4月3日と4月8日に発症していた入院患者2人が発端者と考えられたが、いずれの症状(発熱)も原疾患によるものかCOVID-19によるものかは「はっきりしない」とし、「感染が持ち込まれたルートは断定困難である」と結論付けた。COVID-19には無症候の感染者も多く存在することから、患者やスタッフのCOVID-19症状を探知できず、「この時点で感染力のあったCOVID-19患者が院内にいた可能性や院内への複数の持ち込みも否定はできない」というのが理由だった。
その上で、院内感染が拡大した要因としては以下の5点の可能性を挙げ、医療資材の不足も一因だったと明記した。COVID-19の第2波に向けて各医療機関は、SARS-CoV-2の紛れ込み例や持ち込み例からの院内感染発生のリスクに備え、特に医療資材が不足した場合への対処法を検討しておく必要がある。
(1)原疾患などの影響で本疾患の発症の把握が困難であり、探知の遅れがあった
(2)サージカルマスクや消毒用アルコールなどの医療資材の不足もあり、スタッフにおける患者に接する前後での基本的な感染予防策が不十分となっていた箇所が存在した(特にケアやリハビリなど、同じ病棟内で患者間を横断する手技や施術があった際に感染予防策が徹底されておらず、スタッフが患者間の感染を媒介した)
(3)病棟でのリハビリテーション施術の際の接触に伴うものや診療や清掃、社会福祉資源などの調整のために病棟横断的に対応を行うスタッフが患者間やスタッフ間の感染を媒介した
(4)リハビリテーション室などの中央での施術やケアが感染を媒介した
(5)スタッフ間で、食堂や休憩室、ロッカーやスタッフステーションにおいて、食事や飲水の際にマスクを着用せずに会話をするなどの濃厚接触があった
濃厚接触者のスタッフが吸引処置
報告書は補足として、5月以降に発生した2人の病院スタッフの感染例についても触れた。その中で、2人は「当初の濃厚接触者であった」とし、さらに「資材が不足していた状態で、感染入院患者の吸引処置などのリスクの高い処置に多くかかわっていた」と明かした。その上で「リスクの高い処置が必要な場合は、資材等の早急な補充が必要であることも重要である」と締めくくっている。
なお、大阪市長の松井一郎氏は6月10日の会見で、なみはやリハビリテーション病院で起こったクラスターと同じことが、これから第2波、第3波の時に起こらないように、大阪府と大阪市一体でマニュアルを作って徹底していきたい、などとコメントしている。