「約25年前、私がまだ医学生だったころ、医学部の教員から『これから感染症を専門にする奴は時代遅れだ』と散々言われました。当時、抗ウイルス薬なども少しずつ出てきていて、『もう感染症なんか問題じゃない』『これからはがんや循環器疾患がメインだ』と言うのです。
そんな頭の固い、医学界の偉い方々のせいで、日本はいま崖っぷちに立たされているんじゃないかと思います」(帝京大学大学院公衆衛生学研究科教授・高橋謙造氏)
新型コロナと院内感染は、文字通り「死の組み合わせ」であることがハッキリした。各都道府県の発表によると、4月14日までに新型コロナによって国内で死亡した 162名のうち、実に2割超に当たる36名が病院内で感染していたことがわかったのである。
日本の医師、看護師の優秀さは世界トップクラスであることは間違いない。では、なぜこんなことになってしまったのか。
新型コロナの院内感染には、主に2つのパターンがある。一つは、無自覚の感染者が一般病院に行って、医療従事者や患者にうつすパターンだ。
「新型コロナの場合、無症状の患者さんから医療従事者への感染というのが、院内感染の主な原因になっていると思います。サージカルマスクなどを装着することで、院内感染の可能性を低くすることはできますが、ゼロにすることは不可能です」(山形大学医学部附属病院教授・森兼啓太氏)
こうした無自覚感染者から、院内の防護態勢を強化することで、医療従事者を守るのが、感染症専門医やICD(インフェクションコントロールドクター)の仕事だ。前者は日本感染症学会が認定する感染症のスペシャリストであり、後者は院内感染対策を専門に扱う医療従事者のこと。
感染症専門医は日本には1500~1600名がいるとされている。しかし、この数字は実情とは異なっているという。