かつて中国では、「もうご飯を食べた?」と挨拶代わりに使われた時代があった。やっと深刻な食糧不足から脱したばかりの1980年代、食卓に様々な種類のおかずが並び始めた時期のことだ。人々が顔を合わせれば、話題の中心は食事。それが人々の最大の関心事だった。
まさに挨拶が世相を反映していたわけが、都市封鎖から1か月半が過ぎた武漢市でも、新たな挨拶の流行が生まれていた。
「もう、PCR検査は受けた?」である。
この挨拶の背景にあるのは、4月から中国で行われた、とんでもない量の「大量検査」だ。4月8日、封鎖が解除されるのと前後して武漢で6人の新規感染者が発見された。これを重く見た当局は、およそ900万人を対象にPCR検査を行うことを決断、実行したのである。
およそ20日間で検査を終えた人数は990万人に達した。感染封じ込めの対応としては、凄まじいレベルの話題だが、不思議なことに日本ではほとんどニュースにもなっていない。
おそらく中国のすることに信頼がおけないのか、政治体制が違い過ぎて日本が参考にすべきケースではないと判断されているのか。
だが後者の理由だとすれば、参考にならないはずはない。
例えば、改めてほぼ全市民にPCR検査を行ったことによって確認された無症状感染者に関する情報だ。990万人のなかで無症状感染者は300人であった。これは一つの目安になろう。