伊藤詩織×石川優実「誹謗中傷をする人と、リアルな場でなら話をしてみたい」
日本での#MeTooの火付け役となった伊藤詩織さん、#KuTooの発起人である石川優実さん。SNSの声を追い風にムーブメントを起こしてきた二人。一方で、その大きな影響力の裏で、いわれのない誹謗中傷も多く受けてきました。木村花さんの訃報を受け、オンライン・ハラスメントにどう対応していくべきか、伊藤さんが自身の体験を交えながら、石川さんにテレビ電話でインタビューをしました。
日本での#MeTooの火付け役となった伊藤詩織さん、#KuTooの発起人である石川優実さん。SNSの声を追い風にムーブメントを起こしてきた二人。一方で、その大きな影響力の裏で、いわれのない誹謗中傷も多く受けてきました。木村花さんの訃報を受け、オンライン・ハラスメントにどう対応していくべきか、伊藤さんが自身の体験を交えながら、石川さんにテレビ電話でインタビューをしました。
伊藤:石川さんは誹謗中傷に対しても、リプを送っている印象があるのですが、なぜですか。
石川:自分的にはそういう人たちと対話をしている気持ちはないんですよ。誹謗中傷を引用リプすることで、表にだすことが目的です。というのも、誹謗中傷って賛同者からは見えにくいのかなと思っているからです。
木村花さんの場合も、木村さんを知っていて、インスタもツイッターもフォローしていても、誹謗中傷を受けていることを知らなかった人が、たくさんいたんじゃないかなと思います。
石川:私もフォロワーさんに「リプが多いと賛同者が多いってことなのかなと思っている。リプをいちいち開いてみることはない」と言われてびっくりしたことがあります。確かに自分も、他人のツイッターのリプ欄を見ることってないかもなと。ということは、リプ欄が荒れていることに気づくのって本人と、中傷している人だけ。放っておくと、賛同者の知らないところで、デマが広がってしまうんです。
見える化したことで、賛同者のなかに一緒に戦ってくれる人がいたのはうれしかったですね。あと、ちゃんと怒っていることを表明できた。そうしなかったら、中傷している人は、悪いことをしているという認識ももてなかったかもしれない。
伊藤:確かに見える化っていうのはすごく大事だなと思います。ただ、見られたくない中傷もありますよね。団結力のあるコミュニティが一丸となって、中傷してきたときのリツイートの数をみるとすごく恐怖を感じます。それをわかったうえで、自身で見える化していくのは、とてもエネルギーのいること。でも、そうしないと味方の人に困っていることが伝わらない……つらいですね。道ばたでいじめられていたら「大丈夫?」って助ける人は多いと思うのに、オンライン上だとスルーされてしまうから……。
石川:自分の方に矛先が向いたら怖いっておもうのかなと思います。それはでも、いじめと一緒で、無視するのもいじめっこの一部だと思います。差別もそうで、黙っているのは中立でもなんでもない。その意識をもって、一緒に戦ってくれたら数でも負けないし、気持ちも保てるんじゃないかなと思います。
伊藤:数として一番多いのは被害者でも加害者でもなく傍観者なんですよね。でも、見てるだけっていうのは加害していることにもなると思う。
石川:中傷する人たちって主語がでかいんですよ。「“みんな”嫌ってますよ」っていう言い方をする。だから、どうしても「孤立してる」って思い込んじゃう。そういう人たちに立ち向かうには、同じだけの数の味方が必要だと思います。具体的には、私の場合は「そういうのはやめろ」とか「嫌がらせするな」「通報します」と加勢してくれるとうれしいです。
私はいまでも、中傷リプに対して「通報します」と初めて言ってもらえたときのことを覚えています。それまで、ずっと自分に責任があると思っていたので、その一言が、すごくうれしかったんです 。
詩織さんと以前、対談させていただいた時に、海外では反対意見の反対意見もたくさん出るっていう話をしていましたよね。日本ではそういう雰囲気が全くないのはなんでだろう?怒り慣れてないからなのかな。
伊藤:議論の仕方を知らないっていうのもあるかもしれませんね。
石川:子どもの頃から自分の意見をいう機会がないですもんね。特に女性は「主張するな」という教育をうけるし。
私が「みんな一緒に怒ってよ!」と強く言えない理由のひとつには、一緒に傷ついているひともいるのかなと思うからです。私への誹謗中傷をみると、同じ思いの方たちは、自分に言われているように感じちゃうんじゃないかなって。
例えば、先日、出版社の編集者がライターにセクハラをしていたということが報道されましたよね。あれなんか同じ経験をしている女性が多いからこそ、怒りにくかったのかなと思います。SNS上の「あんなのセクハラじゃねぇだろ」っていう声を見て、自分と重ね合わせてつらくなってしまった人もいたと思います。
だからこそ、男性がもっと怒ってほしい。「だめでしょそれは。セクハラでしょ」って。男性同士の連携もあったらいいのになって思います。
石川:私はさっき「誹謗中傷と対話する気ない」と言いましたが、それはあくまでツイッター上の話です。140字でやりとりするのは無理があると思います。ただ、リアルな場でしたら、話してみたいなって思うんです。
伊藤:それは私も思います。何を考えているのか知りたい。ミソジニーの発言をしている人は、社会に不満を持っているっていう調査結果もあるそうです。自分の生活が大変で、話を聞いてほしい、っていう人もいるのかなって思っています。
石川:でも、それを受け止める先は私じゃないよね。気楽に連絡できる場所を用意すべきだなって思います。個人の問題にしないで、社会がなんとかしてほしい。
伊藤:コロナがあって、少しずつ自分たちの生活が政治と結びついているって考える人たちも増えてきたかなって思います。
石川:#KuTooを始めてから「自分の生活と、性差別が繫がっているのに気づいた」といってくれた人もいます。全部つながっているんですよね。気づきにくくはなっているのですが、わかりやすい例を定期的にだしていくことも大事なのかなと思っています。オンラインハラスメントもそのひとつ。これも自分事として考えるひとも増えてきたかなと思います。
1987年生まれ。2017年末に芸能界で経験した性暴力を#MeTooし、話題に。2019年職場でのパンプス義務づけ反対運動「#KuToo」を展開、世界中のメディアで取り上げられ、英BBC「100人の女性」に選ばれる。
日本でのMeToo運動が広がるきっかけを作った伊藤詩織さん。「声をあげた性被害者」としての一面に焦点が当たることが多いですが、連載「No Labels」では、「こうあるべき」「こういうひと」にとらわれずに、日々の取材のなかで考えたこと、伝えたいことを綴っていきます。
かがみよかがみは「私のコンプレックスを、私のアドバンテージにする」をコンセプトにしたウェブメディア。
コンプレックスをテーマにしたエッセイ、インタビュー、コラムを提供しています。
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