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 国民への説明責任よりも、野党の追及から早く逃れ、ほころびが目立つ態勢を立て直したい。そんな政権の都合を最優先した判断というほかない。

 新型コロナウイルスへの警戒が解けぬなか、通常国会がきのう、会期を延長することなく閉会した。政府は補正予算に計上した巨額の予備費で備えているというが、持続化給付金などの委託契約の不透明さをみれば、国会による不断のチェックが欠かせないことは明らかだ。

 ■不祥事の解明進まず

 会期末間際に突然発表された陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の計画停止をめぐる議論も間に合わなかった。安倍政権の体質ともいえる論戦回避、国会軽視が、またしても表れた。

 コロナ禍への対応に追われる前、今国会の焦点は、政権をめぐる一連の不祥事だった。

 安倍首相による私物化が疑われた「桜を見る会」、秋元司衆院議員の逮捕・起訴に至ったカジノ汚職、河井克行前法相と妻の案里参院議員の秘書がかかわった公職選挙法違反事件、自ら命を絶った近畿財務局職員の手記が公表された森友問題……。

 いずれの解明も足踏み状態で、政権への信任が厳しく問われているさなかに発生したのが、コロナ危機だった。

 未知のウイルスとの闘いに、試行錯誤は避けられないとはいえ、政権の対応は多くの国民の目に後手後手に映った。

 中国の習近平(シーチンピン)国家主席の国賓訪日や東京五輪パラリンピック、外国人観光客に頼る地域経済への影響などを懸念したとの見方が根強いが、時々の判断を後から検証する記録が十分に残されているかは心もとない。

 政権はコロナ禍を「歴史的緊急事態」に指定しながら、専門家会議の議事録はつくらず、政策を実質的に決めている首相と関係閣僚による非公式な連絡会議の議事概要には、肝心の首相や閣僚の発言は記載されていない。公文書管理や情報公開に後ろ向きという、政権の限界がここにも如実に出ている。

 ■世論に押された転換

 日本の緊急事態宣言に基づく自粛要請には、罰則を伴う強制力はない。幅広い国民の自発的な協力を得るうえで、政府への信頼は重要な要素に違いない。

 しかし、首相による情報発信は不十分で、自らの言葉ではなく原稿を読み上げるスタイルは、国民の心に届いたとは言いがたい。一部の側近の意見をくんだ全世帯への布マスク配布や、ミュージシャンの星野源さんへの便乗動画に至っては、国民感情との乖離(かいり)を印象づけただけだった。

 年来指摘されてきた政権の悪弊がコロナ対応に影を落とす一方で、強権的な手法で政策を押し通すことができなかった異例の方針転換もあった。

 一つは、検察幹部の定年を政府の判断で延長できるようにする検察庁法改正の見送りだ。SNS上で抗議のうねりが広がり、元検事総長を含む検察OB有志による反対の意見書提出もあった。国会閉会に伴い、改正案はきのう廃案となったが、政権が真摯(しんし)に世論に向き合うのであれば、問題の多いこの規定はきっぱりと断念すべきである。

 もう一つは、コロナ対策の目玉として打ち出した給付金だ。いったん「減収世帯へ30万円」と閣議決定したものの、世論の評判は芳しくなく、公明党などの強い要求を受け入れて「一律1人10万円」に改めた。

 高い内閣支持率を背景に「安倍1強」といわれた面影はもはやない。とはいえ、それが謙虚な政権運営につながるとみるのは早計だろう。

 ■優先順位を見誤るな

 第2次政権発足から8年目に入った首相の自民党総裁としての残り任期は1年余となった。

 昨年の参院選で勝利した後、首相は悲願の改憲に向けアクセルをふかそうとしたが、機運は全く高まらず、今国会でも衆院の憲法審査会で自由討議が一度、行われただけだった。

 プーチン大統領との個人的関係をテコに動かそうとした日ロ平和条約交渉も暗礁に乗り上げたままで、来年に1年延期された東京五輪が実施できるかは、世界中でコロナが終息しているかどうかにかかっている。

 首相が長期政権のレガシー(遺産)を残したいという思いに駆られても無理はないが、いまこの国の政治指導者として求められるのは、コロナの感染防止と経済回復の両立という難題に他ならない。

 県境をまたぐ移動や、接待を伴う飲食店など一部で残っていた休業要請があす、全面的に解除される。第2波、第3波の流行に備え、国民のいのちと暮らし、そして社会経済を守ることを最優先に考えるべきだ。

 国会を閉じても、衆参両院で当面それぞれ週1回、閉会中審査を行うことで与野党は合意した。首相が国民の信を取り戻したいと考えるなら、自ら委員会での論戦に応じ、一連の不祥事についても逃げずに説明を尽くさねばならない。

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