黒人記者が語る「抗議デモ」と「人種主義」

知らないうちに、死んでるのかもしれません

友達や知人、同僚と話していると、真実がものすごく必要だと感じます。黒人のイメージはメディアの中で過度に破壊的で、野蛮なものとして描かれていて、あれでは「悲しく残念な事件だけど、破壊するなんて共感できないな」と感じてしまうだろうからです(残酷きわまる殺人事件なのに)。

暴動や略奪はもちろん、あの画面に映っている暴力は、どう考えてもまともには見えません。だから「黒人の中にはなにかとんでもない狂気があって、その原始的な、黒人が生まれ持った反社会的な性質が時々噴出するのだな」と考える人もいるでしょう。

そういう考えこそ、人種主義的です。ここ数週間テレビに映っている暴力行為を、「黒人っぽさ」とか「黒人の傾向」のせいにするとしたら、あなたは新型コロナウイルスなんて笑えるほどの、深刻なウイルスに感染しています。人種主義と言う名のウイルスに。



しかし、ああいう暴力行為を「アメリカっぽさ」のせいだと感じるなら、あなたはいい線を行っています。あなたがテレビやネットを見ていて、権力に対して真実を叫ぶ人々の姿を見るのならば。声を奪われ、存在を無視され、痛みに打ちひしがれてきた人々の姿を見るならば。400年以上もの間、暴力を振るわれ、町を燃やされ、略奪され続けた人々が、その報復として暴力を振るい、町を燃やし、略奪をしていると思うならば。なぜなら、そう、そういうことだからです。

火炎瓶を投げているのはあなたでもある

人間には一線というものがあり、権利があります。もしあなたが信用し、自分と自分の権利をゆだねていた存在が、その一線を越え、社会的契約を破ったとしたら、それはもう何でもありの、仁義なき戦いへの突入を意味します。アメリカ人であろうと、日本人、中国人、ジャマイカ人、ドイツ人、ロシア人、パキスタン人、なに人でも同じはずです。相手が国でも、企業でも、宗教でも同じはずです。あなたは「自分が信用した権力機構は、実は敵だ。人間誰しもが求める平和と安心にとっての敵だ」と思うでしょう。

歴史には、日本の歴史にも、その証拠が山ほどあります。人間は国家による抑圧や一方的な専制権力、残酷さ、人間性の否定と常に戦います。ぼくら人間はいつもそうしてきたし、これからもそうするでしょう。それが、革命ってやつです!それが、いくつもの支配制度が崩壊する理由なのです!こんなことを言われなければわからない人は、どうか自分の脈を確認してください。

知らないうちに、死んでるのかもしれません。

テレビで警察署に火炎瓶を投げつけているアメリカ人を見る時、あなたがそこに見ているのは、ブチ切れてしまった時のあなた自身です。自分が税金を払っている「国家」の職員によって自分の子供がユーチューブ上で窒息死させられて、相手に「すまない。でも黄色い肌だし、ずるい犯罪者みたいな細い目だったから、てっきり…」とか「ごめんな、まあ間違いってあるしさ」とか言われたとしたら? どう考えても、あなたとあなたの周りのみんなはその日から、最低でも「国家」とその政策たちに疑問を持ち始めるでしょう。さて、この種の悲劇が何度もくり返されたとしましょう。「恐ろしいけど、よくあること」になったとします。そうなったらきっとあなたも火炎瓶を作り、投げ始めるでしょう。そうならないなら、パンツの中をチェックして、それかレントゲンを撮った方がいいです。

知らないうちに、去勢手術を受けているかもしれません。

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