
新型コロナウイルスの影響に苦しむ切実な相談が、自殺対策に取り組む窓口で増えている。職を失うなどして将来を悲観する声が多い。自殺者は近年、減少しているが、過去には景気低迷を受けて急増したこともある。支援団体は感染防止のため活動のあり方を変えながら、対応を急ぐ。
「せっかく決まった仕事がコロナでなくなった。将来が見えず、消えてしまいたい」「支援を受けられない。このままでは介護している母とともに死ぬしかない」
自殺防止に取り組むNPO法人「ライフリンク」(東京・千代田)では、新型コロナに関連する相談が急増している。まだ感染者が少なかった2月は数件だったが、5月は全体の相談1534件のうち、2割にのぼった。
新型コロナの影響で需要が低迷する業種は多く、雇用環境は悪化している。ライフリンクの清水康之代表は「自殺者が増えるリスクが高まっている」とみる。
そうした中、支援団体の多くは活動の制限を余儀なくされている。一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」(東京・千代田)の4月下旬時点でのアンケート調査では、回答した55団体のうち22団体が活動を休止し、24団体が活動内容や時間などを制限していた。
緊急事態宣言の全面解除後も「3密」を回避するため、対面相談や交流会などを実施しづらい状態が続く。このためオンラインサービスなどを使い、「新しい日常」に対応した活動のあり方を模索する。
自殺防止などを目的に、SNS(交流サイト)を活用した相談窓口を運営するNPO法人「東京メンタルヘルス・スクエア」(東京・豊島)。従来は事務所でスタッフが対応していたが、4月に「リモートワーク」を本格的に始めた。現在は100人ほどのスタッフのうち、約半数が在宅でSNS相談にのっている。
富山県で自殺対策を行うNPO法人「ここらいふ」も4月から、週に1回開催していたサロンの代わりにビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」を利用したネット上での交流会を始めた。
ただ、SNSなどを活用した相談は若年層に偏る傾向があり、団体側に通信環境やノウハウが備わっていないなどの課題もある。いのち支える自殺対策推進センターの担当者は「しばらくは元通りの活動は難しい。相談の増加に対応するためにも環境整備への支援が必要だ」と話す。
警察庁によると、2019年の自殺者は2万169人で、10年連続で減少している。ただ、バブル崩壊後の長引く景気低迷で失業率が上昇した1998年には急増し、3万人超に。その後、長らく3万人以上の状況が続いた。
ライフリンクの清水代表は「緊急事態宣言の解除で社会が前に進むことで、苦しんでいる人々が孤立を深める可能性もある」と警戒する。支援策を模索しつつ、「行政には一時的でも生活保護の要件を緩和するなど、セーフティーネットを確保してほしい」と話す。