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第12話「Red zeal」
深夜の格納庫、整備ハンガー。
ひと気のない空間の中、整備機器のモーター音が唸りを上げている。 その整備ハンガーに据えられている、脚を一本失い、全身の装甲を傷だらけ にした真紅のレオブレイズ〈ライオット〉
「〈ライオット〉、私はやっぱりまだまだ半人前だ」ハンガーに立ち、工具を 手にただひとり〈ライオット〉の修理を続けるジェリーが呟く。「でも… そんな私と長年付き合ってくれた、お前は私に過ぎるぐらいの最高の相棒よ。 だから…お前を、こんなところで終わらせない」
深い信頼と、強い決意を込めた視線で、傷ついた相棒の姿を見据える。
そして、その〈ライオット〉の視線の先、同じ格納庫内の新たな住人と なったゾイドの姿があった。
〈ライオット〉や、ジェリーの母マギーの機体〈レイガン〉同様、赤い鬣 (たてがみ)を持つライガータイプのゾイド、レオゲーター。
そのレオゲーターと〈ライオット〉の視線が、ずっと互いを向いている。 そしてジェリーは知る由もない。レオゲーターと〈ライオット〉、同じ ブロックスタイプのゾイドとしてその機体特性を象徴する銀色の コアブロック。その裡のゾイドコア同士が、人間の感知の及ばない部分で 密かに共振していることに…。
★
深夜の月に照らされる岩山に、複数のゾイドが並んでいた。夜闇に紛れ、 その正確な姿は判別できない。しかしその数機のゾイドが、すべて同一機種 であることはシルエットから判る。その背に、大振りなパンツァーファースト やリニアガンといった複数の武装を背負った、身を伏せた姿勢の二足恐竜型。
一方、その機体群の中、ひときわ目立つ1機の大型ゾイドがあった。周囲に 並ぶ機体と同様の二足恐竜型。ただし、その全身を包み込む角張った装甲、 機体の両脇に装備された巨大砲といった武装の数々、そして恐竜型ゾイドと しての凶暴さと王者的な風格をも備えた頭部の造形は見る者に威圧感を与え、 この機体がただの大型ゾイド以上の機体であることを誇示している。
そして、配下の武装ゾイド群を従えた大型機の視線の先、地上からこの岩山 を見上げる、1機のロードゲイルの姿があった。失われし“誇り高き騎士” デュケーンナイツ、その亡霊と自ら称するハデスの機体である。
「旧デュケーン最後の騎士、ハデスに問う。貴様の使命は何ぞ」
「我が国家復興の礎となる、白い機体を奪還すること――」
大型機からの問いかけに、堂々と応じるロードゲイル内のハデス。
「だが、その使命の遂行は遅れている――報告によれば、既にその機体の 所在まで突き止めているとのこと。後は機体を持ち帰るのみという段階に なって、貴様ほどの騎士が何を躊躇う」
「躊躇などしていない。――その機体を賭け、今の所有者に決闘を 申し込んだ。その日取りは4日後。白い機体は、その後持ち帰ることとする」
「ほう…では、その決闘とやらが終わるまで、悠長に待て、と言うのか」
「黙ってあと4日待つだけで、あの白い機体は貴様らが手を下すまでもなく 手に入る。それで文句はあるまい」
そのハデスの言葉に、大型の機体が一歩、ズン、と足元の岩山を踏み締める。
「我々に、時間がないことは貴様も承知のはず。――待てぬ、と言ったら?」
「私は、待て、と言った」
怯むことなく、返すハデス。
「貴様! 誰に向かって口をきいて…」
と、大型機を取りまく武装ゾイドの1機がハデスの前に出ようとする。 その機体を制する大型機。
「日取りを決めての決闘とはな。――意地か? 旧デュケーン、最後の 騎士としての」
「旧デュケーンなど既に滅んだ。ここにいるのはただの亡霊、今、デュケーン と呼ばれるのはお前たちだろう、ネオデュケーンの新たな騎士団。そして…」 無感動に、告げる。「私を、騎士と呼ぶな」
言い捨て、踵を返すロードゲイル。そのまま、恐竜型ゾイド群―― 新騎士団ネオデュケーンに背を向け、夜の荒野を歩き出す。
「何処へ行く」
「つまらん催促が用件なら、私は行くぞ。もう一度だけ言う。4日後にあの 白いレドラーは引き渡す」
それだけを告げると、背の翼を展開、飛翔し夜闇の空へと消えて行く。 黙って、そのロードゲイルの飛び去った夜空を見上げる大型機。
「…フォッシルコロニーのゾイドハンター、ゴドー・スマッシュ。あの男の 闘志にああまで火を点けたとは、どのような男だ?」
★
昨日、捕らえようとしたカーライル一家を退けたものの、乱入したマギー・ カーライルとその愛機〈レイガン〉によって町への進行を妨害された ヘビーライモスは、朝の太陽に照らされる荒野を、再びフォッシルコロニー へと進撃すべく歩を進めていた。
戦時中に施された重装備が、ほぼそのまま残ったままの機体。都市侵攻、 という作戦目的が、搭乗者を失い無人となりつつもそのゾイドコアに 刻まれた機体。戦中の亡霊とも呼べる鉄獣が、戦中の悪夢を再び 掘り起こすべく、大地を一歩一歩踏み締め町へと向かっていく。
そして…、
ジェリー・カーライルと、応急処置を終えた愛機〈ライオット〉は、 そのヘビーライモスの進撃を見下ろす荒野の高台の上にいた。身を 伏せている〈ライオット〉のコクピット、キャノピーを開き、身を乗り出して 双眼鏡を構えているジェリー。手元にはこの周辺の地形図を挟んだ クリップボードがあり、左手の双眼鏡でヘビーライモスの進路を視認しつつ、 細かく書き込みが成された地形図に赤いサインペンでその進路を記入している。
「“作戦の書き換え”が行われない、元軍用の野良ゾイドは何度でも同じ ルートを通る。――ママの教えの通りだね」
呟くと再びコクピットに潜り込み、キャノピーを閉める。その 〈ライオット〉の背には、応急修理と並行して装備した4連装中距離 キャノンが設けられている。
時間を確認するジェリー。AM5:59。母であるマギーが当初に立てた、 ヘビーライモス追撃開始の時間まで、あと1時間と1分。
敗北を喫した狩りの夜、ひとりで〈ライオット〉の応急修理を済ませた ジェリーは、修理作業中に脳裏に組み立てたヘビーライモスを狩る手段を 実行すべく母にもチームの連中にも黙って深夜に飛び出していた。そして、 ヘビーライモスが再び街に近付くより遥かに離れた距離にて、それを 迎え撃つべく行動を開始しようとしているのだ。
「たぶんこれで、カーライル一家にはいられなくなる――でもけじめだけは きっちり着けさせてもらうよ!」
3秒前…2…1…スタート、伏せた姿勢から、身を起こす〈ライオット〉。 その背の4連装中距離キャノンが吼えた。轟…! ヘビーライモスの足元に 着弾、黒い機体が、方向だけはそのままに僅かに進路をずらす。
更に二射、三射と撃たれる中距離キャノン。次々とヘビーライモスの足元に 着弾、ついに背の大型電磁砲を撃ってくる。その電磁砲が動くと同士、 高台から駆け出している〈ライオット〉。間一髪で、ヘビーライモスから 撃たれた火線がつい今まで狙撃していた場所の地面を派手に破裂させる。 距離を置き、ヘビーライモスと併走しつつ中距離キャノンを撃ち続ける 〈ライオット〉。
「離れすぎ――」ジェリー、目測でヘビーライモスとの距離を測ると、 標的の前方を横切るように砲撃する。その砲撃に対し、反射的に 〈ライオット〉の側へと進路をずらす。「そうそう、その位置を保って…」
本体の装甲にではなく、足元を狙ってくる攻撃にまっすぐ前進することが できないヘビーライモス。そして、巧みにジェリーによって進行方向を 誘導されていることには気付かない。
まっすぐフォッシルコロニーの方向へ進みつつも、その進路をジェリーに 誘い込まれるままになっているヘビーライモス。そして、ついに、ジェリーの 手元の地形図…赤点が書き込まれた地点へと誘導される。
「今だ!」
手にしたリモコンのスイッチを押す。瞬間、ヘビーライモスの直前の 進路に起こる爆発!思わず、足を止めてしまうヘビーライモス。そこへ 時間差にて、ヘビーライモスの周囲に仕掛けられていた十基のウインチから ワイヤーが発射される。鉄獣の四肢に、武装に、そして鼻先のドリルへと ことごとく絡み付いていくワイヤー。もちろんこんなワイヤーごときで ヘビーライモスの動きを止められるはずもない。だが、ジェリーが “ヘビーライモスの進路上に仕掛けた罠”は、ここからが本番だ――。
「行け!」
ヘビーライモスがワイヤーに絡め取られたのを確認した直後、リモコンの 最後のスイッチを叩く。ウインチの根元に埋め込まれた、十基の爆弾が それぞれ一斉に爆発する――!
轟轟轟轟轟轟轟轟轟――ッ!! 荒野に巻き起こる大爆発!
「私の最後の仕事にふさわしい、派手な花火じゃないか!」
勝利を確信するジェリー。獲物の最期を確認すべく、爆発跡から立ち昇る 爆煙に近付こうとする。だが、
「――ッ!?」
爆煙の中から、一直線に撃ち放たれた火線が背の四連装中距離キャノンを 吹っ飛ばした。大型電磁砲…! 慌て、〈ライオット〉を一歩下げるジェリー。
そして、荒野を踏み締める重々しい足跡を響かせ、爆煙の中から姿を現わす ヘビーライモス。
「なんて奴…!」
舌打ちするジェリー。派手に仕掛けた罠の効果は、確かにヘビーライモスの 外観に刻まれていた。最大の火力であった大型電磁砲は一基失われ、腹の 2連装衝撃砲も失われている。両頬の接近戦用ビーム砲も砲身が折れている ところを見ると使用不能だろう。だが、その重装甲ゆえ、武装の幾つかを 失っただけで、本体は軽い損傷で済んでいたのだ。
今度こそ、真正面から〈ライオット〉と対峙するヘビーライモス。その 鼻先のドリルのは、先程のワイヤーが根元に絡み回転を塞がれているものの、 突撃を仕掛けたときの強固に相手を貫く角としての機能に支障はないだろう。
「どうする…」ジェリー、唇を噛む。残った武装は、レオブレイズとしての 〈ライオット〉本来のもの――ストライクレーザークローと尾のザンブレード のみ。しかもあの装甲の前では、体格差もあって致命傷を与えられないことは 昨日実証済みだ。「ママたちのために、武器を減らせただけでも僥倖か…」
覚悟を決め、〈ライオット〉を構えさせる。まだ修理が完全でない、 傷ついた〈ライオット〉でどこまで持つか…?
ヘビーライモスの足元の移動ブースターが鈍い唸りを上げた。わずかに 地面から浮く黒い巨体。突撃体勢、来る…、
刹那――、
ドォッ! そのヘビーライモスの横面に、突如攻撃が跳ねる。何!? と 攻撃の来た方向を向くジェリー。
「――今回の狩りに使うつもりだった爆弾、ひとりで全部持ち出すとは どういうつもりだ、この馬鹿娘」
その声に、不覚にも、一瞬顔を輝かせるジェリー。その場所に 駆けつけている、母、マギーの機体である真紅のライガーゼロ〈レイガン〉と 頼れる副官であるストライクのディスペロウ〈マリアッチ〉。そして、 昨日チームメンバーである双子の兄弟、ウキョウとサキョウにマギーが 与えた新たな機体、それぞれ白と青の塗装が施された2機のウネンラギア。
カーライル一家、総員集結であった。そして、〈マリアッチ〉がワイヤーで 引っ張ってきている1台の台車。その上には何故か、今だ乗り手も決まらず 無人のレオゲーターか鎮座している。
そして、
「ジェリー、無事かぁッ!?」
飛来する白いレドラー。アミーナと、同乗してきたゴドーである。
「ったく、あいつらまで…」
「ジェリー・カーライル。私は昨日、お前は今日の狩りには連れていかないと 言った」そのジェリーに、母親でなく先輩ハンターとして厳しく告げる マギー。「その私の言葉を破った結果、狩りのプランが大幅に狂った―― ここから先は私が引き継ぐ。お前は後ろで、黙って見ていろ」
「お断り、だ…」
「何?」
「お断り、だ。あなたこそ黙って見ていてもらう、ママ…いや先代!」
毅然と、反論を返すジェリー。
「私にだってハンターとしての意地がある。狙った獲物にさんざコテンパン にされて、黙ってるようじゃハンターとして立つ瀬がない。でも…私が 仕留めそこなったせいで、一家のみんなに迷惑かけたのは事実だ。 ストライク、ウキョウ、サキョウ、ついでにアミーナとゴドー、済まない――」
「俺たちゃついでか…」
「お嬢…」
ジェリーの言葉に、ぼやくゴドーと、こみ上げるものを感じるストライク。
「こいつは私の獲物だ…先輩風吹かして横取りしようとしてんじゃないよ、 “赤い獅子”!」
「ほう…」我が子の、いや、跡目を任せた後輩ハンターの強気の声に、 唇の端で笑みを浮かべるマギー。「軍隊だったら、上官への反逆で銃殺モノ だぞ」
「私は兵隊じゃない、ゾイドハンターだ! ――手前ぇの意地とけじめは、 最後まで貫かせてもらうよ! ストライク、ウキョウ、サキョウ! 私が 仕留めそこなったせいで、奴の電磁砲は一門健在だ! でも手負いに することはできた…ここで畳み掛ける、いいね!」
「了解、お嬢!」
「お嬢の行くところ」「どこまでもついて行きます!」
ストライク、ウキョウ、サキョウがそれぞれ応じる。
「ウキョウ、サキョウ、両翼から牽制! ストライク、あの大砲ぶっ潰すよ、 背中貸しな!」
「はいさ!」
「それと――ゴドー! あんた、タグショット持って来てるね!?」
「いいっ!?」
いきなり振られ驚く、上空のゴドー。
「私とストライクで奴の動きを止めたら、上からレドラーで近付いて タグショットを撃ち込め!」
「お前の獲物じゃねえのかよ!?」
「武器を潰した時点で、速攻で仕留めるしかないんだよあいつ! 私が 機体から降りる暇はない!」
「人使い荒いんだよ、カーライル一家の頭目さんはよ!」
ジェリーの指示を受け、迫り来るヘビーライモスを前に分散する4機の ゾイド。ウキョウとサキョウのウネンラギアが両翼に展開、〈マリアッチ〉が 〈ライオット〉の前に出る。同時、レドラーを操るアミーナも動いた。
「ゴドー、行くよ」
「お前もノリノリかよっ!」
アミーナの操縦を受け、大きく上昇するレドラー。青空を背に旋回、 上空からヘビーライモスに迫ろうとする。ハンティング開始――、
ウキョウ機とサキョウ機がヘビーライモスの両側から、それぞれ腕の AZハンドガンを乱射しながら駆け寄る。装甲を跳ねる銃弾に傷つくことは なくとも、左右から迫る同型の敵に対して一瞬戸惑うヘビーライモス。 まずはと目立つ青い期待から潰すべく、サキョウ機の方向に機体を向ける。
「今だ!」
標的が真横を向いた瞬間、駆け出す〈マリアッチ〉と〈ライオット〉。 ヘビーライモスの電磁砲は構造上左右には動かない、常に機体の真正面に 向けて撃つしかできないのである。武装のほとんどを潰された ヘビーライモスに、真横からの突撃に対抗する手段はない――はずだった。
「――だが、まだ甘い」
その狩りの様を見据えつつ、マギーが呻く。
真横から自身と同体格の機体が突進すると感知するや、片側のみ足の ブースターを唸らせるヘビーライモス。信地旋回、足元の地面を激しく抉り、 瞬時に〈マリアッチ〉の正面へと向くヘビーライモス。しかも、
轟――ッ! ドリルの根元を絡めていたはずのワイヤーが、その本体の 動力と直結した回転力の前についに千切れた。唸りを上げ、激しく渦巻く ヘビーライモス最強の武器である突撃用ドリル。
「チィッ…!」
舌打ちするストライク。だが、もはや加速した〈マリアッチ〉の重量級の 機体を止めることは叶わない。そのまま機体の威信たる二本の角を突き出し、 一か八かで正面からヘビーライモスに挑もうとする。が、
「うそーーーんっ!?」
ゴドーの悲鳴が響いた。上空から迫っていたレドラーの進行方向は、 ヘビーライモスが先程真横を向いた際の〈マリアッチ〉と相対する位置。 すなわち標的が真横を向いたところを首筋にタグショットの弾丸を撃ち込 むつもりだったのだ。しかしヘビーライモスの急な信地旋回により、今、コ クピットを開き、身を乗り出しタグショットを構えているゴドーの乗った レドラーは、ヘビーライモスの背後――タグショットで急所を狙えない位置 ――に向かって急降下している。
そして…ヘビーライモスの背中の、まだあの爆発の罠から生き残っていた 2基の誘導対空ミサイルは、後方上空から迫るレドラーへと向けられている!
2基のミサイルが宙に放たれる、まさにその刹那――、
「うわああああああああーーーッ!!」
絶叫、真紅の機体が〈マリアッチ〉の背中を蹴り、跳ぶ。〈マリアッチ〉 の背後を駆けていた〈ライオット〉だ。
ストライクレーザークローを振り上げる。狙うは、厄介な主砲である 電磁砲…いや、
DON…! 発射直前で、鋼の爪がミサイルの基部を破壊した。宙空へ 撃ち放たれることなく、大地に転がるミサイル。そして、その ヘビーライモスのドリルの前に無防備に晒される、〈ライオット〉の腹――、
――あーあ、やっぱり私はまだまだ半端者だった。
――ごめん…ごめんね〈ライオット〉。
渦巻く鋼鉄の角が、
真紅の仔獅子のボディを、文字通り粉砕する――、
――獲物に手痛くやられたのが悔しかった。
――久々に帰ってきても、家族である私を省みようとしないママの態度に 腹が立った。
――そのママの叱責の言葉が、的を得ていたことで自分自身が許せなかった。
――だけど…だけど何より、
――私のせいで…お前が倒されるのが…一番悔しいよ…〈ライオット〉。
「――ジェリーーーッ!!」
胴体から機体を両断され、吹っ飛ばされ宙を舞う〈ライオット〉の残骸を 目の当たりに、マギーが――母親として悲鳴を上げた――まさにその刹那、
GAAAAAAAAッ!!
金属質の咆吼が響いた。
一瞬、まさに一瞬のうちに、その〈ライオット〉の機体に迫る新たな紅い影。 マギーが随伴させてきた、無人のレオゲーターが飛び出していた。
宙空で交差する2機。そして、
KIIIIIIIIIN! 2機のゾイドコアの間に生じる――共鳴現象。
「これって…」
かろうじて破壊を免れた〈ライオット〉のコクピットの中、ジェリーが呻く。
彼女は知らない。夜、格納庫、赤い鬣を持つ2機の獅子、その間に結ばれた 盟約。
赤い仔獅子の乗り手が、互いの乗り手に相応しい、誇り高き高潔な狩人 ならば――!
2機のコクピットが最接近した瞬間、互いの機体のキャノピーが開いた。 刹那、破損した部分を除き、パーツ単位で分散する〈ライオット〉。その コクピットから飛ばされたジェリーの身体が、レオゲーターの無人の コクピットに新たに納まる。そして、分散した〈ライオット〉のパーツが、 それぞれレオゲーターのボディの各部へと一体化し装着されていく。
Zi-ユニゾン。2機のゾイドが一体化し、その持てる能力を1+1=? の公式どおり相乗効果にて開花させる。
そして今、〈ライオット〉とレオゲーター、2機の獅子が“算出不能の 可能性”を得て一体化を果たしたのだ。ユニゾンによって誕生した新たな 機体が、地面を抉り大地に降り立つ。獲物であるヘビーライモスに向かい、 新たな咆吼を上げる。その新たな機体の名は――ダブルブレイザー。
「す、すげえ…」
マギーの〈レイガン〉の、すぐ真横に着地しているレドラー。コクピット から降りたゴドー、アミーナ、そしてマギーが、その荘厳なる新獅子の 誕生を直に目の当たりにしている。そしてその新たな機体、ダブルブレイザー のコクピットの中、
「これは…」
ヘビーライモスの一撃に吹き飛ばされたはずが、気がつけば見慣れぬ機体の コクピットに納まっている。戸惑うジェリー。が、目前にヘビーライモスの 姿を確認した瞬間、両手は反射的に操縦桿を掴んでいた。
一瞬、脳裏を横切る感覚。自らが操るゾイドと意志がリンクする瞬間。 それはあらゆるゾイドとその乗り手に通じる、互いが互いをパートナーと 認め合ったことの証。そして今、ジェリーの脳裏に走った感覚は、
「〈ライオット〉…お前」悟る。この機体、ダブルブレイザーの中に自身の 長年の相棒は間違いなく生きている。「――よし、生まれ変わったお前の、 新しい名前は〈スカーレット〉だ!」
ジェリーの声に応じ、雄叫び高く吼えるダブルブレイザー〈スカーレット〉。 その咆吼に怯むことなく、鼻先のドリルを唸らせ突撃してくるヘビーライモス。 〈スカーレット〉、その突撃を横跳びに躱す。
「飛んだ――!?」
〈スカーレット〉の大跳躍の様に呻くゴドー。その、僅かに躱したつもりの 一度の跳躍で、ヘビーライモスと遥かに距離を置く〈スカーレット〉。 着地、すかさずそこを狙い、背に残った1門の電磁砲を撃ってくる ヘビーライモス。構わず、まっすぐヘビーライモスへと向かって駆け出す 紅の新獅子。高速疾走。自身に放たれてきた火線をかいくぐり、瞬時に ヘビーライモスとの距離を詰める。
その光景を目の当たりにした者の知る由もないが、この跳躍力もスピードも、 すべてが大元のレオゲーターのスペックを超越したものなのだ。更に電磁砲を 撃とうとするヘビーライモスだが、その間に、既に自身の武器のリーチまで 急接近している〈スカーレット〉。背のブレイザーソード――〈ライオット〉 のザンブレードの進化武装――が一閃した。赤光の斬跡が宙を走り、根元から 切断されて宙を舞う、ヘビーライモスの大型電磁砲…!
それでも流石は元々軍用の機体、すかさず身をひねり、迂闊に自身に接近 した〈スカーレット〉を鼻先のドリルで砕こうとする。瞬間、直上へと ジャンプする〈スカーレット〉。ヘビーライモスが見上げるも、もうその 機体は遥か天上の存在だ。
そして、再びヘビーライモスへと向かって自由落下、〈スカーレット〉の 両の前肢に増設されたストライクレーザークローが攻撃位置へと延びる。 元々のレオゲーターのスマッシュクローと相乗して放たれるそれこそが、 最強の中型格闘戦用ゾイドとして新生した機体ダブルブレイザー最大の必殺技 ――、
「ダブルスマッシャークロー!」
炸裂! 宙空から揮われた必殺技の一撃にて、ヘビーライモスの脅威だった ドリルが、その破壊力を渦巻かせていたにもかかわらず――根元から叩き 折られた! 悲鳴的な咆吼を上げるヘビーライモス。
「今だ! 動きを完全に押さえ込め!」絶叫するマギー。「その機体には ――“それ”ができる!」
刹那、ヘビーライモスの視界に写る、宙で機体を四散させる〈 スカーレット〉。何事かと思う間もなく、その分散した機体のパーツが 再結合する。と、気付いたときには目前が闇に包まれていた。
突如出現した、巨大な“愕”に頭ごと銜えられ、完全に動きを封じられて、 膝を折りその巨体をついに地に伏せるヘビーライモス。そして、キャノピー を開きコクピットから飛び出すジェリー。その手には、ゾイドハンターの 証たるハンドガン、タグショットが握られている。完全に捉えられ、動けない ヘビーライモスの首元に至近距離から一撃。機体を麻痺させる電磁波が 撃ち込まれた弾丸から機体全体に迸る。今度こそ、完全に静止する ヘビーライモス。ゾイドハンター、ジェリー・カーライル、勝利の瞬間だった。
「――やった!」
「きゃっ!」
その光景を前に、人目をはばかることなく、満面の笑みを浮かべて思わず 傍らのアミーナに抱きつくマギー。
「ちょっ…マギーさん」
「あははははははは! やった、やった! よくやった! さすが私の娘だ!」
アミーナを抱きしめたまま、飛び跳ねて喜ぶマギー。ぎゅーっ、と、 アミーナの身体を強く抱きしめる。
「――あ…」
突然の抱擁、ぬくもり。
一瞬、脳裏をよぎる、思い出せなかったはずの遠い記憶。
いとおしく、自分に微笑みかける…温かな笑顔…、
そして、そのアミーナの言葉を、彼女を抱きしめていた当のマギーも確かに 聴いた。
「おかあ…さん…」
★
「私の命令破って、ひとりで飛び出してみんなに迷惑かけて、ひっぱたいても 足りないところだが…命懸けでゴドーちゃんとアミーナちゃん助けたのと、 その“あんたの愛機”に免じて今回はお咎めなしにしてやるよ」
苦々しさを隠さず、憮然と、その“新たな愛機”から降りたジェリーに 告げるマギー。一方、当のジェリーに、そのマギーの言葉は届いていなかった。
「………」
仕留めた獲物、ヘビーライモスを“銜え込んだ”ままの自機、 〈スカーレット〉の姿に愕然となっている。気高き、赤き武装獅子 だったはずのその自機の姿は、どう見ても…、
「――ワニ、だな」
「わにさん、だよねー」
カーライル一家の面々が頭目に対して言葉もなく口を噤んでいる中、 ゴドーとアミーナが率直な感想を告げた。
チェンジマイズ。ブロックスタイプのゾイドとして、レオゲーターの機体 にも当然その機能は存在している。そしてZi-ユニゾンを果たしたとは いえ〈スカーレット〉が見せたそのチェンジマイズによる姿は…、
「アリゲーターモードだ。単なる陸戦用のライガーとしてでなく、この形態に なることで水中での行動にも対応できる。こうやってライガーモードで獲物に とどめを刺し、アリゲーターモードで銜えこんで捕まえるって寸法だ。 その汎用性といいハンター用のゾイドとして申し分ない機体、という訳だな」 腕を組み、悠然とレオゲーターのチェンジマイズ能力を解説するマギー。 「お前には過ぎるぐらいの機体だぞ。良かったなあ、こいつの乗り手として 認められて」
「あは…あはは…あーっはっはっはっ!」ヤケクソで、高笑いするジェリー。 「いいぞ、流石は〈スカーレット〉! ライガーのときの姿といい、 このぐらいワイルドな奴じゃなきゃ私の相棒は務まらないよ!」
「よお、あれでバッグいくつ作れると思う?」
ウキョウ、サキョウに対してのゴドーの発言に、一発で落ち込んでぺたりと 両手と膝を着くジェリー。
ストライクたちが慌ててジェリーに駆け寄る喧騒の中、マギーがゴドーに 声を掛けた。
「ゴドーちゃん…あの子、きっと記憶を取り戻せるよ」
「え?」
マギーの視線が、落ち込んでるジェリーの頭をにこにこと撫でている アミーナを見つめている。ふと浮かべる、柔らかい笑顔。母親の顔。
「お母さんのぬくもりを覚えている子が…お母さんの顔を忘れたりするもんか」
★
ゾイドの群れが集結している。
冒頭、ハデスのロードゲイルを取り囲んだ、1機の大型機を中心とした、 二足恐竜型ゾイドの軍勢。この軍勢を構成する武装ゾイドの名は グラビティザウラー、その1機がリーダー格である大型機に対し、 進言を行っている。
「誇り高きデュケーンナイツの生き残りといっても、彼奴は所詮自ら認める とおりの旧体制の亡霊。あの白い機体を発見しつつ、決闘などと言い訳して 未だあの機体を手に入れられない、その程度の者に何が期待できますで しょうか?」
「奴にこの任を任せたのは、我だ。――不服か?」
「い、いえ、決してそのような…」口を濁す、進言した機体。「ただ…奴の 言葉を全面的に鵜呑みにする訳にはいきません。事は我が祖国の存亡に関わる 一大事、それを、未だ旧体制にしがみつき、我等が新たなる騎士団の軍門に 下ろうとしない者にすべてを任せるのは、我等としても不安が残ります」
「ほう…」いかにも、納得したかの口調で応じる、大型機の乗り手。「では、 如何様にしたいと言うのだ?」
「奴の言葉の、真偽を確かめるご許可をいただきたいと願います。――奴の 決闘の相手ゴドー・スマッシュ。その力が本当に旧デュケーンの騎士を 手こずらせるほどの物なのか、確認のご許可をいただければ…」
「好きにするがいい。ただし、たかが敵の確認に人数を割く訳にはいかん、 貴様ひとりで、だ」
「ご許可、感謝いたします。ヘクトル様――」
自らの仕える騎士団長の名を告げ、下がる、進言したグラビティザウラー。 そのグラビティーザウラーの軍勢の中心に立つ、蒼い装甲の二足恐竜型大型機。
この、新たな騎士団長の名はヘクトル。
この新たな騎士団、ネオデュケーンを率いる、蒼き大型の機体の名は凱龍輝。
そして、ゴドー・スマッシュがこの蒼い機体と合い間見えるのは、まだ先の 話である。
★
ハデスのロードゲイルは、ただ1機荒野にいた。
ハッチを空け、コクピットから立ち、砂と土煙の混じった風を身体に 受けているハデス。
ロケットとなっている、胸元のペンダントの蓋を開いている。そこにある 写真は――アミーナ――と、同じ顔をした少女のもの。
痛烈な記憶が脳裏に甦る。
燃え盛る。炎。火事。炎上。
自身の目前、手を伸ばすも、届かない。
炎の中に立つ少女――崩れ落ちる、灼けた瓦礫――彼女の頭上から。
「――私ごときに、騎士を名乗る資格は…ない」
ロケットの蓋を閉めた。強く…握り締めた。
あとがき
いつもながら、前回と今回の間が開きすぎるというか…やっとのことで 新話アップの「荒鉄」です。
さて今回、主役機〈ガッツ〉に先駆けてのヒロイン機パワーアップ話。 まあ第2話のあとがきにも書いたとおり、元々は「荒鉄」ってジェリーが 主役のはずの 話だったので…ジェリーの愛機であるレオブレイズが、レオゲーターと ユニゾンして新たな機体になるってのは、ほぼ当初から構想していたもの。 まあこれも「荒鉄」で書きたかった部分でもあるので、結構乗り乗りで 執筆させていただきました。やはりスパロボ物っぽいパワーアップ話は 燃えますです。
さていよいよというか、主人公とライバルの決闘の日も近付き、物語も 新しい展開を迎えることとなるはずですが…ここまででも、まだ全体構想の 半分行ってない…コンテンツの終了何年後になるんだよ(泣)。
まあコンテンツ終了まで、ゾイドの商品展開が続くことを願いつつ今回は ここまで。さて、主役機である〈ガッツ〉のパワーアップ、〈スカーレット〉 よりも地味になりそうだ…(汗)。
2006.9.18
豪雪地帯酒店・第二事業部は ものをつくりたいすべての人々を応援します。
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