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第7話「Postponement」


 荒野に朝陽が昇る。
 まだ宵闇も明けきらない空の下、砂塵巻く大地の上にその機体はあった。
 右の手に凶暴な光沢を走らせる巨大な“鋏”、左の手に二本の長槍を 持ち、その邪悪な造形の翼が大地に悪魔的な姿の影を落としている。
 アミーナの白いレドラーを狙い、次々とゾイドハンターを襲ってきた謎の 少年騎士、ハデス駆るロードゲイルである。

「待っていてください…」

 機体のコクピット・ハッチを開き、朝陽に向かって立ち尽くしている ハデス。瞳を閉じ、その手に握ったペンダントを額に当て、深々と呟く。

「必ず、貴方を取り戻します…たとえ私が、どんなに罪を重ねようと、 どんなに罪深くあろうと」

 それは、騎士の誓いであり、叶うことを心から願った祈りである。だが、

「……」

 ロードゲイルの後方に立つ、ハデスの妹ヘルメス駆る機体スティル アーマー。そのコクピットの中、一心に祈る兄の姿を悲しげな視線で 見つめているヘルメス。
 彼女は、その兄の祈る様が、誇り高き騎士に架せられた呪いであることを 知っていた。


 フォッシルコロニー。ゾイドハンター、カーライル一家の所有する 整備工場にアミーナの白いレドラーは運び込まれていた。ハデスがゾイド ハンターを襲い、その存在を狙ってきたのはこのレドラーなのである。 あれだけの騒ぎを起こしてまでハデスがこのレドラーを奪おうとしたのは 何故なのか、カーライル一家を束ねるジェリーは、レドラーの事実上の 所有者であるゴドーに自分のところでのレドラーの調査を買って出たのだ。

「結論から言えば、あのレドラーの“機体そのもの”に特別な部分はない」
「なんだよそりゃあ!」

 整備ハンガーに固定されたレドラーの足元、実際にレドラーを検分した カーライル一家若頭、ストライクの言葉に思わず唸るゴドー。

「あん時、ツノからものすげえ電撃出してハデスの奴を吹っ飛ばしたじゃ ねえかよ! あんなすげえ武器があって特別な部分がないって――」
「あんなツノ、たしかに純粋なプラチナでお高級にコーティングされちゃ いるが、普通に軽金属製のただの飾りだ。根元にもどこにもものすげえ 電撃発生装置みたいなもんは装備されちゃいねえよ」
「畜生! じゃあ一体ありゃあ何なんだよ」

 頭を抱えるゴドー。

「ただな…」と、ストライク、どうにも釈然としない顔で続ける。「1か所、 どうにも良く判らん部分がひとつだけある」
「何だよそいつは?」

 レドラーの額を指すストライク。そこに輝いている、真紅の宝玉。

「ただの装飾品の模造宝石かなんかとばかり思ってたんだが…これがどう にも変な結晶構造をしてるのが判ってな」
「ヘンって?」
「アメジストやエメラルドに見られる六方晶系に近い構造なんだが、この 構造の配列がどうにも自然石としてはあり得ないし人造石としても配列の 意図が意味不明でな」
「…ごめん、兄貴の言うことのほうが意味不明」

 素直に降参するゴドー。

「まあ、お前にも判りやすく言えば…」一考し、告げる。「石を形作る 結晶の配列が…宝石の構造というよりは、“何かの回路”みたいな、 “機械の構造を作る配列になっている”ってことだ」
「…要するにそれって、あの放電する武器の?」
「少なくとも、常識的にあの小ささじゃ、強力な発電機なんてのにはなって ないはずだがな」
「それじゃなんにもなんねえよ畜生!」地団太を踏む。「あの武器の秘密が 判りゃあ、もうあんなチョキチョキ野郎なんかに遅れは取らないってのに!」
「お前まさか、それ目当てでこのレドラー調べさせたのか?」
「たりめーだい! 新装備を施した〈ガッツ〉で、今度こそあンの野郎…」
「――無理だな、あきらめろ」ゴドーの闘志に、冷ややかに水を差す。 「たとえ〈ガッツ〉に大砲だの装甲だのをいくらくっつけようが、お前じゃ 絶対、あいつらには勝てない」
「あんだよ! そんなもんやってみなきゃ」
「やらなくても判る。俺の勘が間違ってなけりゃ、あいつらは〈デュケーン 騎士団(ナイツ)〉っていって、俺の知る限り帝国、共和国のどちらも 恐れる最強の〈誇り高き騎士〉、その生き残りだ」
「最強の…騎士ぃ?」
「戦時中から帝国、共和国どちらにも与さず中立を保ち続けた小国が あったんだが、その自治権を最後まで二大大国から護り通したのが、その 国最強の騎士団〈デュケーンナイツ〉。厳しい試験を通った精鋭のみで 構成され、鋼鉄の戒律にて統制された地獄の黒騎士。常に二人一組、 〈矛〉と〈盾〉を司るデュオで行動し、その手に取る〈矛〉と〈盾〉として ロードゲイル、スティルアーマーが与えられていた…」

 ストライクの話に言葉を失っているゴドー。

「だが1年前、国は謎の“消滅”を遂げ、その最強の騎士団も共に 失われたと思っていたが…」
「ク、国が消滅って何だよ!?」
「文字通り、“消えた”んだよ…」


 フォン・ツォーンもまた荒野にいた。
 フォッシルコロニーの重要人物たる企業の若社長にして、フォッシル コロニー最大手のゾイドハンター、ツォーンハンティングのリーダーでも ある彼もまた、近頃業界を悩ます襲撃者ハデスの退治に乗り出したのだ。
 その乗機、シャドーフォックスを中心に荒野を行く、ブロックスタイプの ゾイドを中心としたツォーンハンティングの機体群。
 そしてそのメンバーの中に、何故かジェリー・カーライル駆る レオブレイズ〈ライオット〉の姿もあった。


「ジェリーが僕の仲間に加わってくれたことは素直に嬉しいよ。腕利きの ハンターがいてくれれば百人力だ」
「別にあんたの仲間になった覚えはないっての…」
「でもー、大勢いるとにぎやか」

 コクピットの中、つまらなそうに舌打ちするジェリーと、通信機を 介してのほほんと交信を交わすアミーナ。
 そのアミーナは、一行のすぐ上空を、〈白く塗装されたレドラー〉に 乗って低空飛行している。もちろんハデスを誘き寄せるため、ジェリーが フォンの所有する通常型のレドラーを白く塗り替えた、本来の彼女の乗機 とは別物だ。
 リベンジの意欲に燃えているゴドー同様、ジェリーもまた前回ハデスに 手酷くやられた借りを返すべく行動を開始したのだった。そしてフォンが ハデス退治に動き始めたことを聞きつけ、自ら捕獲作戦を立案し協力を 申し出たのである。

「まあエース機のロードゲイルとスティルアーマーと言えど、僕の装備の 前では問題ない。それにジェリーの作戦まで加われば怖いものなしさ」 財力に裏打ちされた自信を覗かせ、能天気に高笑いする。「どうだい ジェリー、今回の狩りが終わったら、前から言ってた僕のところと君の ところでの合併の話、もう一度話し合ってみようよ。もちろんジェリー には僕の片腕として、チーフハンターの座を用意するつもりだよ」
「ハイハイ考えておくわよ」

 苦虫を噛み潰した顔にてフォンとの交信を切る。文字通り苦々しいが、 歴然とした実力差が獲物との間にある以上、今回の作戦にはこのバカ大将の 財力が必要不可欠だった。

「ゴドーも連れてきてあげればよかったねー」
「あンの単細胞がいたら、綿密な作戦もぶちこわしになっちゃうわよ」

 アミーナの言葉に、ぶすっと告げる。どうにもゴドーと一緒に行動 すると、ジェリーにはやけにツキがない。

「ったく、頭も悪けりゃ口も悪い、獲物と見ればすぐ飛び出していくし。 アミーナもあの単細胞のお守り、大変じゃないの?」
「えー? ゴドー、そんなに悪い子じゃないと思うー」
「そりゃまー、一応でもお世話になってる分には言いにくいかもしれない けど…」
「うーん、でもねー、ゴドー、褒め言葉はとっても上手」その言動を、 思い出しながら告げる。「えーとねー…私の目のこと、キラキラした… そうそう海みたいとかガラスみたいとか言ってくれたの」
「あいつ、いつの間にそんな凄い口説き文句覚えたの…?」眉間を指で 押さえる。「…まあ、小さい頃は、もうちょっと素直でいい奴だったんだ けどね」
「ゴドーの、小さい頃?」
「まあ一応、ちっこい頃からのくされ縁だしね」つまらなそうに言う。 「ゴドーね――小さい頃はいつもお母さんの後ろでオドオドしてるような 気弱な子でね、よくイジメられて泣かされてる度に私が助けてやった もんだけど」
「…うーん」

 想像しにくいのか、唸るアミーナ。

「そうだよね、あんな意気地なしの泣き虫くんが…あんなことさえなけりゃ …」

 ジェリーがそこまで言ったときだ。
 狩りの時間が来た。

 待ち構えていたかのように、荒野に屹立していた。ツォーンハンティング のハンター用ゾイドたちの一行の前に、立ち塞がる1機のロードゲイル。 ハデスの機体である。

「現れたな、襲撃者!」大見得を切ってフォンが宣告する。「これ以上 狼藉を重ねるつもりなら、フォッシルコロニーナンバーワンのハンター、 ツォーンハンティングが相手する! もちろん、君の言い分も聞かないこと はない。大人しくその機体から降りて――」
「その田舎コロニー、ナンバーワンのハンターチームと確かに聞いた」 フォンに最後まで言わせず、告げる。「――つまり、お前たちを倒せば、 自分に歯向かうハンターはいなくなる」

 言うが早いか、飛翔するロードゲイル。その瞬発力を生かした超速にて、 群がるハンター用ゾイド群の真っ只中に踊りかかる。
 真っ先に、その翼を引き裂かれる宙空の偽レドラー。

「キャア!」
「紛い物などと、小細工を弄して!」

 アミーナの悲鳴の尾を引き、落下していくレドラー。


 カーライル一家、整備工場。
 整備ハンガーに固定された白いレドラーが、突然金属的な咆哮を上げた。


 更なる獲物を求めて右腕のエクスシザースを振り上げるロードゲイル。 しかし、

「来たぞ、散れ!」

 フォンの号令一閃、てんでバラバラの方向に散るツォーンハンティングの ゾイドたち。ただしフォン駆るシャドーフォックスのみが、ロードゲイルに 向かって背のAZ30mm撤甲レーザーバルカンを撃ち放つ。当然のごとく、 シャドーフォックスを狙って飛来してくるロードゲイル。

「頼むぞ〈デアボリーク〉!」自機の名称を叫ぶフォン。「クリス、 作戦通りだ。ユニゾン行くぞ!」
「はい、フォン様」

 飛行型の機体であるナイトワイズに搭乗する、うら若い女性ハンターが 頷く。眼鏡を掛けた理知的な美女だか、服装は何故かメイド服だった。 ちなみに、ツォーンハンティングのメンバーたる訓練された腕利きの ハンターたちは、すべてツォーン家に仕えるメイドで構成されていた。 深い意味はない。金持ちキャラの嗜みだった。
 そのメイドもといハンターたちのリーダー格でもあるクリスの ナイトワイズが、大地を疾走するシャドーフォックス〈デアボリーク〉に 上空から急接近する。重なる2機の機体のシルエット。



 Zi-ユニゾン。2機のゾイドが一体化し、その持てる能力を 1+1=?の公式どおり相乗効果にて開花させる。シャドーフォックスの 背にナイトワイズの翼が大きく開いたその姿は、ナイトフォックスとも 呼称されるユニゾン形態だ。
 ナイトフォックスへと合体(ユニゾン)した〈デアボリーク〉の超速が、 たちまち迫り来るロードゲイルを引き離す。あからさまに、捕まえられる ものなら捕らえてみろという挑発だ

「何のつもりかは知らないが――」

 あえて、その挑発に乗るハデス。今回の目的は、あくまでフォッシル コロニーにて一番と呼ばれるハンターを黙らせることなのだ。
 地を高速で駆ける〈デアボリーク〉を追い、両脇を断壁で挟まれた、 渓谷の狭間へと誘い込まれるロードゲイル。そこで、〈デアボリーク〉が 装備された6基のスモークディスチャージャーを放った。
 たちまち濃い煙幕に満たされる渓谷の狭間。視界を奪われた ロードゲイル、空中制止してその煙幕が晴れるのを一時待つ。そして、 黒煙が薄れ視界が戻ってきたとき、ハデスが見たものは、

「そういうことか」

 ロードゲイルを囲んだ断壁の上、それぞれ火器を向けて待ち構えている ツォーンハンティングのゾイドたち。さらに上空には、その翼を一杯に 広げ飛翔した〈デアボリーク〉の姿もある。

「撃て」

 フォンの号令、ゾイド群の火器が一斉に下方のロードゲイルへと撃ち 放たれる。

「させん!」刹那、その場に飛び込み、割って入る巨体。ヘルメスの スティルアーマーだ。「私は――騎士の〈盾〉だ!」

 ロードゲイルの元に着地する寸前、首元のスティルシールドより Eシールド発生、そのエネルギーの防壁がロードゲイルをも包みこみ、 ハンター用ゾイドたちの攻撃をすべて防ぐ。
 含み笑いを漏らすハデス。

「つまらん手段だったな」
「まさか、これで終わりとでも思った?」

 その、ハデス退治の作戦を立案したジェリーが告げる。気付いたときには、 渓谷の狭間の出入り口の前後を、ガンブラスター、ディバイソンという 重火器装備型のゾイドがふさいでいた。

「撃っても駄目なら、埋めちゃえってことよ」
「ジェーン、ダイアナ、撃て!」

 それぞれの機体に乗った、メイド姿の女性ハンターが引鉄を引く。
 ガンブラスターが背の、ブレーザーキャノン×2、パルスガン×2、 サンダーキャノン×2、連装加速ビーム砲×1…etc.と重火器類を 束ねたハイパーローリングキャノンを、ディバイソンが装備された 105mm17連突撃砲に2基の8連ミサイルポッドをそれぞれ、 渓谷の内側へと撃ち放った。ろくに照準も付けられていない大火力の応酬。 もちろんどれだけの火力をもってしても防御力に特化したスティルアーマー のEシールドを簡単に破れはしない。だが「断壁を突き崩し、2機を 生き埋めにする」には、充分すぎるものだ――。
 轟轟轟…! 2機の重ゾイドの大火力の前に、狙い通り大規模崩壊を 巻き起こす断壁。その雪崩れ落ちる大量の岩塊の中、展開したEシールド ごと生き埋めにされるロードゲイルとスティルアーマー。

「ちょーっと物量任せの作戦だったけど…確実に取らせてもらったわよ」

 飛行能力を持つロードゲイルだけ逃げようにも、上からは他のハンター たちの機体が足止めしていたのだ。勝利を確信するジェリー。だが、
 DON! 岩塊の崩れ落ちた岩山が、内側から大きく弾け飛んだ。 その岩山を突き崩し、咆哮を上げて飛び出す…ロードゲイルともスティル アーマーとも違った、“二足恐竜”型のシルエットの機体――! それが、 すべての弾丸、エネルギーを撃ち尽くしたばかりのガンブラスターの 機体へと、ボクサーのグローブのごとく重厚な装甲に包まれた鉄拳を 揮って来る。


 鉄拳の一撃でハイパーローリングキャノンを破壊され、横から地面に 転がるガンブラスター。さらに、反対方向に飛び出したロードゲイルも、 やはり砲弾もミサイルも撃ちつくしたディバイソンを左腕の マグネイズスピアで仕留める。

「な、何なのよあいつ!?」
「考えが甘かったな、ゾイドハンター」


 その、二足恐竜型の機体――格闘戦形態にチェンジマイズしたスティル アーマーに乗るヘルメスが唸る。さらに、上に陣取ったハンターたちの 機体、そのさらに上空へと飛翔するロードゲイル。もちろん、一直線に フォンとクリスの乗る〈デアボリーク〉を狙ってくる。


「しまった!」
「退屈凌ぎにはなったぞ、ゾイドハンター」

 〈デアボリーク〉に揮われる2本の長槍…瞬間、
 GAN! 突如、ロードゲイルを横からの衝撃が襲う。アミーナの白い レドラー…間違いなく本物のほうだ。その白い機体がハデスの機体に横から 突撃を喰らわせたのだ。

「間に合ったぁーーーッ!」

 そして、その場に駆けつけてくる、ゴドー駆るゴドス改造機〈ガッツ〉。

「フォンさん、大丈夫?」

 レドラーに乗るアミーナが言う。先程、撃墜され不時着した偽レドラーの 元に、町から高速で飛来した本物のレドラーが駆けつけたのだ。そして ゴドーも、飛び出したレドラーを追ってこの場に駆けつけてきたのである。

「ジェリー、フォンの旦那、俺にナイショでアミーナをこんなヤバい仕事に 連れ込みやがって! あとできっちりナシつけるかんな!」着地した、 ハデスのロードゲイルのほうを向く。「ハデス! こないだの借りィ、 利子付けて返しに来たぜ」
「まだ懲りないか、悪趣味なゴドスのハンター」
「悪趣味じゃねえ、こいつの名前は〈ガッツ〉だ!」〈ガッツ〉を、真っ向 からロードゲイルに対峙させる。「そして、俺の名前は…ゴドー・ スマッシュ! ゾイドハンターの天下ァ取る男だ、憶えときやがれ!」
「よかろう――こちらも、機体に傷を付けられた借りがある」

 互いに駆け出す2機。先制とばかり〈ガッツ〉が拳を揮うが、その翼で 跳びもせず悠々とかわしてみせるロードゲイル。

「このッ!」

 真横にかわされたことで、尻尾を地に打ち付け無理矢理進行方向への 慣性を変化、電磁ブレイカー内臓のショルダーアタックを喰らわせようと する。

「何度も同じ手は喰わん」

 その〈ガッツ〉に、マグネイズスピアの長槍を横から叩き付けた。 突撃の体勢を払われ、横から地面に激しく倒れる〈ガッツ〉。

「こっ、この!」

 〈ガッツ〉を立ち上がらせる。と、その背後から飛び出す、赤い四足獣型 のシルエット、

「ハデェェェス!」ジェリーの〈ライオット〉だ。その鉄爪ストライク レーザークローを揮う。「あんたへの借りは、私が返す!」

 だが、
 ガキッ、その鉄爪が届く寸前、〈ライオット〉をロードゲイルの エクスシザースが掴んでいた。邪魔だとばかり機体を横に投げ飛ばす。

「このオォォォッ!」投げ飛ばされる寸前、機体の尻尾であるザンブレード を切り離し、放つ。「ゴドーッ、これ使いな!」
「畜生! 畜生! 畜生ォッ!」


 地に突き刺さったザンブレードを取り、ロードゲイルに再度の突撃を 仕掛ける〈ガッツ〉。だが、その機体に真っ向から、マグネイズスピアを 高速で揮うロードゲイル。

「!?」

 一撃で機体を貫くのでなく、装甲を削るような浅い突きを幾度となく 仕掛けてくる。しかもその連続で放たれる突きのスピードはまさに神速、 ゴドーの目に攻撃の動きが捉えられないまま、新造した胸部装甲、電磁 ブレイカーを仕込んだ肩装甲、両腰の双方向ブースターという追加装備が ことごとく貫かれ、剥ぎ取られていく。
 最後に、アッパーとして揮われたエクスシザースが、〈ガッツ〉の威信 である頭部マスクを弾き飛ばした。その衝撃に、背中から倒される 〈ガッツ〉。その剥き出しになった腹を、ロードゲイルの足が踏み付ける。
 マスクの下、透明キャノピーまで全開になったコクピット、その コクピットにマグネイズスピアを向けるハデス。

「これ以上は目障りだ、ゴドー・スマッシュ。消えろ」
「お止めください、兄さま!」

 そこへ、意外な制止の声がかかった。そのハデスの妹、ヘルメスだ。

「反撃の手段を失い、生身になった相手を刺し貫くなど、そんなことは デュケーンの誇り高き騎士のやることではありません!」
「ヘルメス、前にも言った。誇り高き騎士などもうどこにもいない」 妹に振り向くことなく言う。「ここにいるのは…あの方との盟約のため、 悪魔に魂を売り払った、ただの狂いしゾイド乗り。生身であろうと 女子供であろうと、邪魔するものは容赦なく撃つ」
「兄さまに誇り高き騎士であってほしいと願ったのは――あの方では ないですか!」

 そのハデスの目が、妹の声ではなく、目前の光景に見開いた。
 剥き出しになった〈ガッツ〉のコクピット。その〈ガッツ〉の胸上、 ロードゲイルを無言でまっすぐ見据え、両手を広げ立ち塞がる…アミーナ。

「…まさ、か」

 ひと言だけ呟き、胸のペンダントをぎゅっ、と握る。マグネイズスピアを 引き、〈ガッツ〉の腹から機体の足を降ろした。

「ゴドー・スマッシュ。所詮貴様など我が足元にも及ばん。だが、まだ 戦う意思あるなら、貴様に10日間の猶予を与えてやる」〈ガッツ〉を 見下ろし、告げる。「その間、こちらとの決闘の準備をするも逃げ出すも よし。ただし忘れるな、10日後、確実にあの白いレドラーは戴いていく」

 それだけを宣告すれば、もはやこの場に用はない。背を向け、妹の機体を 引き連れて再び荒野へと歩み去っていくロードゲイル。

「…兄さま」どこか安堵した表情にて、兄に語りかけるヘルメス。 「…感謝、致します。まだ、誇り高き騎士でいてくださって…」
「最大限の譲歩だ。――奴等はお前が監視しろ。逃がさず、そして決して 手を出すな」
「はい」
「もしまだ戦うというのであれば…10日後確実に奴を殺す」


「ゴドー?」

 丸裸にされて倒れた〈ガッツ〉、そのコクピットをアミーナが覗く。 シートの上、膝を抱え、身を丸めて…震えているゴドー。

「…だいじょう、ぶ?」
「……」

 無言、応じないゴドー。やがて、ぽつりと漏らす。

「…こわかった」声に、わずかに嗚咽が混じっていた。「俺…俺、 あの日から、強くならなきゃいけないんだって…そう思ってきたのに、 怖かった、動けなかった、畜生、畜生…」

 呻きが泣き声に替わった。


   






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