第一話
「マリー、お前との婚約を破棄する!」
はい、王太子様から婚約破棄、いただきました。
本当に、婚約破棄する人っているんですね。
でも、どうしてかしら? 特に心当たりはありませんが……。
「ど、どうしてですか? フリューゲル様、理由を教えてください」
一応、動揺している風に装います。これで素直に受け入れるのも、どうかと思いますので。
正直、婚約破棄される前から、いえ、最初から気持ちなんて冷めていました。ただの許嫁ですし、向こうだって、私に興味を示したことなんて、一度もありませんでしたし。
「理由だと? とぼけるな! お前がアンナに執拗な嫌がらせをしていたのはわかっている。お前はもう、この国にいらない。出ていけ!」
はい、国外追放、いただきました。婚約破棄とセットです。
この二つは、けっこうセットになりがちですね。今更驚いたりなんてしません。
でも、私が嫌がらせ? なんのことかしら? えっと、今、王太子様の隣にいる方が、妃候補の一人のアンナ様でしたっけ。
「私、そのようなこと、していません。何かの間違いです」
「黙れ、言い訳など聞く気もない」
反論する間もなく、私は兵たちに連れられ、部屋から追い出されます。
去り際に振り向くと、アンナ様が憎らしい笑みを浮かべて、こちらを見ていました。
王太子様も笑みを浮かべながらアンナ様とイチャイチャしています。
ああ、そういうことですか。私は、アンナ様に嵌められ、王太子様も、それを容認していると……。
どうやら、王太子様は、アンナ様に首ったけのようですね。
それにしても、いろいろなしがらみから解放されて、気持ちがいいです。ピリピリした空気は苦手ですから。
もし私が聖女だったら、どうするんでしょう? この国にとって、かなりの損失ですよ。
まあ、私が聖女だったらの話ですけど……。