案里氏秘書判決 政権の関与どこまで
2020年6月17日 07時13分
公設秘書に懲役一年六月、執行猶予五年−広島地裁の判決で自民党の河井案里議員が失職する可能性が出てきた。昨年夏の参院選での公選法違反事件。次は議員本人や政権の関与の解明を強く望む。
「国政選挙の公正を害し、罰金刑では軽い」−広島地裁はそう量刑理由を述べた。
車上運動員十四人に法律の基準を超える報酬を支払ったとされる買収事件だ。
注目されたのは量刑だ。罰金刑か禁錮刑以上か−。候補者の親族や秘書らが選挙運動の計画や調整を担当する場合だと、禁錮刑以上で連座制の適用対象となる。罰金刑だと免れる。
禁錮刑以上の確定と行政訴訟を経て案里氏は当選無効となる。同じ選挙区での立候補も五年間禁止だ。その可能性が出てきた。
同時に夫の河井克行衆院議員とともに自民党から離党の意向と伝えられた。疑惑報道の段階で克行氏は既に法相を辞任してもいる。自民党への影響や安倍晋三政権への打撃となるのを極力回避しようとする狙いがあろう。
つまり、この事件は三層構造の疑惑と考えると理解しやすいのではないか。秘書レベル、議員レベル、政権レベルの三層である。
巨額の選挙資金が案里氏陣営に渡ったことが、重層的な疑惑をはらんでいることを何より物語っている。通常の十倍ともいわれる党からの一億五千万円。この一部が買収工作に回ったとみられているからだ。
議員レベルの疑惑とは−。河井夫妻が自ら多数の地元議員らに現金を渡した疑いだ。夫妻は買収行為を否定しているが、検察当局は任意捜査を続けている。
事実ならば有権者への冒涜(ぼうとく)であり、到底、看過できない。既に公設秘書が有罪判決を受けているのだ。議員として説明責任を果たし、自ら進退を決すべきである。
政権レベル、つまり政権の関与がどこまであったか。最も解明が望まれる点だ。巨額資金をなぜ案里氏陣営につぎ込んだのか。自民現職の溝手顕正氏が落選した選挙だったが、首相に批判的な言動で知られた人物だった。
政権の意図や指示が選挙に具体的にどう働いたのか。河井前法相は首相の側近だっただけに、その解明は必須である。
資金の流れは検察当局に徹底的に洗い出してもらいたい。何らかの不正があれば厳しく指弾しないと、「一強」の奢(おご)りがもたらす腐敗は進む。
PR情報