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小説

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はじまり4

『もしもし。今大丈夫?』

早苗の明るい事が流れてきた。


『ああ。今聞き込み対象者の通う高校の近くにあるファミレスにいるよ。授業が終わるのが15時過ぎだからそれまでここで時間を潰そうと思っていたところだよ。』


『そうなんだ。私は今やっと昼休憩。今日もなんだか忙しいよ〜。また今日も疲れてすぐに寝たくなっちゃうかも。』


『おいおい。今日も俺をふるつもりか?』


『冗談だって。明日は休みだから、何時までもお腹を空かせて待ってるよ。コウちゃんこそいつものように仕事が長引いたってドタキャンしないでね。』


『わかってる。相手は学生だから、日付が変わる事は無いと思うよ。派手な夜遊びをするような娘じゃないようだから大丈夫だよ。』


『そう。じゃあお腹が空いて即神仏にならなくて済みそうね。』


『当たり前だよ。俺が今までに嘘を言った事があるか?』


『そんなの毎日言ってるじゃない。あっ!後輩を待たせてるから、もう切るね。ランチランチと。じゃあ夜ね。』


『わかりましたよ。エリアマネージャーさん。』

『なんか今のってバカにしてない?』


『そんな事ないよ。ほら。後輩待たせてるんだろ?早く昼飯行かなきゃ。』


『わかった。じゃあね〜。』


電話が切れた。


早苗と話しをすると、いつも元気をもらえる。


早苗は関東・中部・関西に店舗を持つアパレルメーカーのエリアマネージャーをしている。


中野に住んでいて、今は代官山の店舗のリニューアルオープンで忙しいようだ。


彼女と初めて逢ったのは2年前。


俺が浮気調査で池袋で尾行して、棒になった脚を休めるために入ったバーだった。


そのバーは俺の情報屋の経営する店だ。


俺は店に入ると指定席になっている最奥のストゥールに腰掛けた。


俺は渇ききった喉をビールで潤した。


マスターといつものように他愛のない会話をしていて、盛り上がりを見せた時。


マスターが横に目配せした。


マスターの視線の先には女性がひとり座っていた。


店に入った時に女性の存在には気づいていたが。

その女性は、氷が溶けきって汗をかいたグラスをじっと見つめていた。


涙が頬を伝っている。


俺は見ず知らずの女性にはまず声をかけないが、その時は自然に言葉が出た。


『若い女性が独りでグラスを眺めて泣いているのは穏やかじゃないな。』

しかし言葉は返ってこない。

更新日:2011-06-11 22:23:19