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小説

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はじまり3

目が覚めた。

時計を見ると正午を少しまわっていた。


昨夜は早苗に『疲れちゃった』と体よくふられて、まっすぐ家に帰る気にもなれずに阿佐ヶ谷の自宅兼事務所の近所にある飲み屋に行き、酒をしこたま飲んでしまった。


俺は重く微かな痛みのする頭を上げてベッドから抜け出した。

そのままシャワーを浴びる。


シャワーを浴びると徐々に意識が覚醒してきた。

シャワールームから出て冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してソファーに腰掛けた。


テーブルに目をやると、昨日木村春子から受け取ったメモが置いてある。

木村夫妻の姿が目に浮かぶ。

父親博之は幾分後退した生え際の額に汗を浮かべて、俺に『お願いします』と痩せた小さな体をいっそう縮込ませて連呼していた。


メタルフレームのメガネが神経質そうな印象に拍車をかける。

会社では怖い上司なのだろうか。


それとは対照的に母親春子はふくよかで、普段はきっぷのいい肝っ玉母さんなのだろう。


しかし昨日は博之同様、焦燥した表情を浮かべていた。


どちらもあまり眠れていないのだろう。


次に昨日預かった木村恵子の写真に目を移した。

木村恵子は特に派手ではなく、かといって特別地味でもない。


写真の木村恵子は屈託のない笑顔を浮かべている。


彼女に何があったのだろう。

母親曰わく失踪前にこれといって喧嘩をしたり、叱ったりはしていないと言っていた。


時計を見た。


13時12分。


ここで考えをめぐらせても何も解決はしない。


俺は着替えて、電話を留守番の待機状態にして部屋を出た。


俺の事務所はJR阿佐ヶ谷駅北口のロータリー脇の、古びたビルの3階にある。


目指すは木村恵子が通っていた、荻窪駅近くの高校だ。


仲の良い中田真由美と山岡あいりは同じ高校に通う同級生だ。


荻窪駅まで一駅、電車で行こうか迷ったが歩いて行く事にした。


銀杏並木の中杉通りを歩き、青梅街道を右に曲がって荻窪を目指す。


荻窪駅まではゆっくりと30分近くかけてたどり着いた。


駅から延びる商店街にあるファミレスに入る。


ランチとドリンクバーを注文して、腹ごしらえをした。


食後のアイスコーヒーを飲みながら煙草をくゆらせていると携帯電話の着信音が鳴った。


早苗からだった。

更新日:2011-06-11 01:52:50