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小説

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はじまり1

『お話しをお伺いする限り、それほど日にちがかからずにお嬢さんは見つかると思います。』


俺は内心楽勝仕事だと思った。


『そうですか。どうかよろしくお願いします。』

失踪人の捜索依頼者の木村博之は今までとは打って変わって、明るい表情を浮かべた。


『これは差しあたりの経費にしてください。』


木村博之は茶封筒を差し出してきた。

中身を確認すると10万円が入っていた。


『今の時点ではここまでは必要ありません。』


俺は自分のプライドを主張するように、茶封筒から3万円を引き抜いて残りを博之に返した。


『あとはこの件が解決した時に成功報酬として請求します。』


博之はぺこぺこと何度も頭を下げながら『どうかよろしくお願いします。』と連呼している。


仕事では幾度となくこのように、下げたくもない頭を下げてきたんだろうと少し痛々しく思った。

『ただし、お話しを伺っただけなので話しが複雑になって日にちがかかる場合もありますので、一応その辺の心づもりはしていてください。』


万が一の伏線はしておかなければならないので、安堵しきっている博之に釘を刺しておいた。

『わかりました。』

ずっと俯いて沈黙を守っていた、木村春子が口を開いた。

『娘に何が起きたのかはわかりませんが、無事を祈っています。』

春子は目にうっすらと涙を溜めながら、気丈に顔を上げた。

『はい。では恵子さんが一番親しくしていたご友人を教えていただきたいのですが。』

すると予め用意していたのか、テーブルの下から1枚のメモを取り出し俺に渡した。


メモには中田真由美と山岡あいりという名前とそれぞれの住所と電話番号が書いてあった。

『でもこの2人も警察の方にお教えして、聞き込みもされたようですが何もわからなかったと…』

春子の表情が曇った。

『そうですか…でも案外警察には聞き出せない事がひょっこり聞き出せる事もあるものですよ。言ってしまうとまずい事があって話さないという事もよくありますから。』

『それはうちの娘が何か犯罪行為をしているとおっしゃるんですか?』

春子はやや気色ばんで言ってきた。

『いえいえ。そこまでは言っていません。例えば学校では禁止されているアルバイトをしている事が明るみになるとか、お付き合いしている人がいるだとか。人はそのような事でも口をつぐんでしまう場合があるんです。』

更新日:2011-06-12 21:42:54