2019年6月28日金曜日

いかにしてマクロ経済学はオワコンになったか

マクロ経済学という分野は、残念ながらもう所謂オワコンになってしまった。正しく言うと、実を言うとDSGEはもうだめです。突然こんなこと言ってごめんね。でも本当です。こんな感じだろう。

結論から言うと、データを見るふりをして実は全くデータを見ておらず、はっきりいってモデル化に失敗したからだ。とくに予測能力が兎角ないのが致命的だったと思う。予測能力がない結果、モデル・理論を通して将来の政策談義を結局は出来ないので、政策提言すらまともにできず、役立たずの烙印を押された。政策評価・提案等の役目は統計的手法を上手く用いている、応用ミクロの研究者が主に担うことになった。

そもそもの始まりは、合理的期待形成仮説というバカげた仮定に基づいて、数学音痴がmathinessにまみれたリアルビジネスサイクル(RBC)理論などという、さらにバカげた理論を推し進めた点であろう。それに呼応してニューケインジアンモデルが提供され、いわゆるDSGEモデルへと変化していった。

途中、善良なとある大学の計量経済学者達が、君たちの糞モデルはまったくもって現実のデータとフィットしないよと教えたこともあった。当然彼らはとある大学から全員追放され、今でもその大学の大学院では計量経済学が必修ではないようである。実に科学的で知的な営みだと思う。ビッグデータ、AIなどいう言葉が繰り返される現在、さらにそのグロテスクさが増す。

RBCが登場して40年位たつが、じゃあ何か一つでもマクロ経済学(者)の中に合意が形成されたのだろうか?デフレ(インフレ)は経済に悪影響を及ぼすのだろうか?金融政策は効果的なのだろうか?物価は粘着的なのであろうか?こんな基本的だと思われる疑問ですら、今なお議論中である。

結局、マクロ経済学者に何を聞いても、唯一統一した見解は「モデルによる」これだけだった。全く持ってばかげているというか、ひどく堕落していると思う。何一つ意味のある答えなんて帰ってこない。Aという議論もあるし、Bという議論もあるし、Cも起こり得る、全部がこんな感じだ。確かに真摯な人程、解答には慎重になると思うけど、何一つ分野の間で研究者に統一した見解がないのは、流石に科学的な学問とは言えない。

UCバークレーのエミ・ナカムラ教授が若手経済学者に送られる、大変名誉ある賞を受賞したのだが、評価されている点が実証的な手法を用いて今までマクロモデルで盲目的に仮定していた仮定が、本当に正しいのか否かを精査した点だそうだ。エミ・ナカムラ教授が優れた研究者であるのは確かだが、バカげた仮定に基づいて、バカげたモデル・理論を構築して、それを今までまともに検証してきませんでしたと言ってるようなもんである。マクロ経済学者は自分たちの行為に疑問を持たないのだろうか。データを使っているようにみえて、データを無視してきたわけである。

モデルで予想される動きと、現実のデータの動きに乖離があるとき、彼らはそれをパズルと呼ぶ。Equity Premium PuzzleとかShimer Puzzleとかそういうのだ。自分たちのモデルがそもそも間違っているという発想には至らないらしい。もちろんすべてのモデルは厳密には間違っているのだが、あまりにも当てはまらないということは、結局は依拠している理論そのものが間違っていることを示唆している。

彼らが何かを足りないと感じたとき、ショックや摩擦など、とにかく新しい変数をモデルに加える。結果として、過学習されたモデルが出来上がり、予測能力がまったくない何の意味もないモデルが出来上がるわけだ。変数を増やせば訓練データ内でのフィットが上がることくらい、学部程度の統計学の知識があれば分かりそうなものだ。モデル化がうまくいったからデータ内でのフィットがあがったわけではなく、単に過学習をおこしているだけなのだが、マクロ経済学者はなぜかモデル化が上手くいったと考えるらしい。

DSGEモデルの仮定は2つの意味で無視されてきた。1つめは実際のデータの動きとモデルの挙動があわない。用いたデータの中ですら描写力があまりない。それなのに、理論が間違ってるのではなく、他に何かがあるはずだという発想になる。2つめはモデルに課される数学的な仮定もチェックをまともにしない。

例えば、DSGEモデルとはとどのつまり、統計学でいう状態空間モデルである。状態空間モデルのパラメタが識別されユニークに決まるには、当然満たすべき仮定がある。最尤推定するにしても、ベイズ推定するにしても、そういう議論は基本的になされないし、たぶん一部を除き知りもしないのだと思う。彼らが好むモーメント法を用いた手法も、ほぼ間違いなく識別できていないと思う。そもそも状態空間モデルでのモーメント法というのは、統計学では殆ど研究されていない。これは統計学者が漸近手的に良い性質が無いモーメント法に基本的にはあまり興味がないこともあるけれど、状態空間モデルの統計的性質が比較的複雑なことに起因する。

そもそも彼らが統計的手法を用いてモデルのパラメタを推定することすら稀かもしれない。カリブレーションという不思議な加持祈祷でパラメータの値を定める習性がある。これは我々が作ったモデルが正しいとは言えないので、現実の動きに合うようにパラメータを恣意的にそれらしい理由を付けて定めましょうね、というものである。確率項を含めてモデリングをする意味が正直分からない。

勿論、前述のとおり統計的手法でパラメタを推定する人達もいる。多くはカルマンフィルターやSMCとMCMCを組み合わせてベイズ的に行われる。そうすると、いよいよDSGEというのはその意味も単なる統計モデルになるわけで、DSGEモデルの予測能力が問われることなる。

良く知られている通り、DSGEの予測能力(out of sample)ははっきりいって糞みたいなもんである。所謂誘導系と彼らが呼ぶ、簡単な統計モデルの方がよっぽど予測力がある。これをいうとDSGEモデルは予測を目指しているのではないと言われる。ああそうですか、じゃあなんで統計的手法を用いるんですかという感じである。DSGEモデルなんて数理的には結局はやってることは、統計モデルをデータにフィットしているだけであって、予測能力が低いのは汎化性能が低いだけ、つまりモデルがうんこってだけだと思うのだが、どうもそういうわけでもないらしい。そもそもデータ内の動きですら描写力がないのに、マクロ変数の相互関係なんてどうモデルを通して理解できるのだろうか。

普通汎化性能が低いのは、推定に用いたデータに過剰にフィットしているからで、そうするとそのデータ内でのパフォーマンスは基本的にいいことになるが、DSGEの場合は訓練データ内での当てはまりも別に良くない。非主流派の人達はDSGEを行き過ぎたモデル化と非難するが、全くの逆で現実の動きを全くモデル化できていないわけである。

モデルに予測能力がないということは、その枠組みでは将来のことを語れないということだ。政策運営で主に興味があるのは将来のことである。もちろん過去の事例から学べることがあるとは思う。しかしながら、財政破綻するのか否か、インフレ率は上昇するのか、金融政策は効果を生むのか、人口成長率はどうなるのか、これらの問いは全て将来についてであり、これらにマクロ経済学者はモデルを通して答えることが出来ない。結局のところ、彼らが将来について何か意味のあることをいえない、もしくは急に耳が聞こえなくなるのは、予測能力がないモデルを通して何かを語ろうとしているからに他ならない。

そして決定的なのが、統計的(機械学的)手法と絶望的に相性が悪い。マクロ経済学は説明しようとしているのは当然マクロな経済で、四半期毎に蓄積されたデータを主に用いている。30年分のデータを集めてもサンプルサイズはたかだか120程度だ。DSGEは複雑な状態空間モデルなので、パラメタを推定するにはある程度のデータサイズが無いと上手くいかないと予想できる。もしくは、30年分の四半期データでどの程度のDSGEならうまく推定できるかという議論もあるべきだと思う。

なのでそもそも頻度論的手法でモデルのパラメータを推定すること自体が笑いどころなのだけれど、前述のナカムラ教授の様に、大量のマイクロなデータと洗礼された統計的手法を用いてファクト・ファインディングを行うという科学的な行為も行われている。しかし結局のところ、いくらファクトが集まって所で、DSGEに固執している限りはモデルの枠組みではそれを取りいれることが出来ないので何の意味もない。

一般均衡モデルを用いている人はよく部分均衡モデルを馬鹿にしているが、部分均衡モデルのほうがよほど科学的な分析手法を提供しているし、統計学的手法とも相性が良い。巷でいう経済学が世の中で役に立つというのは、主にこういう(実証IO)経済学を専門にしている人達であって、決してDSGEをもちいてナルニア国の話をしている人達ではない。

かくいうわけで、バカげた仮定を真面目に検討することもなく、批判を無視し、データ内での描写力も乏しく、予測力にも乏しいDSGEモデルを用いてマクロ経済を分析している本人たち以外は、それを科学的な行為と思っている人間はいなくなったわけである。

それでもなぜDSGEを用いる事をやめないかというと、結局はポスト獲得や維持に必要というだけであって、ようは既得権益を守りたいだけであろう。

オワコンになったか、とかいたが、そもそも始まってすらなかった気もする。


追記
何故かアクセスが急に伸びているので、統計学者からの意見という意味で動画を1本はってみる。
https://youtu.be/oYFjDt4-hFw

またルーカス批判がーというのもあるようだけれど、実証研究ではこの批判はそもそも基本的にサポートされていない。サンプルサイズが小さいから検出できないとか、理由は色々考えられているようだけれど。

今回の新型コロナでも分かると思うけれど、予測に使えないモデルってのは本当に現実世界では意味がない。

3 件のコメント:

  1. 読んでいて言い方はよくありませんが「クソほど」痛快でした。
    正直思ったのが、マクロ経済学者は全員統計学者(もしくは計量経済学者)に役職変換した方がいいのではないかということです。経済学者のままではいかにmathinessに汚れていようとそれに気づけないでしょう。
    筆者様は英国におられるようですが、日本ではまだmathinessの塊のような経済学が教えられています。どなたかこのmathinessから救って欲しいという学部生の素直な感想です。

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  2. うーん、とっくに議論を過ぎた古いマクロ(DSGE)批判だなこれ。

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  3. >k.o.2020年6月14日 21:28
    うーん、とっくに議論を過ぎた古いマクロ(DSGE)批判だなこれ。

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    2019年6月28日金曜日
    いかにしてマクロ経済学はオワコンになったか

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