琵琶湖畔の「ロイヤルオークホテル スパ&ガーデンズ」(大津市)の経営破綻が湖国に衝撃を与えた4月下旬、同市内の三井寺近くの老舗旅館が静かに幕を下ろした。スポーツ選手や生徒の宿舎として親しまれていたが、新型コロナウイルス禍で大会の中止が相次ぐ中、自主廃業した。
県旅館ホテル生活衛生同業組合の事務局員(46)は残念で涙を抑えられなかったという。ロイヤルオークのように耳目を引くケースは「氷山の一角」。水面下で事業をたたむ中小施設が増え、地域の活力が失われることを心配する。
普段乗降客の多いJR石山駅(同市)近くの石山商店街では、今も営業時間を短縮したままの飲食店が多い。同商店街振興組合の神崎光男事務局長(77)は「お客さんは半分も戻っていないと聞く」と肩を落とす。
知事の外出自粛・休業要請後、新規感染者は目に見えて減った。滋賀県は再び感染拡大の兆しがあれば、政府の緊急事態宣言を待たずに休業要請を再開する構えだが、県中小企業団体中央会の日爪泰則専務理事は「正直、やめてほしい。補償のない休業要請は事業者に廃業しろと言うようなもの」と声を絞り出す。
補償の代わりに、県が休業要請に応じた事業者に支給する臨時支援金の申し込みは、8日までに6200件を超えた。ただ、地域経済の打撃は深刻だ。シンクタンク「中部圏社会経済研究所」(名古屋市)の試算では、コロナの世界的流行が今年末まで続くなどした場合、滋賀の県内総生産は1兆円減(2019年度比15・8%減、同研究所による推定値と比較)と、県の年間予算を超えるマイナス幅を見込む。
県より身近な市町の窓口には、困窮した業者や住民からの相談、苦情が引きも切らない。3月以降、新型コロナ特措法で権限が強化された都道府県知事と政府との間で各種調整がもたつく場面もあり、湖南市の谷畑英吾市長は「緊急事態措置を巡って国と県の対応にタイムラグが目立った。難しかったのは分かるが、県は現場が見えているのか不安だった」と振り返った。
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いまだ世界を混迷させている新型コロナ。緊急事態宣言は全国で解除されたが、未知のウイルスは京都、滋賀でも行政、経済、社会を大きく揺さぶった。次の感染拡大を見据え、現場の動きを検証し、課題をあぶり出す。