謁見の日、当日。天気はとても穏やかで過ごしやすい一日になりそうだった。森の中では馬車が使えず、一行は馬に乗って約束の場所へと向かっていた。木漏れ日が心地よく森林浴には申し分ない日和であったが、これから謁見する相手の事を思うと自ずと口数も少なかった。
出発する直前まで最高執行機関の会議は紛糾したが、取りあえず降臨した神を見極めるまでは国政に関わる人員を一時的に分ける事で一致した。
謁見に赴くのは火・水・風の神官長たちと、漆黒聖典からは第一席次の漆黒聖典、第五席次の一人師団、第八席次の巨盾万壁、第九席次の疾風走破が選ばれ、今こうして森の中を進んでいた。
人員を割いたのは万が一が起こった時に残された者たちが民を導く為なのだが、漆黒聖典はその万が一があった場合、国どころか人類の衰退は避けられないと確信していた。難度300の執事と難度170のメイドの主が、彼らより弱いとは到底思えなかったからだ。過去の神話を紐解いても神は絶大な力を振るっていた。戦力を分散したところで神相手では誤差でしかないであろう。
神官長達を見る。選ばれた神官長は老人2人と女性1人。僅かでも心証を和らいだものにしようとする苦肉の策であり、老い先短い者を死地に送り若手を残す、国としての保身の表れであった。 しかし、彼らは信頼できる人物たちである事も確かだ。
火の神官長、ベレニス・ナグア・サンティニ。最高執行機関に所属する唯一の女性だ。彼女の深い洞察力は何度も国を救ってきた。
水の神官長、ジネディーヌ・デラン・グェルフィ。枯れ木の様な老人だが、知識と知恵は並ぶ者がない。
風の神官長、ドミニク・イーレ・パルトゥーシュ。元陽光聖典に所属し、数多の異種族を滅ぼした聖戦士だ。
決して捨て駒ではない。彼らは人類の未来を託しても問題ないと判断された者たちなのだ。
約束の場所に着くと漆黒聖典は困惑した。先日セバスと出会った場所の筈だが、景色が一変していたのだ。鬱蒼とした森林だった場所は小さな広場になっている。奥を見ると目的地に続いているのか5メートル幅ほどの道が伸びており、青々とした芝生が青空に照らされていた。
視線を広場に戻すと屋根のない豪華な4頭立ての馬車が2台止まっているのが分かる。そして繋がれている馬がおかしい。外見は全身金属鎧を纏った馬なのだが生命を感じない。恐らくゴーレムだろう。
そして何よりも目を釘付けにしたのは、馬車を取り囲むように宙に浮く6体の天使の姿。獅子の頭と2対の翼を持ち、光り輝く鎧を着用し、その手には目の文様が記された盾と穂先に炎を宿した槍があった。誰かが息を飲むのが聞こえる。
陽光聖典の隊員が召喚する第三位階魔法<
陽光聖典隊長のニグンが召喚する第四位階魔法<
伝え聞く魔封じの水晶に封じられた第七位階魔法<
隣を見るとベレニスとジネディーヌが涙を流しながら拝んでいる。だがドミニクの顔色は悪い。同じく漆黒聖典の隊員たちも緊張の色が見える。
元陽光聖典のドミニクも漆黒聖典の隊員たちも気付いてしまったのだ。この6体の天使が神人と同格かそれ以上の存在であることを。そしてこれから会う神は、この天使たちを戦闘などで窮地に陥った状況ではなく、送迎の馬車を護衛する為だけに召喚できる事に、気付いてしまったのだ。
『敵対してはダメだ』
「お待ちしておりました、皆さま。どうぞこちらの馬車へ。
短い距離ではありますがご案内させて頂きます」
天使たちに見とれてしまい不覚にも気付くのに遅れてしまったが、セバスと4人のメイドが一礼して立っていた。メイドの1人は見覚えがあるが残りの3人は初見だ。神に仕える者故か皆恐ろしいほどに美しかった。
促されるまま馬を降りると「お預かりします」と赤毛のメイドが手際よく馬を集めていく。短いやり取りではあるが、美しいだけではなく振る舞いも完璧なメイドである事が窺えた。一台の馬車に神官長たちと漆黒聖典、もう一台には漆黒聖典の隊員3名が乗り込む。
出発して間もなく、馬車に並行して飛ぶ天使たちをドミニクがチラチラと落ち着きなく窺っている。元陽光聖典である彼は天使たちが気になって仕方がないのだろう。そんな彼の代わりにセバスへ問いかけることにした。
「セバス様、此方の天使たちは如何なる者たちなのでしょうか」
「これはこれは、先に紹介するべきでしたね。気が付かず申し訳ありません。彼らは我が主人の召喚に従い現れた
「何位階の召喚魔法かご存知ですか?」
「申し訳ありません。それも存じません」
「そ、そうですか。いえ、お教え頂きありがとうございます」
いえいえ。と微笑むセバスと漆黒聖典の極々平凡な会話のやり取りを聞いて、神官長たちは若干緊張がほぐれたようだ。この素晴らしい天使たちを召喚した神ならば人類を守護してくださるかもしれない。そんな気がしてきたのだ。
林道を抜けて目的地に着いた一行はまたしても目を奪われる。鬱蒼とした森から林道を抜けて現れたのは、一面に咲く色彩豊かな花々だった。風が吹けば七色の色彩を以て花びらが舞い、暖かい日差しを受けてキラキラと輝いていた。
幻想的な花畑の中心に目をやると、終点と思われる遺跡があった。朽ちた神殿を思わせる外観だが、細々とした所を観察すると、その実手入れが行き届いた墳墓であることが分かる。
馬車が止まり天使たちが墳墓との間を繋ぐように整列すると、もはやその光景は天国のように思えてくる。ここが住み慣れた神都の中だと俄かには信じられない程、神々しい景色だった。
「では皆さま、ご案内させて頂きます」
あまりの情景に呆けているとセバスから声がかかる。セバスに付いて霊廟の中を案内されると、地下に降りる訳でもなく奥の壁に案内される。その様子に戸惑っているとセバスから説明が入る。
「本来であれば中央の霊廟から複雑な墳墓を経由しなければならないのですが、なにぶん広大で時間もかかるので別の手段を取らせて頂きます。ユリ、転移の準備を」
ユリと呼ばれた眼鏡をかけた夜会巻きのメイドが、突然何もない空間から人が余裕で通れるほどの大きさの額縁を取り出す。額には不思議な模様が彫刻されており、これがただの額縁ではないことを物語っている。事実、壁に掛けた瞬間、それまでただの石壁だった筈の場所が切り取られたかのように別の景色に変わったのだ。
「っ!!」
「では、どうぞ。お入り下さい。
「畏まりました」
そう言うとセバスが先導するようにその中へと入る。続いて恐る恐る中へ入るとそこは高い天井と大理石の床に赤い絨毯が敷かれた荘厳な廊下であった。そして突き当りには先ほど壁に掛けられたアイテムと似た、しかし大きさは倍以上ある枠がかかっている。前回のとは違い、今回は向こう側の景色は見えず、代わりに七色に光る薄い膜が広がっていた。
「玉座の間へは直接転移出来ないようになっておりまして、こちらを中継することになります。先ほどと同じように、どうぞお進みください」
圧倒されるばかりでセバスの落ち着いた声だけが救いだった。
一行は意を決すると中へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
一糸乱れぬ歓迎の言葉に迎えられる。先ほどよりも豪華な廊下が伸び、左右には美貌を誇るメイドたちが並んでいる。
セバスに案内されるまま付いていき、半球状の大きなドーム型の部屋にたどり着いた一行の前には巨大な両開きの門が鎮座している。右側には女神が、左側には悪魔が異常なほど精巧に彫刻されている。
「この奥が玉座の間でございます」セバスが深い一礼を一行に向けると、重厚な扉がゆっくりと開いていく。この先に神がいると考えると進むのに躊躇するが扉は開き続ける。ここまで来てしまってはもう後戻りは出来ない。
視界に飛び込んできたのは幻想的な景色だった。まるでお伽噺に出てくるような、玉座の間に相応しい荘厳な空間だ。そして一歩進み、左右から迫る形容しがたい気配に目を向けると、一行は後悔した。なぜ、ここに来てしまったのかと。
心のどこかで慈悲深い神を思い描いていた。礼儀正しい執事のセバスや美貌のメイドたち、そして力強い天使たちの姿、天国と見紛う楽園の様な墳墓の様子。神聖な印象を勝手に思い描いて、期待していたのだ。
期待していたのだが。
悪魔、不死者、竜、精霊、鎧騎士、昆虫。姿形が異なる者たちが通路の左右から一行を見降ろしていた。そのどれもが桁違いの力を持つ者である事は容易に判断できた。無言の視線が物理的な圧力となって押し寄せてくるのだ。
殺気を放ってきている訳ではない。ただただ居並ぶ上位存在を前に、人間として潜在的な恐怖を感じているのだ。
そして――
漆黒聖典の第九席次――疾風走破――ことクレマンティーヌは、人生の岐路に立たされていた。生まれ変わったというか、憑き物が落ちたというべきか。とにかく、クレマンティーヌは自分が変わったと自覚した。
今までの自分はドス黒い何かに凝り固まっていた。何が原因か、今ではハッキリとは思い出せない。それは小さな嫉妬から始まったような気がする。ただ兄が恨めしくて憎らしくて殺してやりたいと常々思っていたのだ。束縛する法国も嫌で嫌で仕方がなかった。漆黒聖典を抜けて自由に生きたいと思っていたし、実際その準備もしていた。
だけど、今日一日で全てが吹っ飛んだ。
今、自分は神前に居る。ここに来るまでに様々な奇跡を目の当たりにした。天使たちは一体一体が隊長に匹敵していたし、仲間から聞いていた通り執事もメイドも明らかに人の領域を超えていた。初めはコロコロと表情が変わる神官長や兄たちを見て面白がってはいた。だけどその余裕も玉座の間に着くと霧散してしまった。
(こりゃー、成るようにしかならないわ)
玉座の間で自分たちを囲む数多の人外。そのどれもが超越した力を持つ上位存在だ。多少なりとも強さに自信があったが、それもこの中では塵あくたに過ぎない。神々の視線の前にいかに自分の存在が矮小であるかを思い知らされたのだ。
横を見ると兄が壊れていた。元々兄は漆黒聖典の中でも信仰心が高い方だった。そんな彼が神を目の当たりにして壊れてしまった。目が狂信者のそれだ。これは自分の知る兄ではない。私が殺したかった兄ではない。まったく違う別の何かになってしまった。
殺したくて殺したくて堪らなかった兄が、いとも容易く目の前から掻き消えた。
そして兄への執着心が無くなってる事にふと気がついた。あれほど自分の中で渦巻いていたドス黒い何かが消えている。妙に清々しい気分だ。いや、若干昂揚している気さえする。上位存在に囲まれて、その視線に晒されることで生存本能が刺激されているのかもしれない。身体が妙に火照っている。敵を滅茶苦茶に蹂躙している時と感覚が似ている。一種の多幸感すら覚える。
今は国を捨てる前にここへ来られた幸運に感謝している。間違いなくこの墳墓の連中は近い未来、周辺国で何かを起こす。人間の生存圏が限られている以上、その何かから逃れられないだろう。
ならば強い側に付いた方が良いに決まっている。文字通り神の尖兵として武器を振るうのも面白いかもしれない。この異形種たちが綺麗事だけで済むわけがないのだから。
この謁見がどう転ぶのか。それが神官長たち任せなのが気に入らないが、頑張って良い方向へ導いてほしい。退屈だったスレイン法国は面白い事になるだろう。きっとそこには
今、目の前に神がいる。
子供の頃に何度も聞かされた神がいる。
漆黒聖典が信仰する神がいる。
漆黒聖典は見入っていた。彼だけではない。スレイン法国一行の視線全てが玉座に吸い込まれていた。
「スルシャーナ様……」
誰かが呟いた。いや、自分が呟いたのだろうか。スレイン法国の者なら誰もが知っている神。最後まで人類を守護して下さった神。六大神が一柱、死の神スルシャーナの姿が玉座にあった。神話の中でしか語られることのない存在が目の前に居られるのだ。
漆黒聖典は手足が震えている事に気付く。呼吸も苦しい。神人ですらこの圧力を感じるのだ。先日連れていた“相手の強さを直視”できる隊員を連れてこなくて良かったと思う。もし連れてきていたら発狂してもおかしくない。
神官長たちを窺う。後ろからでは表情は窺えないが気絶しないだけ大したものだ。仲間の隊員も顔色は悪いが動けそうだ。「行きましょう」と声を掛けると、足取りは重いがそれでも少しずつ進んでいく。
一行が玉座の前までなんとか進むと頭を下げ平伏した。
「モモンガ様、やまいこ様。スレイン法国の神官長がお目通りをしたいとの事です」
玉座の隣に侍る角と翼を持つ美しい女性が神に声をかける。
「良くぞ来られた、スレイン法国の者よ。私がこのナザリック地下大墳墓の主人、モモンガだ」
「同じく、ナザリック地下大墳墓の主人、やまいこ」
死の神と、隣は悪魔だろうか。このお二人が
「本日はお招き頂き心より感謝いたします。モモンガ様、やまいこ様」
「そこまで畏まらなくてよい。我々は有意義な対話を期待する」
「私共にお答え出来るものであれば何なりと」
「うむ。早速だが、お前達はユグドラシルに付いて、どこまで知っている?」
「神々が住む世界と聞き及んでおります」
神官長が簡潔に答える。
「ではプレイヤーに関してはどう認識している? この国には居ないと聞いたが、プレイヤーが居る国もあるのか?」
「ぷれいやーとは100年周期で降臨される神と認識しております。現在、周辺国でぷれいやーの存在は確認できておりません。しかし、お隠れになっている可能性はあります」
「隠れている、か。では、この世界に我々プレイヤーに匹敵する存在は居るのか?」
「
「残った
「スレイン法国の北、リ・エスティーゼ王国を挟んだ先にアーグランド評議国がございます。そこの永久評議員に
「どのような国だ?」
「申し訳ありません。国交が無く、複数の亜人種で構成された国としか分かりません」
「なるほど」
会話が途切れる。頭を下げたまま、改めて周りを窺う。場に慣れたので、先ほどとは違って幾らか余裕をもって観察できる。
モモンガ様は何か思案している。恐らく会話の流れから
玉座の周りを窺う。悪魔、昆虫、双子の
伝えられてきた歴史書の中で、これ程の規模で従属神を従えていた神は居ただろうか。それもどれもが異形種――。
(異形種、のみ)
ぞわりと不快な感覚が襲う。慌てて広場を窺うと何か嫌な予感を覚えた。セバスは従属神たる力を持っていた。人間では無いと言われても理解できる。ではあのメイドたちは人間なのだろうか。
杞憂で在って欲しいが、何とも言えない悪寒が走る。
「話を変えよう。もっと身近な話題だ。そうだな、このナザリック地下大墳墓が出現した森だが、どのような扱いになっている?」
「はい。国有地となっております。外縁部には小規模の公園が点在し、森林内の狩猟は免許が必要です。また国内で安全に林産物を得られる場所であるため、木の伐採は厳しく管理しております」
「ふむ。国有地か」
「もしお望みでしたら、直ぐにでも森林区をモモンガ様の所有地と致します」
「いや、それには及ばない。民には憩いの場が必要であろう。幸い墳墓は壁に囲まれている。今は不躾に入ってこなければ問題は無い。その辺はお前達が周知してくれ」
「仰せのままに」
「我々はこの世界の通貨を持っていない。そこでナザリックと法国の間で何かしらの金銭取引を行いたい。ついては打ち合わせをできる者を用意してほしい」
「畏まりました。後日、担当官を派遣致します」
「宜しく頼む。――ふむ。此方から今思い付くのはそれぐらいか。法国からは何かあるか?」
神官長たちが身じろぎした。いよいよだ。
「私共の願いは一つ。このスレイン法国を、ひいては人類を、モモンガ様とやまいこ様のお力で守護して頂きたい。人類は亜人や獣人に食い荒らされ、衰退の一途を辿っております。今は法国が辛うじて押し返しておりますが、これも時間の問題でしょう。どうか! 人類の守護を! 切にお願い申し上げます!」
「――断る」
その一言で広間の温度が下がった気がした。いや、寒気を感じているのはここにいる人間、つまり我々だけだろう。神官長たちが絶望してるのが分かる。
「まあ待て。そんな悲観するな。
モモンガ様は僅かに身を乗り出すと、神官長たちを諭すように続ける。
「種に対する価値観が違うのだ。600年前、六大神は人類の惨状に義憤……いや、義侠心から人類を守護したのだろう。だが私は違う。私は
最後の言葉が重くのし掛かる。特定の種を贔屓しない。スレイン法国には余りにも重い言葉だ。
「スレイン法国の者よ。今一度この広場を見渡すがよい。ここには様々な種が混在するが、私の前では皆平等だ。彼らは互いに争う事は無く、このナザリックの為だけにその力を振るう。私がこの世界の人類を守護したなら、人類は彼らと共に歩まねばならない」
神官長たちが頭を抱えている。モモンガ様の語る世界は彼らが想像してきたものとかけ離れているのだ。
「そこでお前たちに問う。スレイン法国の民に、私の支配を受け入れる事は可能か? 人類至上主義を明日から止められるものか? まかり間違って私の配下に手を上げるような事があれば、それは私への攻撃、裏切りとなる。その結果どうなるか、想像できぬほど愚かではあるまい」
「そ、それは」
すぐには無理だ。スレイン法国は200年前に従属神を失い、決定的に変わったと聞く。人類至上主義なくして存続はできなかった。それが正義だったのだ。今日明日で変えられるわけがない。急な方向転換は国を分裂しかねない。神官長たちもそれを理解しているからこそ反論できない。
「だから
「100年後の、未来」
漆黒聖典を含め、この場の人間には魅力的な言葉だった。末端の民ではなく国の中枢に携わり、人類の置かれた現状を把握しているからこそ、その言葉に救いを見いだせた。
“国”という括りではなく“人類”という尺度で見れば、法国は他種族に敵を作り過ぎていたし、人間同士で殺し合う王国や帝国も他種族に侵略されたら長く持たないのは明白だ。
だが、モモンガ様の言葉でまだ修正が利く事が分かった。モモンガ様は人類を待つと言ってくれている。対価を払えば力も貸してくれるとも。自分たちの代では確かに難しいが、いずれ神の支配下に並ぶ事が出来れば人類は滅亡を免れる事が出来る。
暫しの沈黙の後、神官長たちは覚悟を決めたようだ。
「モモンガ様。スレイン法国の代表として宣言させて頂きます。今後我々はモモンガ様の守護を賜る為に、法国を改革していく事をお約束します。差し当たりご提案頂いた奴隷の解放と教育から手を付け、法国民の意識改革を行いたいと思います」
「分かった。今後のお前たちに期待しよう。お前たちの言葉が真実であるなら100年後に次のプレイヤーが転移してくるはずだ。それまでに私の支配下に入り、国力を高めて欲しいものだ。次のプレイヤーが異形種狩り……、お前たちが言うところの八欲王寄りである事を前提に備えなければならないからな」
その言葉が何を意味するのかすぐに理解できた。歴史を繰り返さないように備えなければならない。500年前、八欲王にスルシャーナ様が
「では、今日はこの辺で終わりにするか。有意義な話し合いであった。帰りは我が配下に送らせよう。森林を抜けるのは手間であろう」
「そんな勿体無いお言葉! お気持ちだけで十分です」
「良い。未来の同胞となるかも知れんのだ。遠慮はいらん。シャルティア。<
「畏まりんした、モモンガ様」
返事をした銀髪の美少女が降りてくる。一行の目の前まで来て手をかざすと、空間に黒い靄のような塊が生まれる。
シャルティアと呼ばれた少女が優雅にお辞儀する。
「どうぞ。お入りおくんなまし」
「あ、ありがとうございます」
初めて見る魔法に驚愕しながらも、神官長たちは
「おっとそうだった。漆黒聖典といったな。お前は残れ。個人的に話がある」
「はっ!」
なぜ自分だけという疑問が湧くが、この雰囲気なら大丈夫だろう。他の隊員が心配そうな視線を送ってくるが、先に帰るよう目配せし、改めて玉座の前に膝を突く。
「面を上げよ。なに、堅い話ではない。折り入って相談があるのだ」
「は! 私にお答え出来る事であれば何なりと」
暫しの沈黙の後、神が言った。
「実はな、――冒険がしたい」
「はい。……はい?」
マーレが一晩でやってくれました。
クインティア兄妹はナザリックの威光を浴びた。
巨盾万壁、神領縛鎖、カイレ、生存。
カルネ村は今日も平和。