「新型コロナウイルスの感染が怖いから病院に行きたくない……」。そんな人が急増する中、注目されているのがオンライン診療。とはいえ、どこでも受けられるのか、どんな病気でも受診できるのか、薬はどうするのか、費用は変わらないのかなど、分からないことも多い。そこで、利用の手順や注意点について、厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」構成員でもある外房こどもクリニック院長の黒木春郎さんに聞いた。
スマートフォン(スマホ)やパソコン、タブレット端末などを使って、オンライン上で医師の診療を受けられる「オンライン診療」。2018年から保険適用になっていたが、受診歴がない「初診患者」の診療は認められなど、これまでは多くの規制がかけられていた。しかし2020年4月から、「新型コロナウイルスの感染拡大が収まるまで」という期間限定ながら、厚生労働省は大幅に規制を緩和した。
今回の規制緩和でオンライン診療はどう変わったのか? 受診するにはどのような手続きをすればいいのだろうか?
疾患の制限がなくなり、初診もOKに
「そもそもオンライン診療とは、スマホやパソコンといった情報通信機器のビデオ通話機能を使ってリアルタイムで行う遠隔診療のこと。2018年から保険診療ができるようになりましたが、対象となる病気は高血圧や糖尿病などごく一部に限られていましたし、かかりつけ医など、直接受診したことのある医療機関でなければいけませんでした。それが今回の“新型コロナ時限特例”で、疾患の制限がなくなり、どんな病気でも初診でも受けられるようになったわけです」。こう話すのは、2016年からオンライン診療を導入している外房こどもクリニック(千葉県いすみ市)院長の黒木春郎さんだ。
従来のオンライン診療では、その前に患者が医療機関に直接足を運んで「対面診療」を受ける必要があった。画面越しで行う視診と問診だけでは医師が得られる情報に限界があり、正確な診断が難しいことが多いためだ。保険診療の対象になる疾患も、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病などに限られ、オンライン診療は、そうした患者がかかりつけ医からいつもの薬を処方してもらう場合などに使われてきた。
しかし、コロナ禍が収束するまでは、当面、初診での利用も可能になり、また、どんな病気でもオンラインで受診できるようになった。実際、実施医療機関のリストを見ると、内科、皮膚科、循環器科、産婦人科、整形外科、アレルギー科、精神科、眼科、歯科……など、様々な診療科が並ぶ。
もっとも、すべての病気が対象とはいえ、病気や状態によって、オンライン診療への向き、不向きはある。黒木さんによると、オンライン診療では、「医師が問診と視診で診察することができること(触診や聴診は必要ないこと)」と、「医師と患者の信頼関係が構築され、ビデオ通話での意思疎通が十分にできること」が重要だ。
そのため、例えば花粉症やアトピー、甲状腺障害、不整脈、心不全、喘息、慢性肝疾患といった慢性疾患で症状が安定しており、薬の変更が必要ない人が、かかりつけ医から同じ薬を処方してもらいたい場合などにオンライン診療は大いに役立ちそうだ。また、精神神経疾患の人が精神科や心療内科を受診する場合や、介助が必要で通院が困難な人にも役に立つ。
もちろん、「新型コロナウイルス感染症かもしれない」と思うような症状がある場合にも利用可能だ。ご存じの通り新型コロナの感染が疑われる場合は不用意に医療機関を受診してはいけないが、自宅ならその心配はなく、患者にとってもありがたい。もちろん、それ以外の病気でも、オンライン診療であれば、「感染防止のため、できれば通院や外出は控えたい」と思う人にとって利用しやすい。実際、そう考える人は少なくなく、この4月以降、黒木さんの外房こどもクリニックでもオンライン診療の患者は倍増したという。
オンライン診療は、オンライン診療専用に作られたシステム(アプリ)をダウンロードして行う。専用システムには「クリニクス」「クロン」など様々な種類があり、医療機関によってどのシステムを導入しているかは異なる。そもそも、どの医療機関でもオンライン診療を行っているわけではない。
厚生労働省によると、2020年5月26日時点で、電話や情報通信機器などによる診療を行う医療機関は、新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての時限的・特例的な取り扱いも含めて全国で約1万5150カ所(ただし、この数字にはオンライン診療だけでなく電話診療も含まれる)。一方、日本医療ベンチャー協会のホームページに掲載されているオンライン診療実施医療機関の数は約1640カ所(2020年6月1日時点)で、いずれにしても、オンライン診療を行っている医療機関は全体から見ればまだほんの一部にすぎない。