記録も記憶も… 混乱生んだ目安、検証不能 <新型コロナ検証>

2020年6月14日 07時09分
 「感染したのでは」と心配する人が頼りにした相談・受診の目安は、どのような経緯で作成されたのか。詳細な記録は作成されず、関係者の記憶もあいまいで、議論の過程をたどれない状況だ。
 「結構、突貫だった。急いで(目安を)出すことになり、数日で作った」。厚生労働省の幹部は、目安の原案作成をこう振り返る。
 集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の対応に追われていた二月十六日。専門家会議の初会合は、目安づくりが主な議題だった。厚労省によると、翌十七日に公表された目安は会議での意見を受け、会議後に文言を調整したものだという。その過程で、原案にあった「四日を待たずに相談」との文言が削られた。
 会議での議論は、発言者名を伏せ、要点をまとめた議事概要が公開されている。会議は一時間半に及んだが、概要はペーパーで三枚。目安に関しては「発熱は三七・五度以上で良い」など、十一の意見が箇条書きになっているが、「四日を待たずに」との文言に言及した記述は見当たらない。
 文言削除は会議の中で決まったのか、その後の文言調整で削られたのか、議事概要では判然としない。複数の会議メンバーは取材に、初会合での議論を「ほとんど記憶にない」と話す。
 あるメンバーは「削除で深刻な影響が出るとは当時、誰も認識していなかった」と明かす。重症者はすぐに相談するものだという前提から、「四日を待たずに」の表現に関心は向いていなかったという。
 関係者の証言も食い違う。会議の脇田隆字座長は「受診の目安についてはその考え方を十分に議論したが、細かな書き方はあまり議論をした記憶がない。書きぶりは最終的に厚労省が決めたと思う」。厚労省側は「会議の意見を踏まえ最終的に座長と相談して決めた」と説明する。
 専門家会議を巡っては、野党から事後検証できるよう、すべての発言を記録した議事録の作成を求める声が出ている。メンバーらは議事録の作成に反対していないが、政府は作成しない方針だ。メンバーの一人で、川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「記憶はない。議事録や速記録があればわかるだろう」と話す。

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