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 構想の前提が大きく揺らいでいる。いったん決めたことだからと突き進む愚は避け、立ち止まって考え直すべきだ。

 新型コロナの感染拡大がカジノ事業者の経営を直撃している。安倍政権はカジノを含む統合型リゾート(IR)の実現を成長戦略の目玉に位置づけてきたが、先行きは極めて危ういと言わざるを得ない。

 日本進出を表明していた米カジノ大手のラスベガス・サンズが5月に撤退を決めた。横浜市が想定するIR事業者の有力候補だった。同社の1~3月期の売上高は前年同期の半分に落ち込んだ。大阪府・市の公募にオリックスと組んで応じた米MGMリゾーツ・インターナショナルも同じく29%の減で、今後の見通しも厳しいという。

 コロナ禍で、各国のカジノは店舗の閉鎖や営業の制限に追い込まれている。一部に再開の動きはあるものの見通しは暗い。

 にもかかわらず日本政府は姿勢を変えようとしない。理解に苦しむ話だ。今月9日の衆院予算委員会安倍首相は、「IRは観光先進国の実現を後押しするもの」と従来の答弁を繰り返し、「感染症への対応などで新たに生じうる諸課題も踏まえて、必要な準備を丁寧に進めていきたい」と述べた。

 たしかに政府がめざす20年代後半の開業まで時間はある。しかし仮に外国人観光客が戻ったとしても、すでに米国で実施されているように「3密」解消のため稼働率は抑えられる見通しだ。収益は当然下がる。加えてこの先は、人を介さずにプレーできるオンラインカジノが主流になるとの予測もある。

 政府のIR構想は、国際会議場や大がかりなビジネスイベントを開ける展示場に、カジノを併設して一体開発するものだ。コロナ禍を機にネット経由の会議や商談が広がるなか、こうした大規模施設がどこまで必要とされるかも不透明だ。

 誘致をめざす自治体はよく考えてほしい。暗雲漂う事業に地域の活性化を託し巨費を投じるのは、まさに賭けに等しい。

 1月には、IR担当の副大臣だった秋元司衆院議員が中国企業側から現金などを受け取ったとして起訴された。政府は事業者と政治家、自治体職員らとの接触ルールを設けると表明したが、それが盛り込まれるはずの「IR基本方針」は、いまだ明らかになっていない。

 朝日新聞の社説は、借金や家庭崩壊につながるギャンブル依存症の増加や、反社会勢力の資金源になることへの懸念などから、カジノ解禁に一貫して反対してきた。その思いはますます強い。今こそあやしげな観光戦略と決別する時である。

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