南北通信線遮断 瀬戸際外交通用しない

2020年6月12日 08時07分
 韓国からの宣伝ビラに、北朝鮮が反発している。韓国政府の対応にも不満を表明し、せっかくできた南北間の連絡網を閉じてしまった。南北が再び対立時代に戻らないよう、北朝鮮に自制を求める。
 ビラは脱北者団体が、風船に付けて飛ばしたものだが、北朝鮮側の対応は尋常ではない。
 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹で、党第一副部長の与正(ヨジョン)氏が「人間のクズ」「同族への敵意が骨髄まで満ちている」と激しい言葉で、脱北者や韓国政府を批判。韓国との通信線を遮断した。
 この中には、二〇一八年の南北首脳会談で設置された、朝鮮労働党本部と韓国大統領府間のホットラインや、軍当局間の通信線といった重要なものも含まれる。
 北朝鮮は一八年に結んだ南北軍事合意の破棄も示唆している。このままでは、軍事休戦ラインで不測の事態が起きる危険もある。
 北朝鮮側はビラが正恩氏を冒涜(ぼうとく)し、南北間の合意違反だとしているが、別の思惑もありそうだ。
 北朝鮮は、新型コロナウイルス対策のため中国との国境を封鎖した。これによって食料不足が深刻化し、一部の住民が飢えているとも伝えられる。住民の不満も高まっているという。
 このため、危機を演出して内部の結束を図る一方、米国との交渉を実現し、経済制裁の解除を実現したいのだろう。
 文在寅(ムンジェイン)政権を揺さぶれば、見かねた米国が交渉の場に出てくると読んでいるようだ。
 しかし、十一月に大統領選を控えるトランプ大統領には、リスクを伴う北朝鮮外交を行う余裕は、とてもなさそうだ。
 そもそも米国との交渉がうまく進まないのは、北朝鮮が非核化に真剣に取り組まず、弾道ミサイルとみられる飛翔(ひしょう)体の発射を繰り返すことにあるのではないか。
 ちょうど十二日は、シンガポールで行われた史上初の米朝首脳会談から二年を迎える。翌十三日は南北の交流などで合意した南北首脳会談から二十年となる。
 これら会談やそこでの合意は、挑発ではなく対話を通じて得られたものだ。
 思惑通りに進まないからといって、危うい瀬戸際外交を行っても通用しない。不満は、韓国側との協議の場で伝えるべきだ。
 一方、韓国政府は、ビラを散布した脱北者団体を刑事告発する方針を明らかにしている。しかし、安易な妥協は国内の分裂を招き、状況をこじらせるだけだろう。

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