はじめに
現在、ネット上で話題になっている東京蒸溜所 のブログ記事がある。このブログ記事では、経産省と一般社団法人サービスデザイン推進協議会の不可解な関係を指摘している。ここでは東京蒸溜所とは別の視点から経産省と一般社団法人サービスデザイン推進協議会の密な関係について考察する。
ドメインの登録者情報から分ること
東京蒸溜所のブログ記事では持続化給付金サイトのドメインの取得日が公示日の2日前であるという事実を根拠に入札情報が事前にリークしていた可能性について言及している。ここでは逆の発想で、一般社団法人サービスデザイン推進協議会が取得済のドメインから何らかの情報が掴めないかをドメイン検索サービスでドメインの登録者名から検索をした。結果、「MASK-SEIKATSU.JP」というドメインの存在が明らかになった。
電通との関連
ここで注目して頂きたいのが、ドメインの公開窓口情報である。公開連絡窓口は東京蒸溜所のブログ内でも関与が疑われた、大手広告代理店「電通」のシステム開発会社「株式会社電通国際情報サービス」という事が判明した。
MASK-SEIKATSU.JPというドメイン名から、マスクに関係した何らかのサイトであると容易に判断できる。東京蒸溜所の指摘する通り、一般社団法人サービスデザイン推進協議会が経産省から事業を受託する事を専門とする外郭団体と仮定した場合、このドメインも経産省から受託したの何らかの事業のために利用されるドメインなのでは無いかと推測される。
そこで、今回は「マスク」「システム構築」というキーワードから、公募事業を精査してみたところ、「在庫情報のリアルタイム共有に向けた基盤整備事業」という公募を発見した。
事業の目的は今回のコロナ騒動時に発生した、マスクやトイレットペーパー不足を踏まえ、これらの物資の在庫情報をリアルタイムに共有するというものである。
このドメイン登録日は2020年3月13日、そしてこの事業の公示日は2020年4月28日。このドメインがこのプロジェクトのドメインとして利用されるかは分からない。ただ、この先、このドメインが何に利用されるのか。また、経産省、一般社団法人サービスデザイン推進協議会、電通の巨大利権に絡んだ密な関係が見え隠れする。これらのステークホルダーが今後プロジェクトにどのように絡んでくるのかは、楽しみに注視していくつもりだ。
IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)に関する疑問点
一般社団法人サービスデザイン推進協議会は「IT導入補助金」の事務局として2016年から毎年100億円規模の事業を受託している。東京蒸溜所のブログ記事では資金の流れから疑惑を考察している。ここでは、別の視点から不自然な点を考察する。
あまりに短い補助金申請システムの開発期間
IT導入補助金事業では補助金のオンライン申請するためのシステム構築が例年実施されている。このシステム開発が例年、実質2か月程度という極めて短い期間で実現されている。公募内容を確認すると、3/5に間接補助団体の入札結果が公表されて、2019年IT導入支援事業者説明会の資料によると5/27には一般事業者の応募が始まっている。つまり、3/5~5/27の間でシステム開発が完了していることになる。これだけ大規模かつ複雑なシステムの構築が毎年2か月程度で完了するのが非常に不自然と思われる。
公募前から開発に着手している可能性
例年、一般社団法人サービスデザイン推進協議会がこの事業を受注することが確定しており、システム構築に公募の前から着手していた可能性が考えられる。東京蒸溜所のブログでも指摘されている通り、持続化給付金のドメイン登録が公示日前に実施されていた事実からも、この可能性は十分にあり得るのではないかと思われる。
なぜか既存の補助金電子申請システムを利用しないIT導入補助金
IT導入補助金についてネット上を調べていると、以下のページを発見した。ドメインが政府系のサイトで利用されるgo.jpという事もあり、このJグランツというサイトについて詳しく調べてみた。その結果、サイトは政府の補助金電子申請システムとして去年開発されたシステムのようだ。
https://jgrants.go.jp/subsidy/155
このシステムは民間事業者向けの補助金申請システムとして開発され、これまで紙ベースで行われていた補助金申請のプロセスを効率化する事を目的に開発されたシステムである。このシステムは昨年ローンチされ、政府広報などでも大々的に取り上げられている。Jグランツ上のIT導入補助金ページを読んでいくと、備考に以下のような記載を見つけた。
Jグランツ上ではIT導入補助金の申請ができず、IT導入補助金の専用システムから申請する必要があるようだ。参照URLをクリックすると東京蒸溜所でも触れられているIT導入補助金のページに飛ぶようになっている。
Jグランツについてさらに詳しく調べてみると、このシステムはどうやら「平成30年度経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業」として構築されたシステムのようである。公募ページの関係資料を丹念に読んでいくと、「別添 提案依頼書」P.9 の中で、このシステムは以下の補助金の申請を対象とすると記載されている。
- ふるさと名物応援事業補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金
- サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金 (IT導入補助金)
それぞれの、補助金がどのように公募されているのかを調べたところ、以下の通りIT導入補助金以外はJグランツを利用して申請が行われている。
ふるさと補助金 (JAPANブランド育成支援事業費補助金に名称変更)
https://jgrants.go.jp/subsidy/139
小規模事業者持続化補助金
https://jgrants.go.jp/subsidy/194
ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金
https://jgrants.go.jp/subsidy/162
同様に経産省のニュースリリース「補助金申請システム(Jグランツ)を開発しました」の中にある資料、「経済産業省対象補助金リスト」でもIT導入補助金はJグランツを利用すると記載されている。
なぜ、一般社団法人サービスデザイン推進協議会が事務局業務を運用するIT導入補助金のみがこのような運用になっているのか。本来であれば、他の補助金と同様にJグランツという一元化されたプラットフォームで運用する方がコスト的にも安く、利用者の利便性も高いのではないか。それが許されない何らかの事情があったのではないかと推測される。
令和2年度補正経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業に関わる不可解な点
東京蒸溜所のブログでは、主に過去のネット上の情報をマイニングすることにより、経産省と一般社団法人サービスデザイン推進協議会の間で入札を巡る出来レースの可能性について考察している。一方、私はこれまでの状況証拠から、近い将来起き得る可能性の高い事柄について追及してみたいと考えた。
そこで、経産省の公募情報から一般社団法人サービスデザイン推進協議会と繋がりが深そうな、「補助金業務運営」「システム開発」に関係する事業を精査してみた。その結果、以下の事業が目に留まった。
令和2年度補正経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業とは?
「令和2年度補正経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業」の公募要領を確認すると、この事業は「補助金申請システム(Jグランツ)」の開発と記載されている。ここでも登場するのが「Jグランツ」である。
要件定義書および別紙によると「既存システム」という記載があり、現状運用されている補助金申請システム「Jグランツ」の全面的なリニューアルがこの事業の趣旨のようだ。関連資料を読むにつれ、いくつか不可解な点が浮かびあがった。ここでは、この事業の「スケジュール」「リニューアルの理由」「仕様」の観点からそれらを検証していく。
スケジュール
仕様書および公募要項のから読み取れる情報によると以下のようなスケジュールになり、要件定義から開発、テスト、既存システムデータ移行まで数ヶ月でやり終えることになっている。
2020年6月 事業者決定
2020年12月 開発完了&既存システムデータ入れ換え
2021年1月 システム稼働・保守運用スタート
リニューアルの理由
前述の公募要領の関連資料の仕様書のP3に、今回のリニューアルの目的としては以下の通り記載されている。要約すると、「大規模な補助金には現行Jグランツシステムが対応できないため」とのことである。
現行システムは、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)」に規定された標準的な補助金手続フローを念頭に機能を実装したため、大規模な申請処理や政策目的に合致した審査等のために、より複雑な申請プロセスを設定している補助金では利用が困難である。
公募要領の関連資料の仕様書のP3
仕様
仕様書 P23「 9. その他特記事項」には以下の通り記載されている。要件定義書というファイルは存在するが、「補助金情報の作成が簡便・簡素にできる」程度のレベルしか書いておらず、開発仕様にはなっていない。また、現行のシステムの詳細については事業開始後に開示すると記載されている。
仕様書 P23「 9. その他特記事項」
受託者は、事業開始後に以下の資料の提供を受け、設計開発実施計画書及び設計開発実施要領の作成、クラウドサービスの選定等に反映を行うこと。
(1) 業務要件一覧
(2) 機能一覧
(3) 画面一覧
(4) データ項目一覧
(5) 他システム I/F 一覧
(6) 現行補助金申請システムに係る設計関係資料
(7) 現行補助金申請システムに係る運用実績関係資料
(8) 令和元年度経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業(補 助金申請システムの利用拡大に向けたシステム導入支援及びシステムの 在り方検討、調査等業務)成果物
令和2年度補正経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業(補助金申請システムの機能開発等に係る技術的支援を通じたマイクロサービス化等に関する調査実証事業)
また、補助金申請システム関連としてまた別の調達も見つかった。「補助金申請システムの機能開発等に係る技術的支援を通じたマイクロサービス化等に関する調査実証事」というタイトルになっている。
ここでも不可解な点は残る。マイクロサービス化がどのようなものを指しているのか、私は理解していないが本体のJグランツ全面リニューアルに関する調達の中で、今年度の大きな目的の開発要望としてマイクロサービス化と呼ばれるものが明言されている。それにも関わらず、その調査実証事業を別枠で実施するのも不可解である。つまりはマイクロサービス化の具体的な開発フィージビリティは不確定、あるいは半年の改修期間で不可能という前提で作り直し調達を行っているのではないか。そうなると現行Jグランツとの違いが読み取れず、さらに改修の目的自体が不透明になってくる。
また、開発事業は7.5億となっているが、この調査実証事業の予算は一般の公開情報としては閲覧できなかった。これは開発事業と調査実証事業の調達を分離することにより、予算総額をカムフラージュする目的とも伺える。総額でかなり金額となる調達群の意味が問われるのではないだろうか。さらに、この調査事業は経済産業省の表の調達ページに載っていないのも不可解である。
https://www.p-portal.go.jp/pps-web-biz/UAA01/OAA0104
補助金執行一般社団法人(仮称)とは?
入札の段階で詳細な要件が公開されていない、2年間の期間を要して開発された現在稼働中のJグランツシステムの全面リニューアル。しかも現行システムと同等以上の機能を盛り込む必要があり、現行システムからのデータ移行までが求められる。仮に7.5億円の予算を集中的に投入したとしても、数か月の開発期間で完了することは通常では不可能かと思われる。
ここで思い出していただきたいことがある。
東京蒸溜所の記事によると一般社団法人サービスデザイン推進協議会の登記前の仮の名前は、
「補助金執行一般社団法人(仮称)」であった。
現在、全面リニューアルが公募されている補助金申請システム、Jグランツが実現しているそのものが、その設立目的であったと書かれている。
この一見、実現が不可能と思われる公募だが一つの推論ができないだろうか。この入札案件は経産省と一般社団法人サービスデザイン推進協議会による出来レースであり、入札情報や詳細な仕様が公示日より前に一般社団法人サービスデザイン推進協議会に開示されていた。
そして、事前に開示された情報に基づき、すでに開発が行われているとは考えられないだろうか。東京蒸溜所のブログでも言及されている通り、持続化給付金のドメインが公示日より前に取得されていた事実から考えてもこれは十分に考えられるシナリオではないだろうか。そうであれば、あまりに短い開発期間と、それに見合わない大規模な全面リニューアルも説明がつく。
また、一般社団法人サービスデザイン推進協議会が事務局を務める、IT導入補助金事業のみがJグランツを利用しなかった理由も「現行のJグランツはIT導入補助金のような大規模な補助金では利用が困難、そのためにJグランツは全面リニューアルが必要だ。」という大義名分のためだったと考えられる。
そもそも、現行のシステムがそのままではIT導入補助金に利用できない(それも本当か疑わしいが…)という理由での全面リニューアルに7.5億円という金額を掛ける意味があるのかどうかも疑問である。基本的には現行のJグランツと同等機能+αのシステムを改修ではなく、翌年に全くシステムとして再度開発するという不自然さは誰しも感じるのではないだろうか。
まとめ
これまで、ネット上にて公開される情報をマイニングしながら経産省と一般社団法人サービスデザイン推進協議会に関する疑惑について論じてきた。今回のコロナ騒動の持続化給付金や、厚労省の雇用調整助成金のシステムで不具合が多発しているのも、公平かつ適切な入札が利権によって歪められているからではないだろうか。
このシナリオを裏付けるには、既存の「Jグランツ」と今回の公募の要件定義書を精査・比較し報道機関、システム開発の専門家、市民オンブズマン等による多角的な観点からの詳細な調査が必要である。