【特集】コロナ禍でも"休業手当"貰えない「名ばかり事業主」...数年にわたり会社側と交渉続ける英語教室講師たち
2020年06月11日(木)放送
「労働者」の権利を持たない英語教室の講師たちがいます。講師たちは会社の指示で社員とほとんどかわらない働き方をしているのに『個人事業主』とされ、新型コロナウイルスで休業した際も、会社から十分な補償を受け取ることができなかったといいます。一体どういうことなのでしょうか?
新型コロナで教室休校「休業手当なくお見舞い金のみ」
「ヤマハ英語教室」で講師をしている清水ひとみさん。28年前から働いています。大阪や京都で週に3回、小学生のクラスなどを受け持っていましたが、新型コロナウイルス感染拡大により、教室は2月下旬から休講になりました。しかし、労働基準法26条により、会社の都合で休業した場合、労働者は平均賃金の“6割以上の休業手当”を受けられるはずですが、会社側からは月収の20%、1万円にも満たない“お見舞金”が支払われただけでした。
「4月25日に2割のお見舞金が来ました。5月は無しです。6月も無しですね。『うわ、お金がない』という感じ。私は世帯収入があるので、生活はできていましたけど。すっかりお金が入っていないので。」(ヤマハ英語講師 清水ひとみさん)
清水さんのようなヤマハ英語講師は全国に1200人います。実は講師らは会社の指示で社員とかわらない働き方をしているにもかかわらず、労働者の権利を持たない『個人事業主』とされたため、会社側に対して労働者として雇用するよう求めている真っ最中です。では、一体なぜこのようなことになったのでしょうか。
「雇用契約」と「委任契約」
一般的な会社の場合、会社と従業員は「雇用契約」を結んでいます。従業員は労働基準法の対象となる「労働者」で、会社側から仕事の進め方や就業時間の指揮・命令を受けて働き、給与を受け取ります。今回のように休業した時は、休業手当を受け取ることが出来ます。
一方、講師らが教室を運営する「ヤマハミュージックジャパン」と結んだ契約を見てみると、『委任契約』と記されていて、報酬については「給与」ではなく「謝礼」となっています。
『委任契約』の場合、従業員は「労働者」ではなく『個人事業主』として扱われます。会社から管理されず、自分の裁量で働けるというものですが、『個人事業主』には労働基準法は適用されないため、休業手当を受け取ることができせん。
“名ばかり事業主”働き方の実態は“労働者” 都合の良い働き手に
しかし講師らは勤務時間や場所などについて会社の指示を受けるなど、社員と変わらない働き方をしていて、個人事業主に認められるはずの裁量は「全くなかった」といいます。
「実際、自分たちの裁量でレッスンをしているとか、自分たちの好きな時間に好きなことをやってレッスンをしているとかは、一度もないので。しっかり雇用されていると思っていました。」(清水ひとみさん・2019年5月)
清水さんは残業手当や有給休暇ももらったことがありません。また個人事業主であれば新型コロナウイルスにより大きな影響を受けた場合、国から最大100万円の持続化給付金を受けとることができますが、講師らは税法上は「給与所得者」として扱われているため、現状、給付金の対象外となっています(6月11日OA時点)。
労働問題に詳しい弁護士は「清水さんたちのような働き方は“名ばかり事業主”と呼ばれ、実態は“労働者”だ」と指摘します。
「よく最近言われているのは“名ばかり事業主”と言って、契約形態は委任とか請負という形で、いわゆるフリーランスの形態になっているけども、働き方の実態は“労働者”になっている。(ヤマハ側は)レッスン以外の色んな業務をさせても、報酬を払わなくてもいいし、最低賃金の適用の前提もないので、言ってみれば都合の良い働き手になってしまっているかなと思いますね。」(関西合同法律事務所 清水亮宏弁護士)
「直接雇用を結んで」労働組合結成
2018年12月、清水さんは弁護士らの支援を受け、仲間の英語講師ら14人で労働組合を結成し、自ら執行委員長を引き受けました。組合が求めたのは「講師は名ばかり事業主であり、実態に合わせて直接雇用を結んでほしい」ということ。一方、ヤマハ側は当初、「契約内容については会社の専権事項で、組合と必ずしも合意する必要がない」としたということで、雇用契約を結ぶかどうか、具体的な進展はありませんでした。2019年5月に清水さんを取材すると…
「すぐには解決はしないのかもしれないですけど、少しずつ進むかなとは思っています。まだまだ私達も考えないといけない。」(ヤマハ英語講師ユニオン・執行委員長 清水ひとみさん)
その後、11回にわたる会社側との団体交渉を重ね、組合員は14人から150人にまで増えました。
ヤマハ側、英語講師らと「雇用契約」結ぶ方針を組合に示す
そして2020年6月8日。
「会社と協議を重ねてきて、2021年度に雇用契約への変更の目途が立ったので、本日はご報告させていただきます。」(ヤマハ英語講師ユニオン・執行委員長 清水ひとみさん)
ヤマハ側が組合に対して『2021年度中に英語講師らと雇用契約を結ぶ方針』を示したのです。講師1200人のうち何人が対象となるかなど詳細は決まっていませんが、労働組合も大筋で合意しました。しかし、会見に臨んだ清水さんらに笑顔はありませんでした。
「本来もう少し早く雇用化されていれば、こんな立場にならなかったかもしれないという思いはすごくあります。今回のように社会全体が大変な状況になった時に、どこからも守られない存在になってしまいます。」(ヤマハ英語講師ユニオン・執行委員長 清水ひとみさん)
ヤマハミュージックジャパンはMBSの取材に対して「雇用化の検討を開始していますが、労働組合と交渉中のため、それ以上の回答は控えさせていただきます」とコメントしています。
(6月11日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)