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不必要の再定義
表現となったノイズ

Appが本来不必要なノイズを
身近な表現方法に昇華させる。

それまでの世界は静寂だったが、19世紀の機械の発明によって、ノイズが生まれた

未来派画家・作曲家ルイージ・ルッソロ

「ノイズ」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。それは、オーディオ機器の不完全な接続による耳障りな音や、自分が探している以外の、有益ではない情報かもしれません。ノイズとは、音響、映像、工学、機械学習などにおける、必要ではない情報のことを指し、私たちの周りの様々なものの中に存在します。

本来、不要なものであるにも関わらず、音楽の分野ではノイズミュージックというジャンルが確立され、映像の歪みはどこか懐かしい雰囲気を想起させ、デジタルイメージの歪みは予期しない美しさを観るものに与えてくれることがあります。

ゲームの世界観を創り上げるノイズ

まず、「NO THING」というゲームを例に挙げてみます。このゲームは、自動で先に進む主人公となり、左、右と操作して折れ曲がる道を進んでいきます。ゲームのルールはそれだけです。ステージをある程度進むと、次のステージに進めますが、曲がり角が次々と登場する道を踏み外すことなく先へと進むのは一筋縄ではいきません。

そして、この道の周りは、都市や、巨大な顔、人の形をした像など、不思議なものであふれています。これらの要素と、道を曲がるたびに画面上に発生する歪みのようなノイズの演出が、プレイヤーにこの世界のどこか懐かしくも不安をかき立てる雰囲気を印象付けます。このノイズの演出こそが、「NO THING」の世界観を表現するのに、なくてはならない要素なのです。  今まで不必要なものとして認識されていたものの、それが必要な要素となった時に、ノイズは表現に変わるのです。それは写真や映像という分野においても同じことが言えます。

身近な写真・映像表現とノイズ

身近な表現手段として、私たちは写真や映像という形式を日頃より利用しています。iPhoneやiPadのカメラを使って、ある瞬間を収めたり、編集を加えて創作物にしたり。Appを使えば、ノイズを不必要な偶然の産物ではない、表現の一種として扱えるようになります。  「Glitché」「HYPERSPEKTIV」「D'efekt」のようなAppには、ノイズをテーマにした様々なフィルターが収録されています。受ける印象が対象的になる寒色や暖色のような写真の色合いのように、ノイズは写真や映像においても、有効な表現方法なのです。

このようなAppが、私たちと表現となったノイズという存在をさらに近づけてくれるのです。

音楽になったノイズ

音楽に目を向けてみましょう。ロシアを代表するクラシック音楽の巨匠、イゴール・ストラビンスキーは、代表作であるバレエ「春の祭典」の中で、それまでのクラシック音楽にはなかった、冒頭のファゴット超高音ソロをはじめ、変拍子のリズムや不協和音を多用しました。聴衆に雑音とみなされたその初演が、大きな騒動となったことは想像に難くありません。

また、イタリアの未来派の画家、作曲家として知られるルイージ・ルッソロは、「それまでの世界は静寂だったが、19世紀の機械の発明によって、ノイズが生まれた」という言葉を残し、ノイズが生まれたことで、人々はより複雑な音を理解できるようになったとしています。そして、「都会の音楽を再現するのに、ノイズは必要不可欠だ」とし、雑音だけを生み出す「イントナルモーリ」という楽器さえも生み出しました。