マイナンバー制度 申請トラブル続発、検証を

6月3日 07:03

 新型コロナウイルスの緊急経済対策として全国民に10万円を配る「特別定額給付金」の給付開始から1カ月が過ぎたが、この間、マイナンバーカード(個人番号カード)を使ったオンライン申請でトラブルが相次いでいる。

 行政事務のオンライン化は業務効率化に欠かせないが、今回の失態はマイナンバー制度そのものへの国民の不信にもつながっている。まずトラブル続発の要因を検証し、現行システムの改善と信頼回復に努めるべきだ。

 マイナンバーは、番号で国民を識別する制度で導入5年目。社会保障、税金などでの活用を目的としているが、個人情報流出の懸念や取得手続きの煩雑さもあって、カードを取得した人は5月1日現在で16・4%にとどまっている。

 今回のオンライン申請では、マイナンバーカードの暗証番号を忘れるなど再設定手続きを求める住民が熊本市など全国の自治体窓口に殺到。負荷に耐えられずシステムがたびたび遅延した。

 カードは取得時に本人が自治体窓口で4種類の暗証番号を設定する。このうち3種類は同じで構わないが、そもそも銀行カードなどに比べて使用頻度は少ない。控えのメモをなくして自分の暗証番号が分からなくなる人が続出することは予想すべきだった。

 加えて手続き用サイトは、パソコンの場合はカードの読みとり装置が別に必要で、スマートフォンには接続できない機種がある。機材の問題からオンライン申請を断念した人もいた。

 入力画面では、申請者が必要事項を手入力。自治体職員は住民基本台帳との照合や記入ミスの確認に忙殺された。政府は当初「郵送より迅速」と説明していたが、オンライン申請を休止した自治体は6月1日時点で全国の43市区町(県内はゼロ)に上る。

 マイナンバー制度は導入時に政府全体で3千億円近くが投じられた。本年度当初予算でも、マイナンバーカードとキャッシュレス決済促進のための「マイナポイント」事業などに4千億円超の予算が組まれている。

 今回のオンライン申請でのマイナンバーカード利用は、制度普及に力を入れる政府が好機とみて組み入れたようだが、むしろシステムの未熟さを露呈する形になったと言える。

 政府は今回のトラブルなどを受け、預貯金口座の情報とマイナンバーとのひも付けを義務付ける制度改革の検討に入った。緊急時の国民への給付手続きを迅速化するためとしているが、拙速な対応ではないか。

 口座とのひも付け義務化は過去にも浮上したが、資産把握や情報流出への懸念から先送りされていた。ましてや今回のトラブル続発である。マイナンバーカードは来年3月から健康保険証としても使えるようになるが、現状では個人情報のさらなる集積が国民から受け入れられるとは思えない。システムの信頼向上に努めた上で、慎重な論議が必要だろう。