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マイナンバー 制度のあり方を問い直せ

 マイナンバー(個人番号)と預貯金口座の情報をひも付けようという動きがにわかに強まっている。個人情報が政府に一元管理される懸念が拭えない制度である。番号の用途の拡大には慎重な議論が欠かせない。

 政府は2段階で法整備を進める考えを示している。まず、給付金などの振込先として1人に一つの口座をひも付けることが第1段階だ。自民党に議員立法を今国会に提出する動きがある。

 それを踏まえて政府は、全ての預貯金口座について、マイナンバーとのひも付けの義務化を検討するという。来年の通常国会に関連法案の提出を目指す。

 新型コロナウイルス対策の現金給付が遅れたことが背景にある。口座が分かっていれば、迅速な給付につながる。全ての口座がひも付けば、資産状況を把握し、困窮している人に対象を絞った支援が可能になる、というわけだ。

 ただ、その言い分をうのみにできない。手続きの迅速化や利便性を打ち出してみても、監視強化につながる恐れは消えない。

 マイナンバーはもともと、税と社会保障の公平、公正を実現することを理由に導入された。ところが、矢継ぎ早に使途が拡大されてきた経緯がある。

 来春からはマイナンバーカードが健康保険証としても使えるようになる。クレジットカードなどと一体化して利用する案もある。

 利用範囲が広がるほど、さまざまな情報が一つの番号で結びつけられ、監視につながる恐れは膨らむ。個人の生活やプライバシーが丸裸にされかねない。

 個人情報保護委員会が運用に目を光らせることになってはいるものの、実効性が確保されているとは言いがたい。行政は番号に関連づいた情報を本人の同意なく捜査機関に提供できる一方、委員会の権限は捜査機関には及ばない。

 導入から4年を経て、マイナンバーカードの普及率は15%ほどにとどまる。利便性が乏しい以上に、制度が信頼を得ていない表れだろう。強引に普及を図る政府の姿勢も不信を生んできた。

 今回の給付金でも、オンラインでの申請をカードの普及につなげようとした思惑が透ける。しかしかえって混乱を招き、受け付けを取りやめる自治体も相次いだ。その責任を顧みずに、制度の改定を急ぐべきではない。

 何のための個人番号なのか。制度の目的はかすんで見える。出発点に立ち戻り、利用範囲を根本から見直すことが欠かせない。

(6月3日)

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