感染症:中国に出現した新興コロナウイルスの分析
Nature
2020年2月4日
Infectious disease: Analysis of the emerging coronavirus from China
最近中国で流行し始めた呼吸器疾患に関連する新型コロナウイルスが同定され、その特徴が解明されたことを報告する論文が、Natureに掲載される。この分析結果には、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスとの類似点が示されている。分析によって新型コロナウイルスの起源がコウモリであることを示す証拠が明らかになったが、今回の呼吸器疾患流行を引き起こした動物についての確証は得られなかった。
コロナウイルスは、SARSや中東呼吸器症候群(MERS)などのヒト感染症の流行の発生源となってきた。SARS関連コロナウイルスは、主に哺乳類(コウモリなど)から見つかっており、公衆衛生上の脅威となり得る。2019年12月に中国湖北省武漢の海鮮市場を発生源とする呼吸器疾患の流行が報告された。その症状は、発熱、息切れ、肺炎などであり、その後、この呼吸器疾患の流行は、中国の他の地域と国外に広がり、本プレスリリース執筆の時点で、1万4000以上の症例が明らかになり、300人以上の死者が報告されている。
今回、石正麗(Zheng-Li Shi)たちの研究チームは、重症肺炎の患者(7人)から採取した検体の分析を行った。7人中6人は、2019年12月に最初の症例が報告された武漢の海鮮市場で働いていた。また、7人中5人のウイルス検体の完全長ゲノム塩基配列は、ほとんど同じ(配列全体の99.9%超が同じ)で、その79.5%がSARSコロナウイルスの塩基配列と同じだった。さらに、このウイルス検体の塩基配列は、コウモリコロナウイルスと全ゲノムレベルで96%同一であることが判明し、新型コロナウイルスの発生源がコウモリである可能性が非常に高いことが示唆されている。
また、SARSコロナウイルスで見つかった7種の非構造タンパク質が、このウイルス検体で同定、配列解読されており、このウイルスがSARS関連コロナウイルスの一種であることが実証された。石たちは、このウイルスを「新型コロナウイルス2019(2019-nCoV)」と暫定的に命名し、SARSコロナウイルスと同じ経路(ACE2細胞受容体)によって細胞に侵入すると判断している。また、2019-nCoVに感染した患者から単離された抗体が2019-nCoVを中和する可能性があることも明らかになった。以前の研究で同定されているウマ抗SARS-CoV抗体も低い血清希釈度で、2019-nCoVを中和することが今回明らかになったが、抗SARS-CoV抗体が2019-nCoVと交差反応するかどうかについては、SARS-CoV感染から回復したヒト由来の血清を用いて今後の研究で確証を得る必要がある。
石たちは、2019-nCoVをそれ以外のすべてのヒトコロナウイルスから区別できる検査法を開発し、最初に採取された口腔拭い液の検体から2019-nCoVが検出されたことを明らかにしたが、その後(約10日後に)採取された検体からは、ウイルス陽性反応は得られなかった。この知見は、患者の気道が感染経路である可能性が最も高いことを示唆しているが、石たちは、別の感染経路が存在している可能性があり、感染経路のさらなる研究には患者データの充実が必要なことを指摘している。
*今回の研究で得られた知見を裏づける塩基配列データは、GISAIDに登録されており、アクセッション番号は、EPI_ISL_402124、EPI_ISL_402127-402130、EPI_ISL_402131である。
doi: 10.1038/s41586-020-2012-7
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