少子化対策 的を外してはいないか

2020年6月11日 08時53分
 政府が少子化社会対策大綱を閣議決定した。五年ぶりの見直しだが、これまでの延長線上にある施策が並ぶ。少子化を食い止めるための政策の矢は、的に当たっているのか、疑問は消えない。
 大綱は政府が取り組む少子化対策の総合的な施策の指針で、二〇二五年まで今後五年間の対策をまとめたものだ。
 大綱は一九年の出生数が九十万人割れとなった事態に危機感を表明しつつも、そこに挙げられた施策は、若い世代の正社員化の推進や保育所整備、長時間労働の是正、経済支援など、これまでも指摘されてきたものが並ぶ。
 その一方で、結婚や出産を希望する人が実現できていないのが現実で、一九年の合計特殊出生率は一・三六と減少傾向のままだ。
 そもそも少子化の進行は、一九八九年の出生率一・五七が丙午(ひのえうま)の六六年を下回り社会問題化して可視化された。政府挙げての対策は九四年に策定された実施計画「エンゼルプラン」からだ。既に二十年以上たつが、効果は疑問だ。
 政策の方向が正しいか、検証すべきではないのか。
 大綱は少子化の主な原因に、若い世代の未婚化・晩婚化、結婚しても出産を控えてしまう状況を挙げている。その背景として経済的な不安定さや、仕事と子育ての両立の難しさ、教育などの費用負担の重さなどを指摘する。
 ただ、政府の政策は主に既婚の子育て世帯への支援が中心だ。必要な対策だが、結婚をしない人が増えている実情こそ懸念すべきだと指摘されている。
 生涯未婚率は二〇一五年で男性23・4%、女性14・1%と増え続け、婚姻数は減少傾向にある。
 若い世代は将来に不安を抱えている。非正規雇用の広がりで不安定な働き方が身近にある。格差が広がり貧困化する高齢者も見ている。コロナ禍は非正規やフリーランスの苦境を浮き彫りにした。
 結婚や出産は個人の自由だが、高齢期までの人生を考えたとき、結婚や子育てをしても生活が今よりよくなる見通しがなければ、控えてしまうのではないか。
 若者が、学びや就労を何度でもやり直せる社会の仕組みが必要だし、子育て期だけでなく高齢期までの人生のさまざまな場面で、自立を支える社会保障のプランを備えておく必要もある。
 安倍晋三首相が「全世代型社会保障」の実現を掲げるならば、若い世代が安心できる対策を考える責任が、政府にはある。

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