事故から9年「福島への無関心」「原発への無反省」がもたらす危機

細野豪志×田中俊一【後編】
田中 俊一, 細野 豪志

「原子力宗教」からの脱却

細野 最後に大きな課題についてお聞きしたいと思います。田中さんが原子力規制委員長のときに、いくつかの原発を再稼働されましたよね。

田中 はい。

細野 高浜、伊方、あとは川内ですね。この3つのサイトの5つの原発を、安全なものについては再稼働を認め、リスクのあるものについてはきちっと判断する、と。ずばり田中さんは、これからの日本の原子力はどうあるべきだと思いますか。

田中 もちろん最終的には国民の判断です。しかし日本のエネルギーの需給状況をみると、今は90%以上を海外の化石燃料に依存しています。再生可能エネルギーが増えていると言ってもまだまだ。その地政学的リスクはやっぱり拭えない、という判断材料がまずあります。

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それから、気候変動問題。温室効果ガスの問題がいま、喫緊の議論として出てきている。温暖化の解決を優先するのか、原子力のリスク回避を優先するのかという時、やっぱりここは、国民的議論をすべきだと私は思うんです。その上で、私は個人的には、原子力発電に一定期間は依存せざるを得ないと思います。

ただし、私はよく「原子力宗教」と申し上げるんですが、2000年、3000年先の未来まで、原子力のエネルギーで賄うと言う人が未だにいるんですよ。燃料サイクルにこだわって。それは、ちょっと行き過ぎだと思います。

細野 核燃料を再処理して、再びエネルギーにできると。

田中 今の軽水炉をきちんと安全に運転していくことだけでも、国民に受け入れてもらえるかどうかの瀬戸際ですから、それができないようなら到底ダメです。それに、原子力の技術基盤と人材は、もう1回基礎から作り直すべきだと思います。今はそれが失われつつある。実は電力会社や研究機関も、そこを非常に不安に思っています。