事故から9年「福島への無関心」「原発への無反省」がもたらす危機

細野豪志×田中俊一【後編】
田中 俊一, 細野 豪志

風評被害が消えない理由

細野 もうひとつ先生とお話ししたかったのが、風評被害についてです。私も地元の静岡の人を福島に連れて来たり、福島のおいしいものを皆さんに勧めるようにしています。果物も魚介類も、ものすごくおいしい。

田中先生は福島のご出身で、いまも住んでいますから、地元のみなさんの気持ちも分かっておられるんじゃないですか。なにか風評解決に向けた知恵はありますか。

田中 風評被害の一番の障害は、食品摂取基準だと思うんです。

いま、食品1 kgあたりに含まれる放射性物質の基準値は 100ベクレルになっています。しかし国際的には、1kgあたり1000ベクレルです。100ベクレルという基準を決める議論をした、厚労省の食品安全委員会では当時、「国産のものは100%汚染されている」という前提があった(注:環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成26年度版)」第4章 食品中の放射性物質 Q&Aによると、日本の基準値は放射性物質を含む食品の仮定値50%が前提とされている)。

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でも、そう決めた時でさえ、もう福島の食品全体の中で1%も汚染されていないことはわかっていたんです。実態を知りつつ、我が国の食品の半分は輸入で、輸入品は汚染がゼロ、しかし、国産品は100%と仮定している。すべて承知の上で100ベクレルと決めた。これは理由はともかく、私は、率直に言って犯罪的だったと思っています。

細野 厳しいですね。

田中 でも、それこそが政治の力量の問われるところだと思うんです。

細野 当時はあくまで一時的な基準だ、という意識がもしかするとあったかもしれません。でも結局、その時の決定が延々と影響力を持っている。

田中 そうです。例えばヒラメが1 kgあるとして、150ベクレルのものが1匹でも見つかったら絶対にダメ、他のヒラメも全てダメとか、そういうことをやっているんですよ。

細野 実際には、今では放射線が検出される事例自体が非常に稀ですよね。