田中 そうですね。飯館の中でも議論はありました。「絶対に1ミリ以下に」と言うと、飯館はなかなか帰れるような状況になりませんよと。だから、せめて5ミリならある程度除染すれば帰れる、ということで、今でも「5ミリ」という判断の目安が飯館村では生きている。村へ帰れるのがずっと先の未来ならいいけど、そうじゃないでしょう、ということで。しかし当時は、世間でもいろいろと言う人もいましたね。
だから、ちょっと厳しい言い方ですけど、やっぱり科学的な裏付けについては専門家がもっときちっとしたことを言わなきゃいけないと思うし、当時も私は、保健物理学会とか原子力学会が大事な時に何も言わない、役目を果たさないことに随分文句を言ったんです。やっぱり、いざという時に科学者が社会的責任を果たせないようじゃダメですよ。
細野 私がもう一人学者の中ですごく尊敬をしているのが、低線量被曝のリスク管理に関するワーキンググループで座長をやっていただいた長瀧重信先生なのですが、長瀧先生も3月31日の謝罪に名前を連ねておられた。
あの時、長滝先生にも明確に言っていただいたのは、「年間100ミリシーベルトまでは、科学的知見によれば健康被害は出ていない。ただ、できるだけ被曝量は下げていくべきだ」と。除染にも対象に優先順位を付けて、長期的に1ミリを目指す、ということを明確に示して頂いたのは非常に心強かったですね。
本当に専門的な知識を持っている人が、両論併記ではなくて、ちゃんと結論を出す。しかし、こうした仕事をやっていただける専門家は本当に少ない。
田中 少ないですね。そういうリーダーをいろんな分野でつくらないとだめだと思うんです。