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 企業や団体、役所の不正を内部から告発した人を守る公益通報者保護法の改正案が、8日の参院本会議で可決、成立した。

 06年の施行後5年をめどに必要な見直しをすると法律は定めていた。だが負担が増えるのを嫌う経済界などの抵抗があり、政府の姿勢も積極性を欠いた。遅きに失した感はあるが、何とか実現にこぎつけた。

 改正のポイントは、▽公益通報に対応する体制の整備を、省庁や自治体も含め、働く者が300人超の組織すべてに義務づける▽通報者を特定させる情報の守秘を図り、調査担当者らが漏らした場合は30万円以下の罰金を科す▽保護の対象を現役の労働者だけでなく、役員や退職者にも広げる▽所属する組織を超えて、不正を行政機関や報道機関などに通報できる要件を緩める――などだ。

 内閣府の専門調査会が18年にまとめた報告書では、通報者情報の守秘義務や刑事罰の導入は見送られていた。法案作成の段階でこの規定が入り、国会でも認められたのは評価できる。

 勇気をふるい告発したのに、上司や関係者にそのことが伝わってしまったという話をよく耳にする。おかしいと思った者が安心して声を上げられる環境が十全に整えられて初めて、公益通報制度は機能する。

 その視点に立つとき、積み残しになった課題もある。

 通報者が報復人事など不利益な扱いを受けた場合の是正措置だ。行政機関が指導・勧告のうえ、組織名を公表できるようにする案が検討されたが、結局盛り込まれなかった。法律を所管する消費者庁は、自らの調査能力の限界や事実認定の難しさをいうが、不当な行いを放置していい理由にはならない。労働行政との連携を探るなどして手当てを急ぐべきだ。

 通報対象となる不正行為の範囲が狭すぎるとの批判も、以前から聞かれる。

 個人の生命や消費者の利益、環境保全などに関わる法律違反に限られるため、たとえば公文書管理法や補助金適正化法、税法は対象外だ。先の専門調査会や国会では「国民全体の利益」を守る観点から範囲を広げることに賛同する意見が相次いだ。森友問題での文書改ざん行為などを顧みればもっともな指摘であり、次回の見直しに向けて議論を深める必要がある。

 不正をただす公益通報は、長い目で見ればその組織を守り、発展させることにつながる。改正法は2年以内に施行される。良心の告発を受け止める体制づくりを進めるとともに、なお根強くある「通報は裏切り」といった意識を改め、組織の健全な運営を図らなければならない。

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