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 コロナ禍の影響は人々の健康と経済の両面で、新興国途上国にも広がっている。

 世界銀行が8日公表した経済見通しは、2020年の世界の経済成長率がマイナス5・2%になると見込んだ。新興国途上国の見通しもマイナス2・5%と、統計が確認できる1960年以降で初めて減少に転じる。世銀は「何百万人もが貧困に引き戻されるおそれがある」と警告している。

 成長率はブラジルがマイナス8・0%、メキシコが同7・5%など中南米で落ち込みが目立つ。南アフリカが同7・1%、アジアでもインドが同3・2%、タイが同5・0%。中国はプラスを保つが1・0%まで急減速する予想だ。原油価格低落で、産油国への影響も大きい。

 これらの国の経済は、主要国での感染拡大と経済縮小の影響を、すでに強く受けていた。新興国からはリーマン・ショック時の倍近い10兆円の資金が流出。1次産品や製造業などの輸出産業のほか、観光業も深刻な打撃を被った。

 中国や主要国での感染拡大は一段落したが、新興国途上国ではいま感染が広がっている。主要国も経済の急回復は見通せず、新興国途上国はその影響を抱えたまま、自国の感染拡大に直面するというダブルパンチに見舞われている。過大な債務を抱え、通貨や財政が弱い国々では経済対策の余地も少なく、社会不安が強まりかねない。

 リーマン・ショック後は、新興国の成長が世界経済回復の牽引(けんいん)役になった。しかし、文字どおりの世界同時不況の様相が続けば、今回はそうしたシナリオも期待できなくなる。感染拡大の影響が予想以上に長引けば、金融、実体経済の両面で、主要国と新興国の負のスパイラルが起きるリスクも拭えない。

 主要国の金融・財政政策総動員で初期の動揺は抑えこみ、市場は一定の安定を取り戻している。今後の悪いシナリオを防ぎ、回復の道筋を見いだすには、各国の協調が不可欠だ。

 米中分断への流れが強まるなかでも、G7やG20が機能不全になるのは避ける必要がある。すでに確認されている最貧国の債務支払い猶予は、確実に実行されるべきだ。経済危機を増幅させないためにも、医療・防疫での国際協力は欠かせない。輸出制限などの動きが過度に進むことも防がねばならない。

 経済のグローバル化は、世界全体が豊かになることで正当化されてきた。コロナ禍で脱落する国が生じれば、その根拠が揺らいでしまう。求められるのは世界一体の回復である。一国だけ、主要国だけの回復はありえないことを、再確認すべきだ。

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