第三王女の婚約者   作:NEW WINDのN

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邂逅

 

 

 

「お初にお目にかかります。エ・リスティーゼ王国·····エ・ランテル領主サトル・スズキ・モモン=ガ・オブ・ナザリックと申します。この度ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下にお会いする事ができた事、大変嬉しく思います」

 

 

 海路を進んだ(ということになっている)悟達は、現在バハルス帝国帝都アーウィンタールにある皇城·····その一角にある謁見の間にて、バハルス帝国皇帝──通称"鮮血帝"──との謁見に臨んでいた。

 ちなみに、彼は血を啜るのが好きなわけでも、吸血鬼でもない。即位とその改革において数多の血を流してきたことから付いた異名であり、悟から見た実際の皇帝の印象は··········。

 

(うわー。金髪のイケメンだ! ある意味ファンタジーに出てくる王族とかこういうイメージだわ。今までがガッカリだったからより際立って見えるな····)

 目の前の皇帝は裏はわからないが見た感じ好青年に思えるし、バルブロやザナックの時のような見た目のガッカリ感はまったくない。

(どうせなら、かっこいい方がいいもんな。ブサイクな姫君より可愛い姫君の方が仕えがいはあるだろうし、ザナックみたいな見た目の支配者より、この皇帝の方が歓迎されるだろう)

 こうして最初から好感を持ってしまう悟であった。

 

 今この場にいるのは、その金髪のイケメン支配者である皇帝ジルクニフ。その腹心の部下であるバジウッド。野生味を感じさせる男だ。彼は帝国四騎士の筆頭という立場だ。

 それと年齢のわりに頭髪が薄い男性秘書官が一人、そして、いかにも魔法使い然とした白髪白髭の老人·····"逸脱者"フールーダ・パラダインが、ジルクニフを守れる位置に陣取っていた。

(たしか、第六位階の使い手という話だったかな? ユグドラシルで第六位階なんて当たり前にゴロゴロいるわけだし、半人前みたいなものだけど、第三位階で一人前といわれるこの世界では、前人未到の領域に踏み込んだとされるから"逸脱者"なんだよな·····)

 悟は未だユグドラシルとこの世界のレベルギャップに慣れていない·····が理解はしているつもりだ。

 

「こちらこそだ。王国の有名人二人と話せる機会に恵まれるとはな」

 玉座に腰掛けているジルクニフは柔和な笑みを浮かべている。

「有名人ですか?」

 悟の感覚では、ラナーはともかく自分はそうではないと思っているのだが、二人と言われたので不思議に思っていた。

 

「ああ、評判の美しい姫君を·····いや実際会ってみたら、それ以上の美しさ·····の姫君を娶っただけでも名前は聞こえてくるものだが·····それ以上に最近はよく名前を聞くものでな·····」

 間違いなく、例の噂が皇帝の耳に入っているのだろう。

「それはお耳よごしでした。ですが、私は一介の貴族にすぎませんよ。まあ、ラナー·····妻が評判以上の美人であることは誇りに思いますし、事実その通りですからね」

 もちろん完全に惚気である。

「まあ、サトルったら·····ポッ·····」

 頬を紅に染め、俯くラナー。普通に見たら仲睦まじい夫婦だが·····。

 

(私を前にして、よくもまあこんなに惚気られるものだ。しかし、"黄金"のやる事だ。当然鵜呑みにはできんな。いったい何を考えている·····)

 ジルクニフは以前よりラナーに注目していた。貴族派閥に邪魔をされているため、かなりの献策がつぶされているが、素晴らしい施策も多い。ジルクニフは王国のスパイから情報を入手しては、実際に採用したりしているのだ。最近は、わざわざ帝国に採用させる為に提案しているのでは·····と疑いを抱いている。

(どうも私を操っている印象すらあるからな。以前よりコイツは不気味だと思っていたが、目の前にいるコレと同一人物とは思えないなあ·····しかしそれも策略に思える·····)

 ジルクニフは観察がてら暫く仲睦まじい二人を見ていたが、やがて口を開く。

「よくもまあ、他国·····それも時には戦争をしている相手を前に惚気られるものだな。ナザリック候」

「これは失礼を。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下、どうか私の事はサト·····いっ·····いえ"モモン"とお呼びください」

 サトルと呼んでと言いかけたところで、脇腹を抓られ、悟は言い直した。

(いたた。忘れてたけど、ラナーは、サトルと呼ぶのは自分だけにしたいんだったな。しかし、物理攻撃は効かないはずなのにな·····ラナーの抓りは攻撃扱いじゃないのか?)

 悟は不思議に思うが、答えがわかるわけもない。

 

「あいわかった。モモンだな。まあ、ナザリック候よりは堅苦しくなくてよいな。ああ、ぜひ私の事もジルクニフと呼んでくれ。長い名前だからな。ま、お互い様か。気楽に行こうじゃないか、モモン」

「そうですね、ジルクニフ·····様」

 敬称を忘れないのはサラリーマンとしての性である。無礼講は本当は無礼講ではないという事が、悟は骨身に染み付いている。

 

「堅いな、モモンは。まあよい。遠路はるばる·····それもわざわざ海路から来たのだ。ただ物見遊山にきたわけでもないのだろう? 新婚旅行とやらはあくまでも名目ではないのかな?」

 ジルクニフは頭の切れる支配者だ。噂を聞きその出元はラナーだと理解していた。彼女の意図が掴みきれてはいないが、目的があるのは間違いない。

 

「まさか、本当に王国を禅譲する為の使者ではないんだろう? それならより歓迎せねばならないが」

 ジルクニフはないと思うからこそズバリと尋ねた。

「ジルクニフ様のお耳にまで届いているとは、噂というものにも困りますね」

 悟は苦笑いを浮かべ肩を竦めてみせる。

「私にはあまり困っているようには見えないがな。本当のところはどうなんだい、モモン」

 重ねて尋ねるジルクニフに対し、悟が告げたのは··········。






次回へ続く·····。

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