後で書きなおすかもしれません。
どうも、ネム・エモット次期主席宮廷魔法使い(予定)であります。
みなさまにこうしてご挨拶申し上げること、帝国軍人として万感の思いであります。
さて、何故私が次期主席宮廷魔法使いなのかと申しあげますと…はぁ、実に迷惑な話だ。
私はナザリック地下大墳墓の支配者であるアインズ・ウール・ゴウンと、バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの対談に参加し、現在私は帝国に戻る皇帝用の馬車の中にいる。その馬車の中で帝国の切り札の1枚として今後の予定を話し合うはずだったのだが…
中の様子を一言で言えばお葬式だ…馬車の中は静寂が支配し、重い空気が漂っている。それもこれも目の前の皇帝ジルクニフなど苦虫を噛み潰したような表情を見せているからだろうな。
ナザリック地下大墳墓の荘厳さと、存在Xが邪神扱いするゴウン殿の正体を知れば仕方ない。
あれは私だって驚いた、死の支配者か…たしかに外見は恐ろしくはあるが、モモンを通して人間臭さも感じている。外見だけ取り繕ったような自称・創造神に比べれば親しみすら湧く存在だ。
だが、私にすればそれ以上に厄介な事が起きた、フールーダ・パラダインが帝国を裏切ってた事だ。…いや、正しくは魔導の深淵を求めたフールーダがナザリックに内通していた恐れがあるか。
それにより次の主席宮廷魔法使いが必要となり、アインズ・ウール・ゴウンと魔法戦を交える恐れがある次期主席宮廷魔法使いの座の押し付け合いがはじまり、その結果、私が指名されたのだ。
…困ったものだ、出世はともかくとして、これは正直なところ素直に喜べない。
――私としても似たような立場であるだけに。
以前より私は、カルネ村経由で近況報告を時折ゴウン殿に送っている。
冒険者として各地で見聞きした物を教えて欲しいとゴウン殿から頼まれたもので、前世で言えば〝あしながおじさん〟的な物だろうと軽く引き受けたのだ…無論、帝国の機密などは伝えてない。
王国で悪魔ヤルバダオトと対立したゴウン殿に、洗脳による信仰の強制をしてくる悪魔・存在Xの事を報告した時には予想以上に興味を示し、対・存在Xへの全面的な協力を約束してくれている。
今回の皇帝の遠征に同行したのも、対・存在Xに必要な魔道具を借り受ける事が目的だしな。
◆
帝国の宣言書【王国に不当に占拠されているアインズ・ウール・ゴウン魔導王の領土奪還宣言】が公布されたその日、私は無理を言って休暇をもらい、カルネ村に帰って来た。目的はカルネ村ではなくその近隣のトブの大森林が目的地ではあるが、場所的には大差は無いし、問題ないだろう。
…帝国と王国の戦争が始まる前、存在Xが戦争に介入をしてくる前にケリをつけるつもりだ。
ゴウン殿から譲り受けた精神系状態異常無効のロザリオを握りしめ、忌々しい聖句を口ずさむ。
しかし普段のように魔力が満ちる事も、意識を奪われる事も何もなく、一小節を述べ終えた。
「ふ、ふははは、ふははははは、どうやら干渉できないようだな、存在Xめ!」
声高らかにその無力さを笑う、創造神を自称するクソコテを煽り、この場に呼び寄せてやる。
自分の押し付けた力を無効化され、奴のシナリオを潰してやったんだ、耐えられないだろう?
…そして私の予想が的中したかのように周囲の時間が停滞し、存在Xの声が鳴り響いた。
『嘆かわしい、信仰心が生まれぬどころか、我が恩恵を拒絶するとは…』
不快な言葉が耳に触る…こんな世界に飛ばし、追い詰め、力を押し付けた事に感謝しろだと?
声が聞こえるエリアに火球を叩き込むが、存在Xの言葉は発生位置を変え、止まる事が無い。
私はゴウン殿から借り受けた切り札、防犯ブザーにも似た魔道具に手を駆け引っ張る。
『背教者よ、待っていろ‥いずれこの世界がお前の敵となりお前を滅ぼすであろう』
「まったく忌々しい…貴様が滅びろ存在X!」
「なるほど、これが悪魔・存在Xか」
背後からかけられた声に驚き振り向くと、何時の間にかアインズ・ウール・ゴウン魔導王がポーズを決めて立っている…援軍を呼べる魔道具とは聞いていたが、まさか本人が来るとは想定外だ。
だが、今はその心遣いがありがたく、その行動の速さがとても頼もしく思える。
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『ふん、嘆かわしい…この地の邪神の信徒に成り下がっていたか』
微妙に噛みあって無さそうな会話をしながら、ゴウン殿は私に謎のポーションを与えてきた。
…これは今、飲めと言う事だろうか?魔導王の顔を見ると黙って頷いた。
「本当なら捕獲して色々吐かせたかったのだが、難しそうなら確実に始末するべきだな」
そう呟くと、魔導王の背中に巨大な時計が発生する…そしてカウントが1秒1秒と減少する中、私は激しく嫌な予感がして、慌てて謎のポーションを飲み干した。
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カウントが0になると共に、絹を裂くような女の悲鳴と、激しい閃光が空間全てを殺し尽くす。
大森林がまるで砂漠のように変貌する中、魔導王と私だけがこの世界で存在を許されていた。
『ふふふ‥大した威力だ‥まさか分霊が壊されるとはな…まあいい、神を信じぬ貴様が、邪神とは言え神を信仰しだしたのだからな、今回の人生は貴様がどう変っていくのか監視しておこう』
天高く、存在Xの声が響き渡る…あの恐ろしい大魔法も、存在Xを始末することができなかったのだろうか?…いや、先ほどの魔法でこの世界に干渉していた存在Xは確実に始末したはずだ。
私の推測では、存在Xの本体が元の世界から、伝言の魔法のように声を飛ばしてきたのだろう。
忌々しい事だ…魔導王も空を見上げ、その声の主を睨みつけていた。
◆
その後、存在Xの干渉と思われる騒動も、存在Xが私に語り掛けてくる事もなくなった。
あの宣言通りに、遠くから私を監視しているのだろう…悪魔からストーカーへと格下げだ。
それから私は本当に帝国で主席宮廷魔法使いとなり、皇帝ジルクニフを支えていくこととなる。
…魔導王からも「帝国を守ってやりたい」との言葉を受けたので恩返しと言う部分もあるが。
皇帝ジルクニフは自主的に魔導国の属国になることを決断し魔導王に提案したが、帝国を潰す気の無かった魔導王の決断により保護領として自治を認められた。…地位も変わらず皇帝のままだ。
私にしてもこれは英断だと思う、カッツェ平原で王国相手に戦略級の超位魔法を撃ちこみ大虐殺を行った魔導国と正面から戦って、少しでも勝てると思える奴は正直言って異常者だと思う。
軍事や外交権を握られている部分はあるが、これは仕方ないと割り切って利用すべきだ。
その後の帝国は軍事費を技術開発に回したり、魔導国相手の魔道具の特需で稼いだり、法整備が遅れて居る魔導国に経済的に攻撃を仕掛けたり順調に勢力を伸ばしていく。ジルクニフにはこちらでもその優秀さを遺憾なく発揮していた。…何だか鮮血帝の名が血も涙もない商人の名に見える。
反面、やはり帝国の中にも異形種が増えた、治安維持の衛兵等は継続して人間を雇っているが、外敵や魔物を退治する軍事力としては、魔導国から派遣されているデスナイトを中心とした部隊が駐屯している。万が一にも帝国と魔導国が対立すれば一夜で帝都は死都へと化すだろう。
…そして私個人に対しても魔導国から送られてくる補佐官とメイドの2名が付けられる事となる。
名目上は補佐だが実際の所は監視役だろうと私は予測している。魔導王の配下からしてみれば私は危険因子なんだろう。仕方ない…民間企業を設立して魔導国で色々やり過ぎた自覚はある。
そんな事を考えていると執務室のドアが叩かれる。
許可を出し、中に入って来た魔導国の役人を見て、私は少し驚き言葉を失った。
「久しいなニニャ…魔導国補佐官殿?君と似ているが隣のメイドはもしかして?」
「はい、ネムちゃ…主席宮廷魔法使い殿、ゴウン様のお陰で無事に姉と再会できました」
見たか、存在Xよ。「神は天にいまし、すべて世は事もなしと」言う者も居るが、地に足を付けて人の目線で動くからこそ人は救われるし、それに感謝して誰もが神に祈りを捧げるのだろう。
その日はニニャとツアレと共に再開を祝い、まるで年頃の少女達のように笑い合った。
明日からもこれからも魔導国は今後も大丈夫だろう。
地に足を付け人の視線で物事を見える異形の神が居る限り。
これで本編完結となります
何だか半端になってしまい反省する事も多い話ですが、
最終話までお付き合いして頂いてありがとうございます。