自由を得たデス・ナイトが、己の前に立つ愚かな生者を抹殺しようと猛烈な殺意を放つ。
2mを軽く超える巨大な死霊の騎士が、刃渡だけで1.3mを超える鉄塊の剣を振りかぶる。
――それは何たる巨体、そして何て威圧感。
それが重層鎧を着用し、自らの身長にも匹敵する巨大な
その一撃を躱すと、放たれた剣刃は土煙を撒き散らし、私の僅か数cmの所を掠め地面に突き刺さる。森の賢王の尾撃を連想させる凶悪な破壊力だ、あの剣の直撃を受ければ即死は免れない。
一瞬の安堵が隙を作る。デス・ナイトは剣を引くと同時に、タワーシールドを叩きつけてきた。
巨大な壁が迫るかの如き盾での攻撃が左側から迫るが、後方への回避するだけでは剣での追撃を受けてしまうだろう。何とかして剣の届かない範囲に移動し、体勢を整えねばならない。
私は意を決し盾の暴風が届くより先に前に出る。…剣の届かないエリア、それは相手の足元だ。
巨体であるがゆえに発生する安全地帯に移動する。こんな時だけは私の体が小さい事を素直に喜ぼうと思う。私は何とか敵の右の足元に飛び込み、私は持ち歩いていた鎚矛を関節部に叩き込む。
しかし、魔力を込めた渾身の一撃でもデス・ナイトのバランスを崩す事さえできなかった。
動きを止めぬ巨体が、私を吹き飛ばす。脚に引っかけた程度の蹴りであったはずなのに、軽量級の私の体は研究場の壁まで吹き飛ばされた。…前言撤回だ、体が小さいなどろくなことはない。
「グゥオオオオオオオオオオオオオォオオオ!!」
愉悦の雄叫びをあげるデス・ナイトを前に、ちらりと視線をずらして視界にフールーダと高弟達を確認すると、彼らは<
心配そうな高弟達をよそに、フールーダは憑き物の取れた、爽やかな笑顔で不快な言葉を呟く。
「なに、心配はいらぬ。我々が神へ祈願すれば、救いは必ず訪れよう、私は天啓を得たのだ。
信じれば救われる…驕らず、謙虚な気持ちで魔導の神のなさる事を受け入れよ」
(祈りだと?冗談ではない、そんなものはクソくらえだ…存在Xに災いあれ!)
その声が神に届いたのか…
――世界の時が止まる。
◆
『嘆かわしい、このような未開の地に飛ばされて尚、信仰の欠片も芽生えていないとは』
全てが停止したと思われた空間の中、私と目の前のデス・ナイトのみが活動を停止していない。
殺意と憎悪を撒き散らしていたデス・ナイトは、死者の本能に従い暴れるのを止め、剣を大地に突き刺し、理知的な瞳でこちらを見つめてくる。そしてその口からは不快な言葉を呟きだした。
『この地の邪神に妨害され、接触に聊か手間取ってしまったが、お前に偉大な聖人となれる恩寵を与えよう。…それを使えば主の愛を実感でき、祈りの言葉を唱えられる様になるだろう』
…目の前のアレは何を言っているのだろう?
いや、なるほど、存在Xは私をこの世界に投入するだけでは飽き足らず…私が屈しないのを見て新たな方策を取ったのか。私を強制的に祈らざるを得ない状況に追い込み存在Xの力を使わせる。
…そして今の私はデス・ナイトと戦うために、その力を使わざるを得ない状況に置かれている。
完全にチェックメイトだ、なんたるマッチポンプ!!悪質な取り引きにもほどがある!
忌々しく存在Xを睨みつけると、デス・ナイトが満足げに笑い、私の視界が歪んでいく。
『さあ、行くがいい。我が御名を讃えるために…そして、この地を我が威光で満たすために』
…その後、何が起きたのか、私の記憶は曖昧であった。
興奮の絶頂に達して戻って来ないフールーダや高弟達を宥めて話を聞くと、どうやら私が神に祈ると同時に、凄まじいまでの魔力反応が発生し、神話級の魔法と言われる第七位階魔法や、魔神を滅ぼした大天使が使ったと言われる<
「主の奇跡は偉大なり、主の名を称えよ、栄光に満ちた、並ぶ者無き、誉れ高きその名を称えよ」
それが、その時の私の呟いた言葉らしい…そんな忌まわしき言葉を私がそれを口にしただと?
――私が祈った?…私が賛美したと…アレを!?
――この私が、あの存在Xへの感謝を?
…呪われてろくでもない事になった私に待っていたものは、異常にテンションが高いままのフールーダを筆頭とする、魔術師たちのデーター収集の日々であった…そして、ようやく、ようやく私が連中から解放されたのは、フールーダの奇行を耳にした皇帝ジルクニフ直々の停止命令だった。
…あの老人を止めてくれる存在、それだけでも皇帝ジルクニフは名君だろうと納得をした。
◆
その後、人外の呪われた力を得てしまった私は、帝国の守護者として祭り上げられる事となる。
だが、皇帝は切り札として積極的に使う事は無く、見せ札として運用する事を選択したので、比較的落ち着いた日々を得る事が出来た。…これには法国への配慮もあったのだと私は推測する。
第七位階魔法の存在に感激し、私の足を舐めようとして「それだけは…」と泣いて高弟達に止められていたフールーダも、ある日、急に落ち着きを取り戻し、私の邪魔をすることも減って来た。
誤算があるとすれば、私が提出した〝飛行魔法を使った飛行魔導隊〟の論文が陛下の目に止まり、実戦運用するために部隊を任されてしまったことだろうか?…まあ、この程度は許容範囲だろう。
私が王国との戦争に駆りだされても、航空部隊で高度からの爆撃を繰り返せば、呪われた力を使うことなく、王国の切り札であるガゼフ・ストロノーフだろうと安定して処理できるだろうしな。
――今の私は順風満帆だ、存在Xの介入の痕跡も確認できない。
そんな事を考えていたある日、デス・ナイトとは比べ物にならぬ凶悪な災厄達が帝城に現れる。
その災厄達は帝城の中庭に竜で乗り付け、帝国最強の騎士達に囲まれながらも涼やかな顔で、
自らを「アインズ・ウール・ゴウン様に仕える、アウラ・ベラ・フィオーラ」だと伝えてきた。…そしてこの使者は、この国の皇帝がナザリック地下大墳墓と呼ばれるゴウン殿の拠点に兵を送り込み、それがゴウン殿の怒りを買ってしまい、謝罪に来なければこの国を滅ぼすと言い出した。
――アインズ・ウール・ゴウンと帝国の対立。
「何をやっているんだあの皇帝は!」と怒りが湧くが、それと同時に今回の件を裏で糸を引いている存在が連想される。…これも多分、いや確実に、あの悪質な存在Xかその関係の仕業だろう。
そして大言が嘘ではないと証明するためなのか、マーレと呼ばれた闇妖精の少女が手に持っている杖を地面に突き立てると、局地的な大地震が起きたかのように地面が割れ、帝国が誇る精鋭兵達を飲み込み、一瞬で120名を皆殺しにしたのだ。 <飛行>の呪文で飛んでいた私とフールーダを除き、帝国の誇る四騎士の1人〝不動〟のナザミも、近衛親衛隊も魔法使い達も全てが1瞬で。
冷たい汗が背中にながれる…私にかけられた呪いが勝手に発動しないように気を引き締める。
目的は何だ?私を追い込むため?いや、私に力を使わせ奴の影響力をこの世界に広めるためか…
存在Xの狙いの真意は掴めないが、私は奴の思い通りにゲームの駒になってやるつもりはない。
私は皇帝自ら率いるナザリック訪問団の一員への参加要請を出し、一つの決意を胸に秘めた。
フールーダ「おぉ‥魔導の神よ、お言葉だけでなく降臨して頂けたのですね」
アインズ「…えっ?ああ、うん、そうだ、そうそう、私がお前たちの神である」
ナーベ「当然です」(ドヤァ
予定では次回最終話です。