幼女戦記inオーバーロード   作:とし3

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…万策尽きた!


白銀・ギムナジウム(上)

 こんにちは。

 帝国魔法省所属、現在は帝国魔法学院生徒のネム・エモットです。

 あれ、冒険者はどうしたのかって思いました?

 

 なんと私は帝国魔法省からヘッドハンティングを受け、帝国に所属することになりました。

 辺境の村娘が帝国魔法学院に入学できたのは、運よく冒険者として実績(キャリア)を積めたからですね。

 

 漆黒の英雄が死の螺旋騒動を解決した後、私は協力者として〝白金(プラチナ)〟級に昇格致しました。

 これは事件の重大さと、第三位階魔法を使う前衛職と言う能力が大きく評価されたみたいです。多分、これは私と共に戦った衛兵の皆さんが熱心に宣伝してくれたからでしょう。

 …酒場で酒の1杯でも奢りたい所なんですが、店員に子供は駄目と追い返されてしまいました。

 

 ちなみにチーム〝漆黒〟と呼ばれるようになったモモン殿は、ミスリル級冒険者に昇格。最近では何やら凶悪な吸血鬼の討伐をして、冒険者の最高位(アダマンタイト)にまで昇進したと風の噂に聞きました。

 

 ニニャは太腿の怪我が原因で冒険者を引退、バレアレ一家と共にカルネ村に向かいました。例の赤ポーションでも完治できない怪我に驚きましたが、命を拾っただけでも幸運だったと思います。

 それに貴族に攫われたらしいニニャの姉の捜索は、リィジー・バレアレと同じ条件でモモン殿が受けてくれたみたいなので、安心して冒険者を引退できるでしょう。

 

 ――さて、話を戻しましょう。

 

 現在の私は帝国の公費で学園生活を送れるようになり、更には報奨金まで支給される良待遇。

 冒険者の…いやカルネ村に居た頃と比べても今の生活の何と快適な事か!

 

 血や泥に塗れず、安全な場所で学術的な教育を受けながら、1日3食快適な食事が取れる。

 自らの記憶においては二度目のキャンパスライフ、これぞ健康的で文化的な生活と言えよう。

 …まさか、転生してこのような生活が送れるとは思っても見なかった、帝国万歳だ!

 

 このまま勉学に励めば、正式に帝国魔法省へ就職することは可能であろう。

 何としても優秀な成績を収め、帝国の出世コースに乗り、安全で穏やかな余生を過ごしてやる!

 あぁ…素晴らしきかな人生、ざまあみろ存在Xめ!

 

 

 こうして私、ネム・エモットは安全で後方の帝国魔法省へ就職し、技術研修に携わり、

 穏やかな余生をおくりましたとさ、めでたしめでたし。

 

 

 …となれば、どれだけ良かっただろうか。

 

 

 

 

 【皇帝執務室:ジルクニフ】

 

 「…じいがわざわざスカウトさせた冒険者の様子はどうだ?」

 

 爺と呼ばれた男は、世界最高とも言える伝説級の大魔法使い、フールーダ・パラダイン。

 そんな存在を爺と親しく呼べる存在は1人しか居ない、バハルス帝国の偉大な皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、その人だ。彼は帝国主席魔法使いであるフールーダが自ら動き、帝国魔法学院に所属させ、特待生として教育を受けさせている存在に興味を持っていた。

 

 〝白銀〟との異名を持ち、第三位階魔法まで使うと言う冒険者の存在。白金級まで昇格する実力のある冒険者ならたしかに勧誘する価値はある、帝国近衛兵の実力が冒険者で言えば金級なのだ。貴重な事は認めよう…しかしフールーダ自らが動くほどの存在かと言えば疑問が残っていた。

 

 「はい、陛下こちらを」

 

 フールーダから様々な書類を手渡され、胡乱げに目を通すも記載されていた内容に眼を開いた。

 〝戦域機動における兵站〟に代表される優れた各種論文の数々、帝国の諜報部が集めた冒険者としての実績。…そしてジルクニフが一番驚き、両手を上げて降参した内容は少女の年齢だった。

 

 ――異才。

 

 若くして帝国を掌握し、鮮血帝とまで呼ばれるジルクニフにしても脅威を感じさせる若き才能。

 10歳に満たぬ少女が第三位階魔法を使いこなすだけでも異常なのだが、これは想定外だ。

 この報告書を読んでジルクニフは、偉大な大魔法使いが後継者を見出したのだと確信した。

 

 「くはははは!」

 

 …悪くない。流石にフールーダに引退してもらっては困るが、英雄の壁を超えた〝逸脱者〟とも呼ばれる存在に、相応な後継者候補が現れ、それが帝国に所属するとなれば歓迎するべき内容だ。

 だが、この時、ジルクニフは何か引っかかりを感じつつも、聞き逃していた小さな疑問がある。

 

 ――どうやってエ・ランテルで活躍したばかりの、この少女を短期間で見つける事ができたのか。

 

 しかし、その疑問は〝爺ならば可能だろう〟と言う大魔法使いへの信頼と実績で消えて行った。

 

 

 …ある日、私は帝国魔法省の最高責任者に呼び出しを受けてしまった。

 さて、なんだろうか?…少なくとも私は問題を起こすような成績を収めてはいないし、厄介な貴族とトラブルになったと言う覚えもない。…いや、その程度の内容なら学院の教師が対応するか。

 

 帝国魔法省最高責任者と言えば王国のド田舎からやってきた私でも知っている、その地位は帝国主席宮廷魔法使いフールーダ・パラダインが兼任しており、その人物は今の私の身元引受人だ。

 言ってしまえば相手は魔法関連のお偉方のトップ、対応次第では今後の私の出世にも関わる事だ。急いで万全の身支度をし、面談の時間までに余裕を持って魔法省の応接室の扉を叩いた。

 

 フールーダから言い渡された内容は、新たな魔法の開発と、実験の協力要請。

 これは帝国魔法省の正式な辞令で、一応、そこに籍を置いてある私には拒否権は無い。

 

 今だ第三位階魔法までしか使えぬ私に無茶を言う…とは思うが、ここで「できません」など言えるわけがない。表情筋をしっかりと張り、決意を込めた顔で「最善を尽くします」と答える。

 フールーダは満足そうにうなずき、髭を撫でる。そして私を連れ、馬車に乗り、帝都から外れた実験場へ向う…同行する他の魔術師の高弟達は、誰もが何故か決死の表情をしていた。

 

 (何故だ、嫌な予感しかしない…)

 

 私が連れられて来たその実験場は、多重に壁で隔離されており、一見すると要塞にしか見えない代物だった。高弟の方々に聞いてみると、元々は廃棄された要塞であって今回の魔法実験のために特別に許可を取り、再利用しているのだと言う。…一体、この魔術師は何の実験をするつもりだ。

 

 実験場の中からは「グオオァァァアアア」と魂まで凍りつくような恐ろしい声が聞こえる。

 気の弱い者ならそれだけで気を失う雄叫びだが、私はその声に対して恐怖は抱かなかった。

 …なぜなら私は、それ以上に恐ろしい、本当の雄叫びを聞いた事があったからだ。

 

 「まさか…あの声はデス・ナイトですか?」

 「ふむ、知っておったか、…それに恐れている感じはせぬな」

 

 知っている、あの怪物はカルネ村を救った魔法使い、アインズ・ウール・ゴウンが使役していた不死者(アンデッド)だ。…その時感じた圧倒的な恐怖に比べれば、目の前で拘束されている怪物は怖くは無い。

 だが、あれは人間の手には余る存在だ、これを捕獲したであろうフールーダに畏敬の念を持つ。

 そんな事を考えていると、突然、フールーダは予想もしない事を言い出した。

 

 「私は先日、魔法を司ると言われる小神より、天啓を得た…」

 

 知識と真理を追究する魔法使いには似合わないその言葉に、私は戦慄する。

 神だと…これは、まさか…存在Xの差し金?…アレは私に何をやらせるつもりだ!?

 

 「共に祈ろう、ネム君も神に会った事があるのだろう?」

 

 そう、狂気に満ちた目で私を見つめると、何やら聞きなれない系統の呪文を唱える。

 それを聞いた高弟達は、慌てフールーダを取り押さえようと動くが、振り払われてしまった。

 …そしてフールーダはデス・ナイトの封印を解除し、拘束された絶望が自由を取り戻した。

 

 

 




…どうしてもジルクニフ日記のジルくんが脳内に浮かんでしまう、続の更新まだかな。

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