少年法の年齢 引き下げには弊害多い
2020年6月9日 06時58分
少年法の適用年齢を二十歳未満から十八歳未満に引き下げる−この法改正の是非について、近く法制審議会の議論が再開する。元裁判官らは反対の意見書を出した。引き下げには弊害が多すぎる。
「十八歳、十九歳の少年には効果的な処遇が実施されており、民法の成人年齢と一致させる必要がない」−元裁判官百七十七人が先月二十六日に法制審の部会に意見書を出した。異例のことだ。地裁や家裁の所長をした人も、高裁長官の経験者も五人いる。少年事件を担当した人々の反対意見には十分、耳を傾けるべきだ。
成人年齢が二〇二二年春から十八歳になるため、少年法もそれに合わせようと自民党が提言したものの、法制審の議論は三年以上も足踏みを続けている。
そもそも少年非行の件数は年々、減少を続けていて、現行制度を変更せねばならない事情はない。十六歳以上で重大事件を起こせば、現状でも原則、刑事処分の対象だ。
法制審でも現行制度の有効性は共通理解となっている。無理に引き下げる理由がない。
何よりも刑罰が基本である大人の場合と違い、少年法は「教育」が基本理念である。犯罪が軽微であっても、育った環境や資質に問題があるなら、可能な限り教育指導がなされる仕組みだ。
虐待を受けた経験がある子どもをそのまま親元に帰しても、立ち直りは難しいであろう。だから家裁の調査官ら専門家が非行の原因を解明して、教育や福祉、心理、医療の側面から適切な処置を判断している。
かつ少年だけでなく、家族ら監護者に対しても丁寧に働きかける権限を付与しているのが現行法なのである。仮に十八歳、十九歳を対象から外してしまうと、罪を犯しても恐らく半数以上は罰金刑か、不起訴・起訴猶予で終わる。教育機会がなく、野放しなのだ。
このため法制審では更生のための「新たな処分」の方法を考えていた。法務省も「年齢を引き下げても、すべて家裁に送致する」案を提案した。つまり実質的に現行制度とあまり変わらない。
元裁判官のみならず、日弁連や法学者らからも「改正反対」の意見が出ている。成人年齢が十八歳となっても、喫煙・飲酒・ギャンブルなどは年齢を統一しない。
事情に応じて判断すべきなのは少年法も同じだ。「教育より刑罰だ」と安易に考えて、かえって犯罪者が増えては元も子もない。
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