オーバー・アクターズ   作:とし3

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後半追加しました…申し訳ありません。


転移門-ゲート-

 次元の塔に固着されたナザリックの玉座に座り、右手に装着している<流れ星の指輪(シューティングスター)>を眺める。この指輪はかつてモモンガがボーナスをぶち込んで当てた課金ガチャアイテムである。

 

 これは超位魔法の<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>を強化し、更に代償無しで使えると言う一品であり、一定の選択肢の中から願いを選ぶ形だとは言え、〝任意のエリアに次元を超えて転移する〟と言う選択肢も選べたはずだ。…たかが転移に消費は惜しいと思うが、こうなってしまっては仕方ない。

 ゲームが現実になった今どんな効果があるか不明だが、元の世界に戻れる可能性はあるはずだ。

 

 コンコン、コンコンと足音が聞こえてくる、ナザリックの玉座の間に侵入者が現れたようだ。

 しかしモモンガは警戒することなく、親しく侵入者に声をかけた。

 

 「この足音は…デーリッチか?」

 

 「そうでち、ここかなー?って思ってたけど、デーリッチの予想通りだったでちね!

  花火大会の後で、誰にも何も言わずに急に居なくなったから、皆心配してたでちよ?」

 

 心配をかけてしまった事にモモンガは謝罪する、それと同時に心配してくれる仲間が居る事を嬉しく思う。…過去など忘れてしまえ、今を生きろ、今なら引き返せるとそんな心の声も聞こえた。

 元の世界に戻ることをどう伝えようか悩んでいると、デーリッチから言葉をかけてきた。

 

 「モモちんは元の世界に帰るんでちね?」

 「…えっ?」

 

 元に戻れる可能性のある手段も伝えていなかったのに、正解を当てられて言葉に詰まる。

 今まで悩んでいた事、言い出せなかった事に対してモモンガは不義理感を感じていた。

 

 「モモちんが覚悟を決めた顔になってたんでそんな気がしたんでちよ、違ったでち?」

 「いや、その通りだ…戻れる可能性がある手段はあるので、それを試してみるつもりだった」

 

 モモンガはデーリッチに指輪の事を説明するとデーリッチは納得顔をしてモモンガを見ていた。

 

 「今まで世話になったな、デーリッチ…いや、まだ戻れるかはわからんがな」

 

 「デーリッチとしても寂しいけど、今のモモちんは覚悟を決めた王様の顔をしてるんでちから…王様はみんなが支えにする存在なんだから、何としても戻ってあげなきゃ駄目でちよ。」

 

 覚悟を決めた王様の顔か…今の俺はそんな顔をしているんだろうか?

 

 …そう考えてモモンガは自分の顔を触るが自分では良くわからない。

 この表情のわかり難い骸骨の顔を見て、そんな事を言えるハグレの王に改めて敬意を感じる。

 今までのお礼を言い、握手を交わし、王国の仲間達へ謝罪と感謝の伝言を頼んだ。

 

 そしてモモンガは意を決して立ち上がり、指輪を掲げ、呪文を…切実な願いを唱える。

 

 「さあ、指輪よ。I WISH (俺は願う)!俺を皆と共に過ごしたナザリックに戻してくれ!」

 

 ◆

 

 ――指輪は願いを聞き入れた。

 

 次元の塔に固定されていた空間を砕き、玉座の間に漆黒の転移門(ゲート)を作り出した。

 モモンガが(これ通って本当に大丈夫なのかな?いまさら引けないしな…)と恐る恐る転移門を通ろうとした瞬間、まるで大型の獣が吠えたかのような、酷く人を不安にさせる怪音が玉座の間に響き渡る。デーリッチが慌てて戦闘態勢をとり、モモンガも足を止め警戒モードに入る。

 

 「…何が起きてるんだ?」 

 「あーこれはアレでちね、次元の塔の接続を強制的に外したから転移門が暴走?」

 

 ヴォオオオオオオオオオと再び快音が鳴り響き、それと同時に新たに複数の転移門が開く。

 その中からは、まるでH・R・ギーガーがデザインをしたエイリアンのような、身の毛もよだつ異界の怪物達が転移門の中から次から次へと溢れ出してくる…

 

 アインズは盾役が居ない事を意識し<中位アンデッド創造>を使いデスナイトを複数創造する。

 そしてデスナイトが怪物の攻撃に耐えられるのを見て相手の強さの予測を付けた。

 

 (この程度なら数が居ても耐えられるか、問題はどの程度現れるかだな…)

 

 「デーリッチ!ここは俺が時間を稼ぐ、すまないがハグレ王国に戻って援軍を呼んできてくれ」

 「わかったでち!すぐに戻ってくるでちから」

 

 デーリッチがキーオブパンドラを発動させ、ハグレ王国へ飛ぶ。

 巻き込んでしまったデーリッチを避難させて安心したと同時に激しい怒りを嫌悪感が支配した。これは、紛い物のナザリックとは言えモモンガの聖地を穢す、異形の侵入者に対してだ。

 ハグレ王国が挑んできた時には、まっとうな挑戦者として悪の美学を通して滅ぶのも良いかとも考えていたが…名誉も誇りも知識も無さそうな異形の怪物を許すつもりはなかった。

 

 《チェイン・ドラゴン・ライトニング/連鎖する龍雷》を放ち敵の群れを薙ぎ払う。これは適切な威力の範囲魔法を使い長期戦を考え魔力を無駄にしないためであり、高位範囲魔法を使うことにより流れ星の指輪(シューティングスター)を消費してまで作った転移門を破壊してしまうのを恐れての選択でもある。

 

 「くそっ…どれだけ沸くんだ、いい加減に厄介だぞ」

 

 創造したデスナイトは数の暴力や、稀に紛れ込んでいる上位種の存在により7体までもが破壊されていた。 <上位アンデッド創造>を使い、蒼褪めた乗り手を複数創造し迎撃に当てているが、湧く敵の数は減ったように思えず、異界の怪物たちの進撃が途絶える事は無い。

 

 ――そんな中、異界の怪物を生み出している転移門が大きく胎動し、巨大な怪物を呼び出した。

 

 

 肥大化した転移門から1匹の巨大な化け物が現れる…

 マザーとでも呼ぶべきかその異形は、アンデッドであるモモンガにも生理的嫌悪感を抱かせた。

 

 マザーが口から体液を吐き出す、あれは危険だと判断したモモンガは、デスナイトを盾にし回避した。…しかし被弾したデスナイトが1撃で消滅した事にモモンガは警戒を強める。

 

 (凶悪な溶解液か‥即死に見えたのは継続ダメージだろうか?これは厄介だな…)

 

 増え続ける異界の生物を前に、チャンスを捨てる覚悟で範囲魔法で薙ぎ払うか判断を迷う。

 その迷いのスキを突き、マザーがその巨体を生かし両腕を振り回し攻撃を仕掛けてくる…単調な攻撃ではあるが動きを阻害する下位種と、無効化を貫通する上位種の妨害により劣勢に陥った。

 

 (前衛が欲しい…召喚した蒼褪めた乗り手達は次々と転移門から沸く異形の処理で手一杯だ)

 

 迫りくるマザーの剛腕を回避しきれず<光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジエントベリル)>を発動させる。致命的な1撃こそ防ぐがバランスを崩し、追撃を仕掛けてきた上位種達の攻撃を回避することができなかった…

 だが、その時、黒い暴風がモモンガの前に吹き荒れ、飛びかかる上位種を薙ぎ払う…そこには悪魔の如き禍々しい漆黒の鎧を着け、巨大な斧を構えた1体の戦士が立ちふさがっていた。

 

 「…この鎧…まさかヘルメス・トリスメギストス!?まさかとは思うが…アルベドか?」

 

 その鎧はモモンガの姿を確認するとフルフルと震え…そして大激怒をし、大声で叫び始めた。

 

 「虫けら風情がぁあああああ!私の、私のモモンガさまにぃ!!その汚い体でぇえええ!!」

 

 敵を薙ぎ払う漆黒の鎧にモモンガが唖然としていると、マザーが唐突に絶叫をあげる。視線を戻すと、そこにはマザーの右腕を槍に吊るした、凄惨な光景には似合わぬ少女が可憐に立っていた。

 

 「…シャルティア・ブラッドフォールン」

 「はい、はいっ…モモンガ様、ああ‥ああ、我が君。わたしが唯一支配できぬ愛しの君」

 

 見覚えのあるNPCの名前をボソリと呟くモモンガに、少女が涙を流し恍惚の表情を浮かべる。

 少女の美貌に見惚れ、謎の漆黒の戦士の殺気に驚いていると、次の衝撃がモモンガに届く。

 …閃光と共にマザーが肩から縦に両断され、驚くべき巨体がその場に崩れ落ちた。

 

 「武人武御雷さ‥その姿は階層守護者のコキュートスか!」

 「申シ訳アリマセン、オ預カリイタダイタ階層ヲ勝手ニ離レタ罰ハ、イカヨウニモ」

 

 驚き、周囲を見渡すと、巨大な狼に乗って異界の異形を蹂躙する少女達がいる、

 その姿はモモンガの記憶にはしっかりあった、ぶくぶく茶釜さんの作ったNPCで…

 

 「あれは、アウラとマーレか」

 

 驚くモモンガの前に知的な…それでいて邪悪な顔をした1人の男が転移門の先から現れ、優雅に頭を下げる。その姿はウルベルトさんが自慢げに話していた事もあり、今もはっきり覚えている。

 

 「デミウルゴス」

 「はっ、お迎えが遅くなりまして申し訳ありません…」

 

 「いや、実に良いタイミングだった、助かったよ」

 

 嬉しそうに深々と頭を下げるデミウルゴスを見詰める。

 NPCが動いている事には驚いたが、ここ最近の騒動でモモンガは驚き慣れしていた事もあるのだろうが、昔、失った大切な何かを…仲間達の破片が戻って来たような満たされた喜びが満ちる。

 

 …もう今のアインズは戦いで敗北するなどと思う気持ちは一切無かった。

 

 ――その後、ハグレ王国と協力し、暴走した転移門を閉じ、モモンガはナザリックに帰還した。

 

 

 

 


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