オーバー・アクターズ   作:とし3

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ハグレ大祭り

「‥と言う事がありまして、これをハグレ戦争と言います」

「なるほど、ありがとうございますシノブさん」

 

 体感型MMO<ユグドラシル>の最終日、次元の塔の9階(通称ムリゲータワー)と呼ばれる空間に飛ばされたモモンガは、転移されてしまったこの世界の知識を貪欲に吸収しようとしていた。

 

 『召喚術』と『召喚士』、『ハグレ戦争とハグレ』、『ゼロキャンペーン』や『次元ポータル』

 この世界で起きた事件とハグレ王国の関わった事件を織り交ぜ〝魔道の巨人〟と異名を持つ天才少女シノブが教師役を務めて、熱心に歴史と現状をモモンガに教える。

 

 (ハグレ‥俺がハグレか‥まあ、いつの間にか皆から離れてしまった者と言えば元からか)

 

 カリカリとメモを書いて教わった事をまとめる、召喚術の便利さと外道さに素直に驚く‥召喚術で奴隷を呼び、異界の技術を奪って特許化して‥企業がそれを知ったらさぞや羨ましがりそうだ。

 

 シノブの授業が『次元ポータル』に進み、強制的に召喚されたハグレ達が元の世界に帰る選択肢『帰還事業』と、この世界で楽しい事を見つける選択肢である『ハグレ大祭り』に及ぶ。

 

 その授業を聞いてモモンガはふと故郷の事を思い出した。‥元の世界へ帰る『次元ポータル』か‥絶望と失意に満ちる、企業により汚染されつくした、あの世界へ?それは無いな‥

 リアルでは家族も無く、友人も居なかった。そんな世界への執着などは無い。

 

 ‥そう思う反面、思い出すのはユグドラシルで共に過ごした仲間達との懐かしい日々の出来事。決して忘れ去る事などできない、モモンガの人生にとっての黄金時代と言える、素晴らしく栄光に満ちた異業種ギルド〝アインズ・ウール・ゴウン〟で過ごした大切な思い出達。

 

 

 

 どんどこ、どんどこ、どどんご……。どんどこどんどこ!どっどっ!

 

 

 

 モモンガが追憶に浸っていると、どこからか奇怪な音楽が聞こえてくる‥

 「なんだ?この音楽は‥?」とモモンガが慌ててると、もうこんな時期かとシノブが答える。

 

 「あぁ、踊り時空が発生したのね‥『ハグレ大祭り』が始まるわ」

 

 

 ◆

 

 

 「なにをしてるのヅッチー、デッチー!爆星ヴォルケッタよ!!」

 「爆星ヴォルケッタだって?気は確かかよヴォルちん!相手は正義の味方の超合金アルフレッドだし?それに一発逆転セレブを発動させるにはHP30%以下にしなきゃなんないんだぜ?」

 

 「馬鹿ね!わからないの!?これは今までの超合金アルフレッドじゃない、ただのバケモノよ!バフを山盛りかけた爆星ヴォルケッタ以外で倒せるものですか!!」

 

 「鬱展開なんてハグレ王国が吹き飛ばしてやるでち!」

 「烈火の魔術師(レッカウーマン)を舐めないで!!」

 

 ‥モモンガはデーリッチと共にハグレ名画座の新作劇、烈火の魔術師レッカウーマンブレードの上映を見ていた。これは祭りのパトロールに出ていたデーリッチが〝何か怖いのがいる〟と観光客から通報を受けて駆けつけ、一人ウロウロしていたモモンガを説得し任意同行した結果である。

 モモンガの「いやいや、俺よりマーロウさんのが怖いだろ?」と言う文句は無視されたようだ。

 

 「待てよデーリッチ、烈火の魔術師と言えば私だろう?」と屋台の店番をさぼって自主的にパトロールに参加して来たエステル、そんなエステルの横隔膜を殴り、仕事に連れ戻すメニャーニャ。

 

 道場を開いて格闘技を教える世界樹の巫女のハオに、獣人ハグレのマーロウ。パン屋さんをやるマーロウの娘のクウェウリ。汗臭いミノタウロスのにわかマッスルのドリンク販売の店に、冥王の娘であるイリスの射的屋。アンデッドであることを生かしてお化け屋敷を運営するミアラージュ。

 

 寿司屋…ちゃきちゃきカフェを運営する侍の柚葉に、ゲームセンターを運営する宇宙人の王女。スワンボートを貸すスキュラのウズシオーネに、舞台で冷めた漫才を見せる悪魔のゼニヤッタ。

 

 人間もエルフも獣人も妖精も悪魔もサハギンも、アンデッドや宇宙人や雪女やサイキッカーや、果てにはモンスターにしか見えないスライムだって楽しそうにお祭りに参加していた。

 「なんという混沌(カオス)…いや、調和(アルモニア)か…」とモモンガはすっかりハグレ大祭りの光景に感心する。

 

 これだけの物を作り上げるのに、どれだけの苦難を乗り越えて、それがどれだけ過酷な道だったのかはモモンガには予想するしかない。ただシノブから教わった『ハグレ戦争とハグレ』の話を聞く限りは相当に大変だったのだろうとは十二分に想像ができた。

 

 …始まりは2人っきりの建国宣言だったと言う。

 

 (俺もタッチさんに助けられて…タッチさんに誘われて6人チームとなって‥それから)

 

 祭りの中、ふと足を止め空を見つめる。…俺はギルドメンバー達の良きギルド長だったろうか?

 オフ会で仲間達が喧嘩したあの時、何かしら手はあったんじゃないだろうか…もう少し俺が何とかできていればと、ネガティブな思想に捕らわれてしまう。

 

 

 ――そんな沈んだ気持ちを吹き飛ばしたのは夜空に輝く打ち上げ花火。暗闇を音と光で空を埋め尽くす、妖精特製の花火の美しい光景はモモンガの心に一筋の光を差し込んだ。

 

 

 「なぁ、デーリッチ…もしハグレ王国の住人が皆帰ってしまったら…どうするんだ?」

 「デーリッチは王様でちからね、皆が戻って来た時のためにマリーと2人で王国を守るでちよ」

 

 迷いの無い言葉だった…その言葉にモモンガは嬉しくなりデーリッチの頭を撫でる。

 そして輝かしい夜空に手を伸ばし、掴めない物を攫もうと手を握った。

 




メインジャンル違いとのご指摘を受けて色々悩んで構成考えていたら
どうにもこうにもならなくなってしまいました…

一応は完結させますのでよろしくお願いします。

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