時は少し遡る、その日はDMMORPG『ユグドラシル』の最終日。
仲間達と過ごした、楽しかった空想の世界が終わり現実に戻る時。
そんな中、ギルド〝アインズ・ウール・ゴウン〟のギルド長であるモモンガは困惑していた。
最後の時をこのナザリック地下大墳墓の玉座の間で迎えるために待機していたのに‥
「……どういうことだ?」
先ほど、たしかにサーバー停止である0:00を迎えたはずだ。
最後までの時間を口ずさみ、カウントダウンしていたのだから間違えるはずがない。
本当なら今頃サーバーダウンによる強制排出されているはずなのに‥いまだ玉座の間に居る。
「サーバーダウンが延期した?」
考えられるとしたらそれくらいであろう。
しかし通話回線をONに切り替えようにも一切のシステムコマンドが起動しない。
ログアウトができない所かGMコールもメッセージ機能も使えないのだ‥
単なる延期ではなく致命的なバグが、よりによって最終日に発生したのだろうか。
普段から斜め上の行動ゆえに「糞運営!」とは罵っていても、システムの技術的には一定の信頼があったために、今の状況の戸惑いが隠せない。‥明日の仕事に影響が出そうだ!と怒りが湧く。
その反面、仲間が残してくれたナザリック地下大墳墓と共に、まだ居られるとの喜びとが混ざり合って、何とも言えない気分となる。‥頭を抱え溜息を吐くが、状況は何も変わらない。
周囲に気配がまったく無い中で、一人延々と玉座に座っているのは耐え切れなかった。
モモンガはナザリック地下大墳墓の中がどうなっているのか確認するために動き出し、違和感の原因に気が付く。配置しておいたNPC達の姿が1体も無いのだ。‥バグにしても不快なバグだ。
‥そして変化点もすぐに見つかった。
玉座の間から出ると、何者かが設置したのか、そこには可愛らしい人形の置物と共に、
赤い宝箱、そして不思議な光を放つ黄色と赤の2種類の魔法陣が設置されていた。
「何だこれは?」
モモンガは置かれている箱やぬいぐるみを攫もうと手を伸ばすが、固定オブジェクト化しているのか動かせない。攻撃を仕掛けてみるも、非破壊オブジェクトなのかダメージが通らない。
(これは‥運営が設置した目印か何かか?)
そう考えたモモンガは次に赤い魔法陣に視線を動かす。
これは転移用のテレポーターだろうか?
恐る恐る見た事の無いデザインの赤い魔法陣に足を踏み込むと、光が全身を包み込んだ。
「トラップか!」と1瞬驚くが、一切の害を与える出なく‥単純にHPとMPが全回復した。
何なんだこれは‥と呆れているとピンポーンの音と共にモモンガの元に一通のメッセージが届く。
※※超強敵警告 死の超越者 推奨Level???~※※
(無理ゲータワーのボスは、これまでのボスと比べても、段違いに強いです。
まだ勝てないと思ったら、素直に引き返すことをお勧めします。)
〝超強敵警告〟と言う言葉に慌て、周囲を見渡し警戒をする。
最終日にワールドエネミーをけしかけて全てを滅茶苦茶にするイベントだったか!?
‥あの糞運営ならやりかねん。そう考え臨戦態勢を取るも、何も現れないまま時間が過ぎる。
「‥‥」
「超強敵警告で〝死の超越者〟 それでこの奥に居る‥っていや、まさかな」
自分の出てきた玉座の間をチラリと覗き、「いや‥ないな‥」と黄色い魔法陣に乗る。
すると今度は「帰還用の魔法陣です。拠点に戻りますか?」とメッセージが脳内に響き渡った。
「当たりか!?」
そう感じたモモンガは、すかさずメッセージに〝はい〟と答る。
すると光がモモンガの全身を包み込み、別のエリアへの転移が発動し――。
そして、その光が収まると‥モモンガは自分が玉座の間に戻っている事に気が付いた。
‥‥モモンガは再び頭を抱えた。
玉座の間を離れ周囲を見回ったが狭い領域で隔離され、どこにも移動する事ができない。
「まったくクソ運営め、何をやりたいんだ!クソッ、クソッ!クソァ!!」
怒りに任せて設置されたオブジェクトを叩きつけるが、1点のダメージも与えられない。
そして怒りの感情の揺れ幅が一定の量に達した時、スーッと急激に感情が抑制された。
「‥なんだこれは?」
突然襲い掛かった奇妙な感覚にモモンガは戸惑い、手のひらを見つめる。
襲って来た違和感から逃れようと玉座の間に戻り、椅子に深く座り込み深く溜息を吐く。
(隔離MAPで超強敵〝死の超越者〟‥やはりこれは俺の事か?
ここまで入念な準備までして、何者かが俺と誰かを戦わせたいのか?)
運営の思うままになるのは不快だったが、アインズ・ウール・ゴウンのギルドリーダーとして、
最後の戦いを行うのも悪くないかと諦めたかのように覚悟を決める‥
(はぁ‥明日4時から仕事なんだがな‥まあ最後なんだ、付き合ってやるさ)
モモンガは落ち着いて装備とスキルの確認をする、システムが作動しないからどうするべきか悩むが、本能的に‥人が息を吸って呼吸をするがごとく能力が自然に使える事を実感する。
その感覚に理解できない気持ち悪さを感じるが、それは部屋の外から会話で打ち消された。
「ここが無理ゲータワーか‥準備は大丈夫かい?デーリッチ」
「もちろん万端でちよ、けど‥この先は何か本気で危険な気配がするでち」
――どうやら侵入者のようだ。
次元の塔に追加された新エリア、通称・無理ゲータワー。
そこに異界からボスとして呼び出された男と、侵入者としてのハグレ王国達。
それがモモンガとデーリッチ達ハグレ王国との最初の出会いであった。
◆
「‥ナザリック地下大墳墓へようこそ侵略者の諸君、我が名はモモンガ!
ギルド〝アインズ・ウール・ゴウン〟の長であり、侵入者を処断する者だ」
侵入者と迎撃者、この状態でこれ以上の言葉は不要だった。
モモンガとハグレ王国達との戦いは苛烈を極めた‥ゲームではありえない、強烈な痛みに耐えながら侵入者相手に奮戦する。今置かれている状況の異常さを実感しながらも侵入者を追い詰めた。
だが彼らの連携は強く、壊滅的な一撃を与えても見事な連携で何度も何度も立て直してきた。
(‥厄介な連携だ、少し羨ましく‥妬ましい。)
彼らが連携して攻めてくるのに対してモモンガは一人ぼっちだ。
最強のたっちさんも、優秀なタンカーであるぶくぶく茶釜さんも、優秀なアタッカーの武人建御雷さんも、頼れる対人特化のヘロヘロさんも、戦術担当のぷにっと萌えさんも、大火力を誇るウルベルトさんも、遠距離支援が得意なペロロンチーノさんも! ――みんな、もう、誰もいない。
モモンガはエクリプスの固有スキル〝あらゆる生あるものの目指すところは死である〟を使い、強制即死を付与した《クライ・オブ・ザ・バンシー/嘆きの妖精の絶叫》の呪文を詠唱する。
モモンガの背後に巨大な時計が現れ、ゆっくりと時を刻む‥
死の超越者から滲みだす邪悪で強大な魔力にハグレ王国の一団は思わず息を飲んだ。
「何か大技を準備しているみたいだ‥発動までに潰さないとまずいかもしれない!」
「総攻撃をかけるでち!」
王国の参謀・ローズマリーが、味方に警告を発し、ハグレの王が総攻撃の指示をする。
その声に勇気を貰ったハグレ王国の仲間たちは果敢に攻撃を繰り返す。
不死者の苦手とする炎属性を中心とした攻撃がモモンガの身を焦がした‥
メニャーニャが《召喚士共同作戦》を使い味方全体の炎と雷の威力を大幅に上げ、
エステルが《フィールドオブファイア》を使い、更に全体の炎の威力を上げる。
ミアラージュが《魔王降ろし》を行い、全員のスキルの威力を倍増させ。
ブリギットの《コロナ砲》が、エステルの《フレイムⅫ》が、
そしてマオの《大魔王烈波》が全てを焼き尽くした。
薄れゆく意識の中、侵入者達の見事なチームプレイに自分と仲間達の戦いを思い出し、
自嘲気味な笑みを浮かべ‥背中の時計のカウントを2刻を残し、死の超越者は膝を突いた。
特定のターンまでに倒さないといけない系ボス。