デニーンは左派の『ディセント』誌に「カトリック・コミュニタリアン」と規定されたことがあるように、信仰に基づく宗教共同体を理想として捉えている。もっと言えば、法学者でハーバード大学ロースクール教授のエイドリアン・ヴァーミュールと同様に、世俗的権力である国家は教会に従属すべきであると考えるカトリック・インテグラリストのひとりとみなされている。
『リベラリズムはなぜ失敗したのか』はオバマも評価したということで評判を得ているとはいえ、デニーンはリベラリズムの息の根をとめようと考えているひとである。その立場からデニーンは、昨年11月に権威主義的なポピュリストであるハンガリーのオルバン首相と会い、リベラリズムに代わる、信仰と家族の価値を重視するナショナリズムという点で意気投合している。
だがここへきて、かれら宗教保守の知識人とトランプとの共同歩調に異変が見られるのだ。デニーンは、ジョージ・フロイドの事件後、自らのツイッターでトランプを「アホ(cretin)」と呼び、トランプはむしろリベラリズムのさまざまな害悪がもたらした病の症状なのだと書き記した。そのうえで、適切なリーダーシップによって導かれるポスト・トランプのポスト・リベラリズムを構想することに自分としては関心があるとツイートしている。
デニーンはトランプに近いとみられることを警戒し、距離を置こうとしているようだ。デニーンは現下の不確実な情勢に脅威を感じる一方、この状況によってリベラリズムの瓦解がさらに進むと肯定的にもみている。
共同宣言の署名者のひとりであり、『ベネディクト・オプション』の著者として知られるロッド・ドレアは、もっと率直に、6月1日はトランプが大統領としての地位を失った日だと『ザ・アメリカン・コンサーヴァティヴ』誌のサイトに翌日に寄稿した。自分自身の持ち物でない聖書を掲げ、自分が守ってもいない宗教のシンボルを利用したと、知り合いの牧師の言葉を引用するかたちをとって、トランプにこれ以上ない嫌悪感を示した。