全米抗議デモ、ついにトランプは「宗教保守」からも見放され始めた

アメリカと「宗教」の複雑な関係
井上 弘貴 プロフィール

宗教保守知識人たちの変容

昨年2019年の3月、宗派を横断した(=エキュメニカルな)キリスト教保守の雑誌である『ファースト・シングズ(First Things)』誌で、15名の宗教保守たちが共同宣言を発表した。

署名者のなかには、『リベラリズムはなぜ失敗したのか』を書いた、ポスト・リベラルの立場をとるカトリックの知識人、パトリック・J・デニーンも含まれている。署名者たちはその共同宣言のなかで、2016年に崩壊した「トランプ以前の保守のコンセンサス」に戻ることはできないと主張した。

宗教保守はどのような政治的立場をとってきたのか。『ファースト・シングズ』誌を中心として、多くの宗教保守の知識人たちは、2000年代のジョージ・W・ブッシュ政権によるイラク侵攻を、ネオコンと共同歩調をとって支持した。

一方でトランプ政権については、当初は親和的ではなかった。2016年1月の『ナショナル・レヴュー』誌で22名の幅広い保守の知識人たちが、共和党の有力な大統領候補として台頭していたトランプに反対する共同宣言を出した際、『ファースト・シングズ』誌の編集人であるR・R・レノも、ウィリアム・クリストルらとともに署名者のひとりに名前を連ねた。

だが、トランプ大統領が保守的な最高裁判事をふたりも任命し、ポリティカル・コレクトネスを物ともせずリベラルを攻撃するなかで、レノを含めて多くの宗教保守は、状況にリードされるよりもリードすることを求めて、トランプに親和的になった

『ファースト・シングズ』誌の共同宣言の署名者たちは、従来の保守主義がもたらした成果を認める一方、既存の保守主義はリベラリズムと同様に個人の自律性を強調しすぎたあまり、伝統的価値、つまり伝統的家族や宗教共同体的なつながりにリップサービスしかしてこなかったと批判して、新しい保守主義の基本方針を掲げた。

その方針のひとつが、「われわれはホーム〔家庭/祖国〕が大事であると考える」だった。国境なき世界というユートピア世界の暴力に反対する限りにおいて、かれらは「内向きのナショナリズム」を支持する方向に舵を切ってきた(イラク侵攻など「外向きのナショナリズム」を体現してきたブッシュ政権時とは微妙な変化が起きている)。