政府は新型コロナウイルス対策で、旅行や外食などの消費を後押しするキャンペーンの委託事業の公募を中止した。巨額の委託費を野党に厳しく批判されたためで、当然の判断だ。感染拡大の第2波も懸念されるなか、急いで行う必要は無い。政府はこれを機に、事業を抜本的に見直すべきだ。
「Go To キャンペーン事業」は、税金で割引したり、クーポンを配布したりすることで、旅行を中心に飲食やイベントなどの需要の喚起を狙っている。1次補正予算に事業費1・7兆円が盛り込まれた。
その事務作業を一括で、最大3千億円で発注する公募を経済産業省は始めたが、委託費が事業費全体の2割にのぼることから、「高すぎる」との批判が噴出。旅行や飲食など分野ごとに、それぞれの所管官庁が公募するよう改めることにした。
コロナ対策では中小企業への持続化給付金でも、事業を受託した社団法人が97%分の業務を再委託したことが発覚。国民の間で「利益が中抜きされている」との疑念が高まっている。
今回の公募中止を機に、政府は単に発注を分割するだけでなく、事務費を安く抑えたり、事業の透明性を高めたりする方策を、時間をかけてしっかり検討しなければならない。
政府はこの事業を7月中に始める予定だった。公募のやり直しによる遅れを最小限にとどめようと、作業を急いでいる。
コロナ禍が直撃する旅行や飲食などの業界は苦境に陥っており、政策による支援は必要だろう。だが、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、第2波への警戒を怠るわけにはいかない。人と人の接触を全国で増やす政策の実施には、感染状況の慎重な見極めが求められる。
そもそも、キャンペーンを実施したとしても、旅行業界などの経営を下支えする効果は限定的だ。感染防止のためには、席の間隔を空けるなどサービスの供給を制限せざるをえない。仮にキャンペーンで需要が大きく増えたとしても、それを取り込み切れないはずだ。
当面は、苦境に陥った事業者を直接支援する政策が中心にならざるをえない。第2波の懸念が続くなら、事業を中止し、財源を補助金などに回すことも検討する必要がある。
キャンペーンには、経済的な格差を助長する副作用もある。多額の消費ができる富裕層ほど恩恵を受けられるからだ。
コロナ禍では、非正規労働者や中小の事業者、そこで働く人たちなど立場の弱い人ほど、暮らしに深刻な影響を受けている。こうした人たちへの支援策こそ忘れてはならない。
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