「また、名誉権侵害罪にはあたらなくても、
〈ブス〉〈バカ〉〈精神病〉〈きもい〉〈死ね〉といった言葉も、名誉感情の侵害という不法行為にあたる可能性があります。ただ、名誉感情といっても人の内心の問題ですので、個人差が出てきます。『私は傷ついた』といえばなんでもかんでも不法行為になってしまうのでは、うかうか人に言葉を投げかけることもできなくなり、社会がなりたたなくなります。そのため、名誉感情が違法に侵害されたというためには、
その侮辱行為が『社会通念上、許容される限度』を超えることが必要になります」
「社会通念上、許容される限度」というのは、個人の感情を基準にするとブレが大きくて不適切だという発想から生まれた基準で、「社会常識」という、よりブレの少ない基準によって判断しましょうねということなのだそう。
そして、これらの要件を満たせば、投稿の回数は関係なく(たとえ1回だとしても!)、法的に責任を問うことができるそう。

「
投稿の回数が1回でも、さきほどの要件を満たせば名誉権侵害は認められます。回数は慰謝料額をいくらにするかという場面で考慮されます。人の名誉を毀損(きそん)するような内容を繰り返し投稿すればより悪質だと判断されますし、その都度、社会的評価は低下するわけですから、
一般的には投稿回数が多ければ多いほど、慰謝料額は高額になる傾向にあると思います」
名誉権侵害の慰謝料は現在、小沢弁護士の経験上の感覚だと、20~30万円だとか。意外と安い!?
「名誉権侵害に限らず、慰謝料の額は書き込みの内容によっても変わります。たとえば、これは『プライバシー権侵害』も関わってきますが、なにも悪いことをしていない人の顔写真や氏名を晒して具体的な事実を示して犯罪者呼ばわりしたり、住所や学校、勤務先をさらしたり、リベンジポルノのように交際相手の裸の写真や性行為中の写真をさらすといった行為はかなり悪質で慰謝料額が100万円を超えてくることもあると思います」
口汚い誹謗中傷は匿名のアカウントで行われることがほとんど。
法的責任を問うにはまず、どこの誰が書いたのかを探し出さなくてはいけません。
「掲示板やSNSの管理者へ、IPアドレス(ネットワーク上の住所)や投稿日時の開示を求め、得られたIPアドレスからプロバイダを特定します。その後、プロバイダに対し、投稿日時にそのIPアドレスを割りふっていた端末に関する契約者の発信者情報――住所や氏名、メールアドレスなどの情報の開示を請求し、その結果回答が得られて、ようやく、投稿者を特定することができます」
しかし、これがなかなかに難しいのだとか。

「サイト管理者やプロバイダが自己判断で情報を開示して、その判断が法的にまちがっていた場合、開示された人から訴えられかねません。
そのため、サイト管理者やプロバイダは、投稿者が開示に明確に同意しない限りは、『権利が侵害されたことが明らとは判断できない』との理由で開示に応じないのです。
プロバイダ投稿者が開示に同意することはほとんどないため、原則としては裁判所へ仮処分命令の申し立てや訴訟を提起することになります」
多くの場合、サイト管理者への仮処分の申し立てと、プロバイダへの開示訴訟の提起と、2回の裁判所への手続きが必要になるそう。
「逆に、すんなり任意開示に応じられるとイヤな予感が走ります。そういう場合は、漫画喫茶や企業、共用のネット回線を引いているマンションなど、契約者が投稿者でないことが明らかで、かつ、複数人で回線を共用していることが多いんです。
プロバイダはグローバルIPアドレスは管理していますが、組織内のローカルIPアドレスまでは管理していないので、プロバイダではその組織内の誰が投稿したのかわかりません。この場合、発信者を特定できない可能性が高くなるんです」