元AKB48の渡辺麻友が、今年の5月いっぱいで所属事務所との契約を終了し、芸能界を引退した。

 2006年の第三期AKB48追加オーディションに合格し、グループに加入、“神7”の1人として人気を博した“まゆゆ”。2012年にはグループ在籍中にソロデビューを果たし、2014年の『AKB48 37thシングル 選抜総選挙』では見事1位を獲得。2017年のNHK紅白歌合戦をもってグループを卒業し、その後は女優として活躍していた。

 とにかく“完璧なアイドル”というイメージが強く、恋愛スキャンダルも一切ない。つねに可愛らしくあり続けるその姿は、“アイドルサイボーグ”と形容されることもあった。

 健康上の理由での引退ということもあってか、今年に入ってからはメディア露出が激減し、いわゆる“引退コンサート”などもなかった。アイドル事情に詳しいフリーライターの大塚ナギサ氏はこう話す。

「お別れを言えなかったことについて寂しく思うファンもいたとは思います。しかし、メディアからいきなり消えたわけではなく、フェードアウトしていったということで、少しずつ現実を受け入れることができたというファンも少なくなかったはず。盛大に去っていくアイドルもいれば、静かに去っていくアイドルもいる。アイドルの引き際は人それぞれです。静かに第一線を退いたということでは、“あやや”こと松浦亜弥さんに通じるところもありますね」

 現在活動休止中の松浦亜弥は、2013年8月にw-inds.の橘慶太と結婚。その後、数回のライブを開催し、同年12月31日に行われたハロー!プロジェクトのカウントダウンコンサートを最後に芸能活動を休止している。

「松浦さんは2011年のデビュー10周年あたりから、徐々にファンの前に出ることが減っていきました。そして、子宮内膜症の診断を受けていたことを公表し、療養とプライベートを優先する生活に入っていったんです。そういった“助走”があったなかで、2013年に結婚し、そして活動休止となった。活動休止に向けた大々的なコンサートなどもなく、すごくあっさりとしたものでしたが、“助走”があったことで、ファンもそれなりの“覚悟”ができていたのかもしれません」(大塚氏)

 アイドルサイボーグの元祖と言われる松浦。ソロの女性アイドル歌手が少なかった2000年代前半において、一際輝きを放つ存在であった。

「昭和の女性アイドルから受け継がれる“ブリっ子”的な部分を再現しつつ、“プロフェッショナルなアイドル像”を作り上げたのが松浦さん。可愛らしさとコミカルさを兼ね備えたソロアイドルとして、のちのアイドルブームに与えた影響も大きいですね。それこそ“あやや”というニックネームにインスパイアされて、名前の後ろの文字を重ねたニックネームを付けるアイドルも少くない。“まゆゆ”もやはり“あややインスパイア”と言えるでしょう」(大塚氏)

 そんな2人のアイドルサイボーグが、ともに静かに去っていったというのも興味深い。大塚氏はこんな分析をする。

「松浦さんも渡辺さんも、やはりプロフェッショナルなアイドルだったというのは紛れもない事実だと思います。ファンの前ではつねに完璧な姿を見せるというタイプのアイドルです。

 しかし、体調の問題や私生活の変化などの影響もあり、自分が思い描く完璧なアイドルの姿を見せにくくなっていったのかもしれない。あるいは、アイドル活動のどこかで達成感を覚え、それ以上の姿を見せることができないと感じていたのかもしれない…。そういった状況のもとで、“完璧なアイドルの姿を見せられないのならば、ラストコンサートを開くよりも、静かに去っていく方が良い”と、判断したのではないかと想像します。

 これがもしも自然体の姿を見せていくタイプのアイドルであれば、変化しながら芸能活動を続けていた可能性も高かったでしょう。松浦さんも渡辺さんも、完璧を貫くアイドルだったがゆえの“静かな引き際”だったんだと思います」(大塚氏)

 アイドルとして頂点を極めた2人は、最後まで美学を貫いたのだ。