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電子ボリューム

どうも、丸津です。

 バイト先で、時々お客さんにオーディオ用の電子ボリュームが欲しいと言われます。そして、その度に残念ながらお取り扱いが無いとお伝えしています。
 電子ボリュームとは、可変抵抗みたいな機械的な部品を用いず、電子回路でもってアナログ的な信号の振幅を減衰させる回路や、そういった機能を持ったICの事です。
 電子ボリュームは機械的な精度などに依存しないので、左右のチャネルの音量差がばらつきにくいといった利点があります。

 電子ボリュームICはナショセミや東芝、新日本無線など各社から出ているのですが、性能・使いやすさ・価格をバランスよく満たすICが無いような気がします。あってもディスコンだったりします。

 検索してみても電子ボリューム自体を自作されているような記事は見当たらないようです。

 そこで、ディスクリートで制作できないか検討してみました。

i)利得を可変させるにはどうするのか
 これにはいろいろな方法があります。たとえば、オペアンプの負帰還の抵抗比をアナログスイッチで切り替える方法が一番わかり易いかと思います。ただし、この方法では、ボリュームの段階の数だけ抵抗比とスイッチを用意しなければなりません。しかも、切り替えタイミングではプツッっという音が入ってしまいます。
 他には、FETやトランジスタのバイアス点を変化させて利得を変化させる方法も考えられます。いわゆる、乗算器の基本動作です。今回はJ-FETを用いたこの方法でシミュレーションしてみます。

ii)FET選び
 回路の動作は、FETのソース設置増幅回路そのものです。しかも、ソース抵抗を入れない完全にオープンループな増幅なので歪が心配です。そのため、FETのゲートに入力する電圧振幅は非常に小さくして線形性を得ます。そのため高利得なFETを選ばなくてはなりません。
 そこで、低雑音かつgmの大きいFETで2SK170を選びました。Vランクならば30mSくらいが得られるようです(2SK30では2mS程度)。
 ただし、これのシミュレーションモデルは見つからなかったものの、2SK389が似たような特性であるようなのでこのモデルで代用します。ステレオで用いる場合は左右の特性が揃って欲しいので、2SK389のような2つのFETが同一ダイで作られたデュアルタイプの方がいいかもしれません。

iii)2SK389の静特性
 FETの静特性を調べてみます。Vgsをスイープさせた時のIdを見てみます。

  Vgs-Id曲線
  Vgs-Id曲線

 このグラフから、用いたモデルのIdssは11mA、gmは30mS程度であることが分かります。

iv)回路設計
 FETのゲートにかける振幅を抑えるため、入力を抵抗分圧させてゲートに接続します。ドレイン抵抗は増幅率を得るためには大きい方がいいものの、Idssが流れたときにクリップしないよう、ドレイン-ソース間に十分な電圧がかかるような抵抗値を設定します。ここでは電源電圧を12Vとし、Idssが11mAなのでドレイン-ソース間に1Vくらいかかるよう1kΩとしました。
 本来はFETが非飽和領域で十分動作するよう、4Vくらいかかるようにしたいところですが、電源電圧を実用的な範囲とし、あまり信号を減衰させたくないのでこのような値にしました。
 そして、ソース電圧を変化させることで利得を制御します。具体的には、Vs=0VのときFETの増幅率が最大になります。そこからVsを増加させるほど、Vgsは負にバイアスされていくので増幅率が下がっていきます。
 そして、設計した回路を以下に示します。

  回路図
  電子ボリューム回路図

 入力はラインレベルを想定し、2Vp-pです。そのままでは歪が起きるので-60dBのアッテネータを通してゲートに入力します。
 そして、FETで増幅した信号は直流成分を除去した後、非反転増幅(反転増幅だとインピーダンスを大きくとったときに帰還抵抗が大きくなりすぎる)のオペアンプで増幅し、出力されます。
 FETの利得Avは最大で、Av=gm*R=30m*1k=30倍です。辻褄を合わせるためにオペアンプでも30倍し、トータル60dBの利得になり、アッテネータの-60dBと相殺します。

v)シミュレーション結果
 Vsを0Vから1Vまで0.1V刻みで変化させたときのシミュレーション結果を示します。

  ボリューム出力
  電子ボリューム出力

 シミュレーションにより、ソース電圧を変化させることでアナログ信号の振幅を制御できることが確認出来ました。Vs=0Vのとき、振幅もだいたい2Vp-pが得られています。このとき歪率は0.01%でした。ちなみに、新日本無線の電子ボリュームNJW1159の歪率は最大で0.05%のようなので、十分なのではないでしょうか。

vi)考察
 ソース電圧はDACの出力とかを与えれば、をディスクリートでも電子ボリュームが作れることがわかったのですが、いくつか問題となりそうな点があります。
・アッテネータの減衰率、その後の増幅率が非常に大きい
 この電子ボリュームではアッテネータで-60dBしたのち、最大60dBの利得を持った増幅回路を通します。アッテネータの後ろでノイズが入ると出力には60dB増幅されたノイズが現れます。抵抗の熱雑音も無視し難いのであまり大きな値は使えません。とにかく、ノイズが心配です。
・FETのソース電圧は十分にインピーダンスが低くなければいけない
 FETはゲート電圧をドレイン(ソース)電流に変換する素子なので、入力が変化すればソース電流が変化します。その時にソース電圧が揺らいでしまうとまずいです。ある程度大きなコンデンサを抱かしたりする必要がありそうです。ただし、ここで作られる時定数を使えば、音量を変化させた時のプツッといったノイズを抑えられそうです。
・音量変化のカーブ
 音量を変化させるボリュームには普通Aカーブのボリュームを用いるはずですが、今回設計した電子ボリュームでは、ソース電圧のルートに比例して音量が変化します(gmはIdのルートに比例するため)。ということは、その曲線はCカーブのボリュームに近いということです。これについてはDACに渡す値にマイコン側で適当な伝達特性を持たせておく必要がありそうです。

vii)まとめ
 最近シミュレーションの記事ばかりなので実際に作って実験したいです。特に、ノイズの問題は実機で検証しないと実用できるのかが分かりません。

 つまり、机を片付けなければいけない、ということが分かりました。
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