韓国ソウル近郊にある松島(ソンド)国際新都市は、埋め立て地の上に超高層ビルが連なる未来都市だ。街なかにはごみ収集所がなく、ごみ収集車も走っていない。家庭ごみは地下道を通って、24時間自動的に収集センターへと運ばれるからだ。家にいながらオンライン上で教育や医療を受けられる遠隔教育、遠隔医療の導入も進んでいる。
スペインのバルセロナはWi-Fi(ワイファイ)を街なかに張りめぐらせ、センサーと組み合わせることで、さまざまな行政サービスをスマート化した。駐車場の満空状況をリアルタイムでスマートフォンから確認できる「スマートパーキング」や、路地の通行量を計測し街灯の明るさを制御する「スマートライティング」を導入。街中のごみ箱にもセンサーが付いており、重量を検知してごみの回収効率を高める「スマートガベージ」システムを構築した。
スーパーシティのアプローチは2つ
こうした世界の未来都市と比べると、日本は出遅れ感が否めない。あえてスーパーシティという新語を持ち出したのも、後発から巻き返しを図る狙いがある。国家戦略特区制度を活用して大胆な規制緩和を推し進め、住民と競争力のある企業が協力し、都市全体を丸ごとスマート化するという青写真で、世界最先端のデジタル都市の創出を狙う。
アプローチは2つある。更地から住民を集め、未来都市を築く「グリーンフィールド型(新規開発型)」と、活用済みの区画を未来都市に創り変える「ブラウンフィールド型(既存都市型)」だ。19年9月から自治体を対象にアイデアを公募し、20年5月8日時点でグリーンフィールド型が7、既存都市型が47の計54件の案が寄せられた。
トヨタ自動車が静岡県裾野市の工場跡地に整備する「Woven City(ウーブンシティ)」はグリーンフィールド型。トヨタという民間企業主導の開発となるため、上記の公募案には含まれていないが、まさに政府が目指すスーパーシティを体現した取り組みと言える(関連記事「トヨタが静岡に「つながる街」 豊田社長が語る未来都市【CES2020】」)。
鍵を握る「データ連携基盤」プライバシー侵害の懸念も
スーパーシティ構想の中核を担うのは、サービスの垣根を超えた「データ連携基盤」というプラットフォーム、いわゆる都市OSだ。行政手続きや物流、交通、観光、防災、社会福祉、教育、金融、環境保全など、さまざまなサービスで横断的にデータを収集、整理していく。このデータ連携基盤があれば、例えば、タクシーの配車予約と病院の通院予約を連携させることも容易にできる。
政府によると、このデータ連携基盤の有無がスーパーシティであるかどうかの一つの目安になるという。データ連携の際に重要となるのが、サービス同士を橋渡しするAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)。システムの乱立を防ぐため、このAPIを開示することが、スーパーシティ参画の条件となる。各都市のAPIは、内閣府がカタログ上で公開する予定だ。
今回、成立したスーパーシティ法案では、複数のサービスの規制改革を同時かつ一体的に進めていく手続きを定め、データ連携基盤の整備を担う事業者は国や自治体が持つデータの提供を求めることができるという規定を追加した。データの収集は住民の事前合意が前提となるが、個人情報を事業者に提供することはプライバシーの侵害と表裏一体で、トロントのように、住民の反発も予想される。
4月16日の衆院本会議では、野党の共同会派が「どの段階で住民の合意を得るのか」「サービスを希望しない住民は個別に情報提供を拒否できるのか」「知らない間に情報が提供されてしまわないか」など、法案審議では明らかにならなかった不透明な点が多々あると批判した。
スーパーシティ構想は、経済財政担当相や総務相を歴任した竹中平蔵氏が有識者会議の座長となり、検討を進めてきた。19年6月に大阪の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて「スーパ―シティ スマートシティフォーラム」を初開催し、同年8月にスーパーシティ構想に関する知見や技術を持つ企業がバーチャル出展するフェイスブック上のコミュニティー「スーパーシティ・オープンラボ」を発足した。オープンラボには大手企業を中心に95社・団体が名を連ねている(20年5月8日時点)。
政府は20年内にも複数の地域をスーパーシティの特区に選定する方針だ。縦割り行政と揶揄(やゆ)される現状を打破し、世界の最先端を走る未来都市は日本から生まれるか。
コメント2件
あめのもり
政府腹心のプロジェクト?
小林直樹
日経クロストレンド記者
果たしてスーパシティは舞い上がれるか?
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